第60話 造られた強さの代償
「何も聞いてないって言われても困りますわ。私たちは、何か言うような人間ではありませんから」
「とぼけんな!! サロメが【フェンリルの牙】と渡り合ったことは、聞いてんだよ! 普通の人間がそんなことできると思うか?」
ホホホと惚けて笑うクーシャさんに、アディが怒鳴る。
「嫌ですわね。そんなの魔法を使ったに決まってるじゃないですか。少し考えたら分かるでしょうに」
「へっ。そう言えば誤魔化せると思ってるんだろうがな、ユライは相手の魔法の使用回数が分かるんだよ」
「そうなの!?」
クーシャさん達の目が大きくなる。
手札看破はその名の通り手札を見抜く力。今も使用すればクーシャさん達の頭には魔法が見える。【フェンリルの牙】と渡り合ったサロメくんの頭上は、昨日と変わらず一枚だけだった。魔法の内容も昨日と同じ【身体能力強化】。
恐らく、サロメくんは一枚の魔法しか持っていない。
「……姉さん」
「ええ。驚いたわね。まさか、私と同じ能力を持ってる人がいたなんて」
今度は僕たちが目を丸くする番だった。クーシャさんも手札看破を持っているだって……? 僕だけだと思っていたのに。
「信じられないならあなた達の魔法の枚数を教えて上げますわよ? アディちゃんは5枚。ユライくんは――0枚!?」
手札看破は自分の魔法残数は視認できないから、あまり気にしていなかったが、どうやら【選択領域】で選ばない限り、魔法の枚数は表示されないらしい。
「……お前ら、一体なにもんだ?」
ロウの声が一気に低くなる。
ここまで警戒しているロウを見るのは初めてかも知れない。どんな魔物や相手と戦う時にも、どことなく余裕だったのに……。
「それはこっちの台詞ですわ。魔法が〇枚でありながら、先日は未知の魔法を持っていただなんて、あなたこそ一体、何者なのよ?」
互いに気になる点が浮上してきた。
このままパーティーを組んでいいものか。僕たちのことを警戒しているのか、サロメくんが鋭く睨む。
「分かったよ。魔法の真理について教えてやる。だから、お前らもその力をどこで手に入れたのか教えてくれ」
「ロウ!?」
今まで、頑なに魔法の真理について、話そうとしなかったのに、何故、急に話す気になったのか?
「アディは信用できるし、こいつらは異常だ。早めに情報を手に入れておいた方がいいと判断したんだよ」
ロウは声を潜めて魔法について話始めた。
「そう……だったの。魔物を倒せば低確率で魔法が手に入るのね」
「……だとしたら、俺も魔法を増やせるのか?」
僕と同じく魔法の使用回数が少なかったサロメくんの目が希望で満ちていく。同じ境遇になっていたので、気持ちは良く分かった。
「それで、こんどはお前達の番だ。お前らの力はどうやって手に入れた?」
「ヘドロみたいな男に貰ったと言えば、あなたは信用してくれるかしら?」
どういうことだ?
クーシャさんは深く椅子に座り直すと、大きく息を吸う。隣に座るサロメくんがカタカタと小刻みに震え出した。まるで、思い出すのが怖いみたいだ。
「私たちは腕のない冒険者だったわ。毎日、クリアできるクエストを探すのが精一杯な力のない冒険者。そんなある日のこと。私たちは出会ったの」
「ヘドロ男にか」
「ええ。彼は私たちに言ったわ。「普通の人間が辿り着けないステージに立たせてやる」とね。そして私たちは人体実験を受けた。なんだか良く分からないガスみたいなのを吸わされた。その結果――」
クーシャさんはゆっくりと瞳を閉じた。
「私は相手の魔法を見抜く目を。弟は魔物に近い肉体を手に入れたわ」
「人体実験か……。それで、その後ヘドロ男はどうなったのだ?」
「知らないわ。初めての成功例だと言って消えたわ――私たちに呪いを残してね」
「呪い……?」
ファサリ。
サロメくんとクーシャさんは服を下げて肩を露にする。背中から肩に掛けて蛇がうねるような傷跡が残されていた。
「これは……?」
「のろいよ。男は成功したと言ったけど、全然、成功じゃなかった。この傷は力を使えば伸びるし、何をしなくても伸びる。私たちの寿命を現わす砂時計とでも言えばいいかしら?」
「そんな……。治す方法はないの?」
「分からないですわ。だから、私たちは【選抜騎士】になって男を探したいの。ただ、力もあまり使いたくないから、腕の立つ人間をパーティーに招こうとしていたのですわ」
クーシャさん達ははだけた服を戻しながら、僕達に告げる。
「これが私たちの力の秘密ですわ。それでも良かったらパーティーを組んでくださらない?」
クーシャさんの言葉に、アディとロウが立ち上がった。二人は店の外に出ようと歩き出す。
「やっぱり駄目ですわよね」
パーティーは組みたくない。話は終わりだとクーシャさんは捉えているようだが、僕には二人の気持ちが良く分かる。
だから、駄目だというクーシャさんたちに教えてあげる。
「駄目じゃないと思いますよ? ほら」
僕が指差すと二人は同時に振り向く。
そして、声を揃えて言った。
「「早く【予選大会】に参加をするぞ」」




