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第56話 ギルドの受付嬢

「全く、無茶をするな。あのまま君が行動していたら、今度は君が処刑される可能性だってあったんだぞ?」

「ごめんなさい……。もしかしたら、罰を止めれるかもと張り切ってしまいました」


 衛兵によって、処刑場から追い出された僕たちは、近くにある木陰で休んでいた。衛兵の罰で盛り上がってるのか、歓声が聞こえてくる。

 結局、罰の執行を止めることはできなかった。


「ユライ、衛兵たちのことなら、気にすんな。あいつらが罪を犯したのも事実なんだからな」

「でも――」


 見せしめみたいに罰を公開する必要はないんじゃないか。人を痛めつけて喜ぶ狂気が、きっと誰かに感染して広がっていく。

 だから、こんな罰の与え方は間違っている気がする。


「だったら、尚更、【選抜騎士』にならないとな」


 ロウが僕を慰めるように、肩に登ると柔らかな肉球を頭に置いた。


「そうだよね……。ありがと、少し心が軽くなったよ」

「礼には及ばねぇよ。それに、裏切り者について分かったこともあるだろ? オストラだけ死んだことになってるなら、裏切り者はオストラの可能性が高いってわけだ」


 ピョンと肩から飛び降りると、地面に【占星の騎士団】の名前を刻んでいく。


「だけど、それだとプリスが助けに行った理由が分からないんだよね……」


 今、僕にできることは、【選抜騎士】になることと、スパイを探すことだ。

 落ち込んで足を止める余裕はない。


「好きだから、バニスを助けたかったってことかな?」


 可能性はある。だって、プリスとバニスは付き合っていたんだから。二人は隠す気もなくいつもイチャイチャしていた。宿に泊まるときは二人は必ず相部屋で、彼らが交わる声を何度聞いたか分からない。

 しかし、アディさんは二人の恋路を、「有り得ないな」と否定した。


「どうしてですか?」

「どうしてって、プリスはオストラを好いていたのだろう? 二人がバニスに隠れて合っているのを、私は何度も見たことがあるぞ?」


 プリスがオストラを好いていたなんて――、


「嘘……ですよね?」

「ここで嘘をついて私に何の得がある? 大体、パーティーにいた期間は長いんだ。君だって周知の事実じゃないのか?」

「……僕がいた時は、バニスに擦り寄ってたんですけどね?」

「……」

「……」


 アディさんと僕は言葉を飲みこむ。

 プリスのした行為に、何と言っていいのか分からなかったのだ。


「ようするに、最終テストで無様に負けてバニスに見切りを付けて、オストラに乗り換えたって話だろ? とんでもねぇことする女がいたもんだぜ」


 ロウが僕たちの気持ちを代弁してくれた。こういう時、遠慮せずに言葉を発せるロウが少し羨ましくなる。


「と、とにかくだ。【占星の騎士団】のパーティーは、全員生きているとみて良いだろう。となれば、やはり地位を手に入れて、オストラを誘い出し、バニス達を探す人員を確保した方がいいだろう」

「はい!」


 僕は勢いよく頷く。

 何をするにも【選抜騎士】になれば優位に動ける。目の前に掲げられた大きな目標を突き破るように歩き出すが――、


「ところで、【予選大会』の募集はどこでしてるのでしょうか?」


 ノゾミさんからは開催されることを聞いただけで、どこで受付などしているかまでは、話していなかった。


「そう言えば……知らないな。こういう時は、取り敢えずギルドに行けばいいのではないか?」


 確かにアディさんの言う通りだ。

 冒険者関連のことならば、大抵のことはギルドに行けば解決する。依頼から、報酬の受け渡し、パーティーメンバーの募集まで、その内容は様々だ。

 ならば、きっと【予選大会】の募集について、何か知っているに違いない。


 僕たちは熱狂に震える処刑場を背にギルドへ向かった。


「あれ、いつもより人が少ないね」


 ギルドはいつも冒険者達で賑わっている。

 時には喧嘩が発生することも少なくない。なのに、今日は殆んどの冒険者が姿を見せなかった。恐らく、冒険者たちもまた、衛兵の罰を楽しんでいるのだろう。

 依頼と言う形で仕事を押し付けられ、命を賭けて前線で戦う冒険者と、貴族達の安定した職として用意されるお飾りの衛兵。

 仲が悪くて当然だ。

 ギルドの中では、冒険者たちが少なくて暇を持て余してるのか、カウンターに肘をついて惚けている女性がいた。銀色の髪と赤縁眼鏡が特徴的な彼女は受付嬢のユーケット・ユーケージョさんだ。


「ユーケットさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

「いらっしゃい! て、これはまた、随分と珍しい組み合わだね! まさか、【占星の騎士団】を追放されたユライくんと、【炎の闘士】を裏切ったアディさんが一緒にいるなんてね」


 ユーケットさんは、街にいるほぼ全てのパーティーメンバーの顔と名前を把握している。それでいて、とても親し気で話しやすいことから、冒険者達から絶大な人気を誇っていた。

 彼女は僕たちの顔を見ると怪訝そうに顔を顰めた。


「ひょっとして、スパイって君たちのこと?」

「やっぱり、ユーケットさんなら、スパイについて知ってますよね……」


 神妙に頷く僕に、ユーケットさんは「冗談だよ、冗談」と笑って見せた。


「やだなー。スパイだなんている訳ないじゃない。バニスが言ってたって、見張りの衛兵達が言っていたらしんだけど、どっちかが、罪を軽くするために嘘付いてるんだよ」

「そうだったんですか……」


 スパイが居るという噂の発信源はバニスだったのか……。

 だとしたら、多くの人間は処刑されるバニスが、罪を擦りつけたくて架空の「スパイ」を生み出したと思われていても仕方がない。

 でも、バニスがそんなことを思い付くかな? 人に罪を擦り付けるのは得意だけど、ない罪を擦り付けれるほど頭の回る性格じゃないと思うんだよな……。


 スパイの真実がどちらにせよ、【予選大会】に参加しないことには始まらない。


「それで、僕たちは【予選大会】に参加したいのですが、どこで募集してるかユーケットさんは知ってますか?」

「勿論。受付はギルドでやってるからね!」

「本当ですか!? じゃあ、是非、お願いします」


 良かった。

 ギルドで手続きをしてくれるみたいだ。アディさんと顔を合わせて頷き合う。しかし、ユーケットさんから返ってきた言葉は意外なモノだった。


「それは出来ないわね」

「どうしてですか?」


 もしかして、僕たちが【選抜騎士】に指名されていたパーティーの元一員だからだろうか?

 しかし、理由はもっと単純なことだった。


「【予選大会】はパーティーじゃないと出られないのよ。だから、4人パーティーじゃないと参加はできないの」

「何故だ!? 別に腕の立つ者を補充するでもいいではないか!」

「さぁ? 私はそう指示されてるだけだから」


 アディさんの詰問に、ユーケットさんは肩を竦めた。


「そんな……どうしましょう。パーティーメンバーの募集ってないですか?」

「あるにはあるけど……あまり、オススメはしないわね。どんな人間かも分からない相手と組んで、【予選大会】に出るのはリスクしかないわ」

「構いません」


 出れないよりはマシだ。

 何としてでも参加しようとする僕の決意に、ユーケットさんは両肘を付いて楽しそうに笑った。


「本当に誰でもいいの?」

「勿論です」

「だったら、私がオススメのパーティーを紹介してあげるわ。彼女達も丁度二人なんだけど」

「それは助かります」


 数々の冒険者を見ているユーケットさんの目なら信頼できる。

 でも、なんでそんな人が、他のパーティーに入っていないのだろう?


「じゃあ、声かけておくから、明日、またギルドにおいでよ。ただ、二人揃って性格に難があるから――覚悟はしておいてよ?」



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