第55話 処刑場にて
柵で入れぬように囲われた円形の広場。
中心には鉄の板が置かれ、その上には二人の男が立っていた。鉄板の脇に備え付けらえた柱から伸びる縄は、二人の首に固く結ばれていた。
「この二人は、大罪人であるバニス・メントを逃がした。その責任を負って、『熱遊びの刑』に処す」
鉄板の前に立つ大臣が、観客に聞こえるように声を張る。
『熱遊びの刑』
それは彼らが立っている鉄板の下から炎を起こして、加熱する。当然、熱を帯びた鉄は高温となり、彼らの足裏を焼く。
高熱から逃げるために、子供が夢中で駆け回るみたいに足を動かす。だから、『熱遊びの刑』だ。
「それじゃあ、やってくれ」
大臣は隣に立っていた衛兵に指示を出す。炎を持っていないところをみると、魔法で炎を発生させるつもりなのだろう。
「待ってください!」
僕は声を張り上げるが、周囲の湧く声に妨害されて大臣の耳まで届かない。
このままじゃ、罰が始まってしまう。
こうなったら仕方がない、魔法を使って注目を集めるしかない。
「【選択領域】!!」
貴族が罪を受ける姿に熱気を帯びる声が静まる。身分も地位もない静寂。あるのは自身の持つ魔法の手札のみ。
正義と狂気が混ざり濁った空気は、僕は苦手だった。
「で、どうやってあそこまで行くんだ? 移動系の魔法は持ってないだろ?」
「それは手札を見てから考えるよ」
僕は6枚の魔法を見る。
【フェンリルの牙】【腕力強化《小》】
【爆発】【斬撃】
【反射の盾】【土石波】
「この中で一番、注目を集められそうなのは……【フェンリルの牙】か」
殆んどの人が知らない魔法。
それを発動すれば、きっと注目は集まるはず。【選択領域】を解除した僕は、即座に魔法を空に放つ。
「【フェンリルの牙】!!」
雲一つない空に、狼の口が現れた。人々の注目が頭上に反れたことを利用し、僕は腕力を強化して柵をよじ登る。
「貴様、何をしている!!」
柵に捕まる僕に気付いたのか、大臣が指差す。
隣に立つ衛兵の魔法が一枚消えた。
僕は柵から手を放して重力に従い落ちていく。とん、と地面に着地し、大臣にスパイが関わっていたことを告げる。
注目は僕に集まってる。
今なら、話を聞いて貰えるはずだ。
「大臣! 実は【占星の騎士団】にはスパイがいたんです。きっと、その仲間が脱走の手助けをした可能性があります! なので、彼らと話をさせてください!」
僕の声に大臣は声を張り上げて笑った。
「何がおかしいのですか?」
「面白いからに決まってるだろう? バニスがスパイをできるほど、賢いと思っているのか?」
「え……? 捕らえていたのはバニスだけですか?」
「ああ、そうだ。そしてバニスを助けに来たのは、【占星の騎士団】のメンバーであるプリスだ」
「そんな……」
「そして、この衛兵たちはプリスに誘惑されて、バニスを逃がす羽目になったのだ。貴族でなければ殺しておるわい」
バニスを助けたのがプリス。
確かに言葉だけを見れば、パーティーメンバーが、リーダーを助けるために駆けつけたと思う方が自然だろう。
「じゃあ、オストラは! オストラはどうしたんですか?」
一番、スパイの可能性が高いと踏んでいるオストラ。
彼はどうなったのだろうか。
「オストラは死んだとプリスが言っていたらしいぞ? どうせなら、全員、殺されてしまえば良かったのに……」
僕は大臣の言葉に愕然とする。
バニス
プリス
オストラ。
三人の内、二人が生きていたのだから、オストラが生きていても不思議ではない。むしろ、プリスを利用して、自分は死んだことにしたのではないか?
紳士然としたオストラは、人心掌握が上手い。
大事な場面でバニスやプリスは、オストラの指示に従っていた気がする。
「話はそれだけか? ならば、そやつを連れ出せ!!」
いつの間にやってきていたのか。
民衆を掻き分けて僕の元へとやってきた衛兵が、両脇を抱えて処刑場から引き離す。思考していた僕は、抗うことなく連行されるのだった。




