第54話 弱肉強食
「おい! 二人でなに話してたんだよ! クルルは遊び疲れて眠っちまったし、メイドは用件は伝えたと帰っちまったしで暇すぎたぜ!」
皆の元へ戻ると、砂浜の上でロウが一人で遊んでいた。僕たちの姿に気付いたのが、ロウが犬掻きをして近付いてきた。
船の上に乗ると、ぶるぶると身体を震わせる。
もしかして、一人で僕たちを待っていてくれたのか?
「ごめん。その……」
ロウにアディさんの隠していることを教えていいのだろうか?
アディさんを見ると、彼女は小さく頷き言う。
「ユライ君には、私が隠していたことを話したんだ」
アディさんの発言にロウは、僅かに眉を顰めた。
「そうか……、ま、お前がスパイってことはないと思うが……何か知ってたのか?」
ロウも僕と同じく、アディさんが隠しているのはスパイについてだと思っていた。
「ロウ、実は彼女が隠していたの、スパイとは関係ないことだったんだ?」
「はぁ? だったら、何を隠してたってんだよ」
「それは……」
僕はアディさんから聞いたことを話した。
バニス達のしたことを知ったロウは、嫌悪感を隠すことなく目付きを細めた。
「マジかよ。そんなことする人間がいんのかよ……。どんな魔物よりも恐ろしいじゃんか」
「僕もそう思うよ。だから、【選抜騎士】を目指そうかなって思うんだ」
肩書きのない人間がどれだけ叫んでも、それは獣の咆哮と同じで、ただの『音』でしかない。音から言葉へ進化させるには、立場も必要なんだ。そのチャンスが今の僕達にはある――【予選大会】だ。
「なるほど、そりゃいいな」
「今から急いで帰れば間に合うと思うから……すぐに帰ることになるんだけど、いいかな?」
「へっ。そんなの聞くまでもねぇ。俺は最初から【予選大会】とやらは、面白そうだと思ってたんだ! 参加するに決まってるだろ!!」
◇
「あれはなんだろう?」
ネメス諸島、港街を経由した僕らは、【二頭鯨】まで戻ってきていた。ここで槌臼と戦ったことが懐かしい。
そんなことを考えながら歩いていると、鎧の破片である岩石の隙間から、ヒラヒラと布のようなモノがはためいていた。
近付きよく見ると、岩石の下には赤い固着した血液のようなものがあった。
「こりゃ、槌臼に、誰かやられたな。中途半端な実力でここを通ろうとしたんだろ」
槌臼は、テリトリーに入ると攻撃的になる。高い防御力と攻撃力を持ち合わせてるため、厄介な魔物ではあるんだけど……。
「鎧や武器は見当たらないのが気になるな」
冒険者がここで潰されたのであれば、装備していた何かしらの破片が近くにあっても良い気がする。
身に着けていたのが服だけだなんて……。そんな軽装で【二頭鯨】を超えようとするだろうか?
「ふむ。私がノゾミと来た時は、こんなモノはなかったと思うが……?」
つまり、この数日で誰かが犠牲になったということだ。
僕は布地を挟んでいた岩石をどかして、血に塗れた服を掴んだ。
「俺達がこうならなくて良かったな。見ろよ、骨まで粉々だ……。で、その服を拾ってどうすんだ?」
魔物に敗北するとはこういうことだ。
常に危険と隣り合わせなのが冒険者。魔物と戦う以上、覚悟は必要だ。
だけど――、
「もしかしたら、この人にも家族がいるかも知れないから。最後の形見として持っておこうかなと思って」
「確かにその方がいいかもな、着ていた服は身元を判断する手掛かりになるかも知れないしよ」
掴んだ服を力強く握ると、アディさんが何か気付いたように、顔を近付けた。
「どうしたんですか?」
「いや、この服……」
地面に落ちていた服は二着。
まだ、僕が拾っていない方の服を、アディさんは掴み上げた。
「囚人が着ているモノにそっくりではないか?」
「言われてみれば、そんな気がしますけど……」
でも、囚人が脱走して【二頭鯨】まで、やってこれるのだろうか?
「ま、調べるにしても早く街に帰ろうぜ? しかし、まあ、こいつらも運が悪かったな。後、数日遅かったら、俺達がいたのによ」
◇
「なんだかいつもよりも、騒がしいな? 祭りでもやってるのか?」
数週間ぶりに戻ってきた街は、どことなく賑やかだった。
「それはそうだろう。【選抜騎士】に指名されていたパーティーは滅び、普段行われない【予選大会】なんて開催されるんだ。町全体が浮き足だっても仕方がないさ」
各国で行われる【選抜騎士大会】は、いつも人で賑わう。
「……いや、待て。そうでもないぞ?」
街を歩く人々に聞き耳を立てていたロウが、騒ぎの原因がそれだけでないことを突き止めた。
「処刑場で大罪を犯した人間が罰を受けるみたいだ……。バニス達を見張っていた衛兵だと」
「え、それってどういうこと?」
バニス達を見張っていた衛兵の処刑……!?
ちょっと待って!?
その噂が本当だとしたら、バニス達に何かあったということじゃないのか?
「どうやら、バニス達が脱走したらしい」
「バニス達が!?」
村を囮に生き延びたバニス達は、囚われていたようだ。
「そうか……彼らは囚われていたのか……」
「なんだ、お前は知らなかったのか?」
「私は応援を連れて戻った時に、村が滅んでいることに気付いた。そして、そのまま君たちの後を追ったから――バニス達がどうなったのかまでは、知らなかったんだ」
アディさんが村を出た直後、バニス達は発見されて、囚われていたと言う訳か。村を盾に使っただけでなく、脱走までするなんて――本当に酷すぎるよ。
「なるほどな。で、そのバニス達を逃がしたことで、衛兵が罰を受けるって訳か」
「確かに、それなら衛兵が罰を受けるのも納得ができる」
衛兵は基本的には貴族の出身であることが多い。彼らは特別な兵舎で訓練を受けて、特別な地位である衛兵の職につくのだが、実際は街を見回るだけ。
街の人々からは、その仕事ぶりから「貴族の散歩」と影で揶揄されていた。
「本来なら、処刑されてもおかしくないけど、貴族だから罰だけで済むのか」
それでも、貴族が大衆の前で罰を受ける光景など滅多に御目にかかれるものではない。この街の高揚は、「貴族が罰を受ける姿が見れる」からだ。
「バニス達が逃走したってことは、やっぱり、スパイが絡んでいるのかも知れませんね」
「可能性は高けぇな。もしかしたら、見張り達はスパイを見た可能性もある」
「だね!」
ともなれば、今直ぐにでも彼らに直接話を聞きに行きたい。隣国のスパイが絡んでいたのであれば、衛兵達の罰も軽くなるかも知れないし。
僕たちは急いで処刑場を目指した。




