第47話 魔法の全ては知り得ない
「さてと。そろそろ相手も待ってくれないみたいだし、戦いを始めるとするかよ。さっさと倒してクルルを助けるぞ!」
「うん! 行くよ!!」
僕は触手の一本に狙いを定めて矢を放つ。魔法も何も使用していない矢は、狙い通りに触手に当たる。
ブスッ。
触手に刺さりこそするが、巨大な肉塊にはダメージにもならないのか、矢が刺さったままの触手を僕目掛けて振り落とす。
「速い!!」
まるで柔軟性を持った丸太だ。真横に飛び込むように回避する。
ズゥン。
クラウケンシュタインの一撃は、島を揺るがすほどの威力を誇っていた。
「魔法を使ってないのに……!?」
そうだ。
上位種の魔物は理不尽な強さを持っているんだ。
「この感覚は久しぶりだ……」
攻防の度に自分の精神が削られていくみたいだ。
距離を取りながら、動きを観察する。2本の触手で僕を狙いながら、残った8本でロウを襲う。まるで触手一本一本が、意志を持ってるみたいだ。
「触手の根元に付いた目のお陰かも……」
この状況は、一対二だと思っていたがどうやら認識が甘かった。十対二で僕たちが振りだ。
「あぶねぇ!!」
三本の触手に意識を向けていた僕を、四本目が襲う。必ずしも決められた本数で戦ってくれるとは限らないのか!
ロウの叫びで蛇のように後方に伸びていた触手に気付いた。
「くっ!!」
咄嗟に身体を捻り触手を躱し、【選択領域】を開いた。
「ロウ、ありがとう!!」
「触手はある程度、自在に伸縮するから気を付けろ!!」
「うん!」
ロウに感謝しながら、手札に配置された6枚の魔法を確認する。
【強化の矢】【腕力強化《小》】
【斬撃【土石波】
【爆発】【三連火弾】
「流石に、貰ったばっかりの魔法進化は一発じゃこないよね」
今ある手札で戦っていくしかない。
この手札で一番攻撃力が高いのは【強化の矢】+【腕力強化】の魔法進化。強化していない矢でも刺さりはした。
強化すれば触手を破壊することができるはず!!
「魔法進化を使うけどいいよね?」
「ああ。上位種に様子見なんて言ってられねぇからな、得意の一撃をお見舞いしてやれ!」
「任せて!」
【選択領域】を解除した僕は、狙いを背後から襲ってきた触手に狙いを定める。
「いけぇ!」
シュルシュルと森を抜ける触手に矢を放つ。これだけ的が大きいんだ。当てることくらい簡単だ。赤いオーラを纏った矢が触手に突き刺さる。
パアン。
空気が破裂する音と共に触手の肉片が宙を舞った。
「よし!!」
【魔物園】で戦った擬態龍の鱗にはダメージを与えられなかったが、矢が刺さるクラウケンシュタインには効果があるようだ。
「あいつは一定のダメージを与えると腕が消えるんだ。この調子で残りの腕も壊してくぞ!」
「分かった!!」
普通の矢が効かないと分かれば、次に【選択領域】を開くまでの間、意識を防御に向けていればいい。
下手に手を出すより、ひたすら回避に専念する。
「くっ」
一本減らしたとはいえ、まだ残りは9本。複数の触手が絡まり合うように、複雑な軌道を描き僕に迫る。徐々に追い詰められていくが――、
「【選択領域】!!」
予定通り時間を稼ぐことには成功した。
時は止まり全ての動きは魔法の真理の元に固定される。激戦の合間に許される絶対的な安心の一時。
戦に置いてこの時間があることは非情に助かる。
二回目の手札。
【斬伸撃】【土石波】
【斬撃【土石波】
【爆発】【三連火弾】
「次は【土石波】と【三連火弾】で行こう」
ロウから教えて貰った魔法進化までは残り一枚。もう少しで揃うとはいえ、出来るだけ触手は減らしておきたい。
「魔法進化なしで、どこまで通用するか……」
【選択領域】を解除した僕に、頭上から触手が打ち付けられる。確かに速いけど止まった時間で攻撃は見えていたから余裕を持って躱せる。
ドスゥン。
何度目かの島を揺らす振動。
そして、この瞬間に隙が生まれることも、ここまでの戦いで分かっていた。
「今だ!」
地面に付いた腕に【土石波】を連続して繰り出す。
地面が盛り上がり、地面に波を創り出す。土と石で生み出された衝撃波が触手を貫く。
バチィン!!
腕の一本が破裂した。
「よし!! 二本目!」
魔法進化がなくても戦える。
「お次は【三連火弾】だ!!」
今度は僕から攻撃を仕掛ける。
弱点である人型の疑似餌を狙い三つの火弾を放つ。
ボボボン。
しかし、三つの炎は弱点に届くことなく触手に掻き消された。
「やっぱり、【三連火弾】じゃ駄目か!」
火属性は水に弱い。
それでも、元の威力が泡弾よりも高いので、多少の効果はあると思っていたが甘かった。
魔法を使い切った後は、ひたすら回避に専念する。
一ターンで破壊できる腕は一本。
つまり、最悪の場合は、後8回繰り返さなければいけないのか。
「おい、弱気になんかなってねぇよな!!」
ロウは触手を華麗に跳ねながら僕に発破をかける。
「言っておくが、今、クルルを助けられるとしたら、【魔眼】を持つお前だけだ。そのことだけは忘れんなよ!」
「あろがとう。これ以上ない励ましだよ!」
クルルさんを助ける為だ。あと何回同じことを繰り返そうとも、やり遂げるんだ。
「うおおおお!!」
それに触手の数も減らしてるじゃないか。
僕なら出来る。
倒せる!
自分に言い聞かせるように、ひたすら触手を避ける。攻撃を避けるたびに意識がより鋭くなっていくのを感じる。
視界に白い電撃が通り抜けていくみたいだ。
「【選択領域】!!」
【斬伸撃】【治癒】
【斬撃【腕力強化《小》】
【爆発】【強化の矢】
「よし、また【強化の矢】と【腕力強化《小》】が使える!」
この魔法進化で触手を破壊できるのは経験済みだ。
「うおおおぉ!」
雄叫びを上げて矢を放つ。魔法進化の赤いオーラが触手の一本を貫いた。
この調子なら勝てる。
そう思った矢先だった。クラウケンシュタインの頭に浮かんでいた魔法のマークが消えた。触手だけじゃ僕たちを倒せないと考えたのだろう。
「ロウ! 魔法が来るよ!」
「そろそろ来る頃だと思ったぜ!」
さあ、どんな魔法を使うんだ!
クラウケンシュタインの一挙一動を見逃さぬように、視線を向ける。すっと巨体が息を吸い込み膨らんでいく。
周囲の空気を取り込み、体内で得意な属性に変換するブレス系の魔法!!
ブレス系は範囲の広さが特徴。だが、広範囲と言えども全方位ではない。息を吸い込む数秒の予備動作。その間に背後に回ればいいだけのこと。
「ブレス系はなんども見てるんだ!」
火龍との戦いでも、雷龍との戦いでも躱してみせた。だから、今回も大丈夫だ。
そんな余裕を持っていた僕を嘲笑うように、
ボハァ。
360度。
全方位をカバーするように黒い吐息が吐き出された。島を支配する腐臭を濃縮させたようなブレス。
「こ、これは……!?」
咄嗟に後方に飛ぶが反応が遅れた。僅かに腐臭に満ちた空気に触れてしまった。
ガクン。
着地の衝撃に耐えきれずに思わず膝を付く。
「力が……入らない!?」
「これは【腐敗の吐息】!? 周囲に毒の籠った吐息を放ち、相手の力を奪う魔法! 毒龍が得意とする魔法なんだが、まさか、こいつが持ってるとはな……!!」
そんな……。
ブレス系で全方位を攻撃できる魔法があったなんて……!!
全ての魔法が知られてるわけじゃない。
船の上でロウと話していたことを思い出す。分かっていた筈なのに、自分は特別だと無意識に思い込んでしまっていたのかも知れない。
上位種との戦いは一瞬の判断の甘さが命取りだ。
力の抜けた僕に触手が迫る。
マズい。
このままじゃやられる。選択領域が開けるまで後一分。身体よ、動いてくれ!!




