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第43話 アディの妹

「そうですか……。折角でしたら、もう少しゆっくりして下さい――と、言いたいところなのですが、事情が事情ですからね。落ち着いたらまたいらして下さいな」


 唐突に予定を変更した僕達に対して、エミリさんは怒ることなく、いつもの上品な口調で微笑んだ。

 その隣でメイドさんが、「折角、仕事を教えていたのに……」と小さく呟いていたのだが、僕は聞かなかったことにした。


「はい。また、必ずお邪魔しますので、その時はよろしくお願いします」


 エミリさんの城を後にした僕たちは、無数の船が停泊している港を訪れた。

 ネメス諸島は海に囲われた島々。訪れるには船が必要だ。小さな船をレンタルし、船漕ぎを雇った。

 船に乗り込むと、自分の体重移動で船が揺れる。やがて、波と一体になり振り子みたいに揺れは落ち着いていく。


「アディさん、揺れるから気を付けてください!」


 僕は船に乗りやすいように手を伸ばすが、アディさんはその手を掴まず船の前で立ち尽くしていた。


「……すまない。私のために予定を変えてもらい、更にはお金まで貸してくれるだなんて……」

「そんな。お金のことは気にしないでください。どうせ、この旅で使用する予定だったんですから!」

「本人が返すって言ってんだから、返させりゃいいだろうが」


 小さな足を動かして、ロウが船に乗り込んだ。波の揺れをモノともしないあたり、流石、獣と言ったところか。


「ああ。絶対に返させてくれ」


 アディさんは、決意と共に僕の手を掴んだ。船の上は波に直接浮いているからだろうか。ザザザンと、波の音が近くに感じる。

 誰の手も介さずに響く自然の音色は、人も自然の一部だと言わんばかりに、僕たちを包んでいく。


「でも、ネメス諸島は簡単に入れますかね? その現在はあまり交友が上手く取れてないと聞きますが……?」

「その辺は大丈夫だ。色んな国から医者を呼べるように、ネメス諸島の先端、小さな島を買い取ったからな」

「島を買い取る……!?」


 それは貯金も出来ない訳だ。僕たちは船の上で色んな話をしながらネメス諸島を目指す。海は不思議だ。自然と心が高まり、会話が弾んでいく。

 アディさんは【炎の闘士】で、どんな魔物を倒しただとかそんな話をしていたのだが――ロウは一切会話に入ってこなかった。


「ロウ……大丈夫? 何かあったの?」


 ロウは船首の上で四足で立ちひたすら前を見つめていたのだ。起きていればどんんあ会話にも参加するロウが、黙って一点を見つめているだなんて珍しい。

 しかも、「へ、何がだ? 俺は普通だぞ?」と、明らかに動揺していた。


「嘘を吐くな。いつも君はワンワンと五月蠅いではないか?」

「そう……だったけかな? だったら、アレだ、船酔いだ」


 アディさんはロウの反応を見ようと少し意地悪い言葉を選択してくれたようだ。

 しかし、ロウは身体を丸めて顔を隠してしまった。


「本当に……どうしたんだ?」

「ですね。いつもなら一言、二言言い返すでしょうに」


 そもそも普通だと言った傍から、船酔いだと言うではないか。一体、体調はどっちなんだと気になるけど、本人が言いたくないならば、そっとしておこう。

 船で半日。

 太陽は沈み空はオレンジに輝いていた。


「船漕ぎさんを雇って良かった……」


 日々、船を漕ぐ技術。

 それに腕力強化など船を漕ぐのに必要な魔法を持っている。僕達だけで目指したら倍の時間が掛ったかもしれない。


「見えた。あれが私の島だ!!」


 夕日を浴びて煌びやかに緑が光る。森が太陽の光と混ざることなく斑模様に染まる。ゆっくりと、船を付け僕たちは島に降り立つ。


「着いたぞ」


 アディさんが購入した島は湿地帯に近かった。鬱蒼と木々が生い茂り、行く手を阻むように項垂れる。まるで自然の門番だ。

 アディさんは慣れた手つきで草木を掻き分けて島の中心を目指す。


「これが私の家だ」


 アディさんに案内された先は豪邸だった。

 島に似合わぬ外観。

 少し変わった形をしているが――城だろうか?


「ネメス諸島は文化が独特でな。内装は他と変わらないから安心してくれ」

「はい。それにしても島にこんな立派な建物が……。大変だったでしょうに」

「腕の良い職人たちを雇ったからな。少しでもいい環境で妹に過ごして欲しかったから」


 アディさんの家族を思う気持ちは美しい。


「お姉ちゃん!?」


 家の中心。一際大きな部屋の中心で妹さんは横になっていた。突然現れた姉に驚いたのだろう。慌てて身体を起こすが、それすらも痛むのか顔を歪めた。


「無理をするな。身体は良くなっていないだろ?」


 アディさんはそっと、おでこに手を触れると、優しく倒すように頭を撫でた。


「……。ごめんね。お姉ちゃんがお金を稼いでるのに、私は一向に身体が良くならなくて……」

「気にするな。どんな金額よりもお前が生きていることが幸せなんだから」

「へへへへ」


 アディさんの言葉に、嬉しそうに笑い布団で顔を隠した。


「お帰り、お姉ちゃん」

「ただいま――、クルル」

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