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第42話 次の目的地

「おーい。まだ、魔物を倒しに行かないのかよ?」

「だって、まだアディさんが仕事中だし……」

「別にあいついなくてもいいだろ? 俺達だけでも先行こうぜ?」


 翌日。

 僕たちは城の周囲を歩いていた。太陽はすっかり昇り港街を照らす。


「別に急ぐ旅じゃないんだから、待ってようよ。もうすぐ終わるって言っていたし」


 アディさんは朝から庭の手入れを行っている。本来は午前中までの予定だったのだが、真面目で律儀なアディさんは瞬く間に人気になったらしい。

 至る所で手伝いやお喋りに誘われていた。


「それに人と関わることでアディさんが「隠し事」を僕達に話してくれるかも知れないからさ。もうちょっと様子見てみようよ」

「たく、ユライは本当に甘いぜ。まあ、俺はその甘さが嫌いじゃ――」

「ユライくん。すまない!!」


 ロウが言葉を言い切る前に、アディさんが僕たちを呼んだ。


「アディさん。良かった、無事抜け出せたんですか……って、それは?」


 勢いよく走ってきたアディさんの手に、何やら紙が握られていた。嫌でも目に入る紙。僕が何かと問うと彼女は握る力を強めて答えた。

 

「ユライくん。ちょっとお願いがあるのだが……。旅の目的は魔物を倒すことと言っていた。ならば、拠点をネメス諸島に移して貰っても良いだろうか?」

「ネメス諸島って、この国と南方に位置する国の間にある島々のことですよね?」


 僕たちが暮らしている大陸は三つの国から成り立っている。

 僕たちが暮らすヒガスト国。

 北方に位置するキウス国。

 西に位置するニシェスト国。 

 そして、南方にある海を挟んで位置するミサウミ国。


 この4つの国で【選抜騎士大会】など行い、共に競い合い、特産品を輸出、輸入して暮らしている。

 アディさんの言うネメス諸島は、この国と南にあるミサウ国の間にある海に浮かぶ島々のことで、どこの国にも属さない中立国だから、独自の文化を持っている。


「でも、どうしてそこに……?」


 国と国の間にあるため、島々では争いが絶えなかった歴史がある。だからか、彼らはよその国の人間が立ち入るのを快く思っていない。

 小人数ではあるのだが、戦闘力が高く結束力が高いネメス諸島の人間はいつか使えるとどの国も静観しているのが現状だ。


 外部の人間にとっては危険とも言える場所に何の用があるのだろう?


「実は――私はネメス諸島の出身なんだ。そして、妹はまだそこで暮らしてるんだ」

「妹さんって確か、病気をしてるんでしたよね?」


 アディさんに妹がいることは、行動を共にするときに聞いていた。彼女の病気を治すために、莫大な資金が必要となりお金でパーティーに加入していたと。

 でも、まさか、ネメス諸島に住んでいたとは驚きだ。


「ああ。拠点を中心街からこの港街に変えたことを手紙で送っていたのだが――今日、返事が来たんだ。それで――妹は大変なことになってるらしいんだ」

「それは――早く近くに行ってあげないとマズイですよね」


 アディさんも心配だろうし、妹さんも近くに姉がいたら安心するはずだ。


「今直ぐにでも向かいましょうか」


 僕の目的は魔法集め。そんなのはどこでも出来る。

 二つ返事で目的地を変更した僕に、ロウが不満げに喉を鳴らした。


「おいおい。そんなの別に一人で行けばいいだろうが? なんで俺達がわざわざ一緒に行かなきゃ行けないんだよ」

「そ、それは――私が君を守るのは使命だからだ」


 アディさんは強い口調と共に僕の手を掴んで引き寄せる。グッと踊るように彼女の腕の中に引き寄せられた。まるで、女の子がぬいぐるみを大事に抱くみたいに、僕はアディさんの腕に収まっていた。


 ポフ、ポフン。


 柔らかな感触が胸に当たる。

 頬に当たる彼女の吐息が、艶やかな鈴虫の羽音みたいに擽る。


「私は君を守りたい。守らせて欲しいんだ」

「……」


 やっぱり、アディさんは僕を守ることに力を入れすぎている。

 力強く抱きしめるアディさんの足元で、ロウが呆れた口調と共に頭上に駆けあがった。


「たく。人前でイチャイチャしてんじゃねぇよ」


 ロウの言葉に冷静さを取り戻したのか、アディさんが慌てて僕を放した。


「わ、私は何もそんなつもりがあって、抱きしめたわけでは……! ただ、ユライくんを守りたいと!!」

「本当かなぁ~? ま、面白いモンが見れたから特別に付き合ってやるか。で、妹さんってのはどんな症状の病気なんだ?」

「それが身体のあちこちに青白い斑点みたいなモノが浮かび上がるんだ。それが現れたり消えたりを繰り返す。酷い時は目に見えて斑点の点滅が分かるんだ」


 その言葉を聞いた途端、ロウの目が鋭く光る。


「そっか。魔法がアレだから、まだ……」


 ぶつぶつと呟くロウの姿は珍しい。考えるよりも何でも口にする性格だと思っていたから、この姿は新鮮だった。


「ロウ、どうしたの?」


 僕の問いかけにロウは小さく頭を振った。


「あーいや、なんでもない。行くと決まれば早く行こうぜ?」

「すまない、私の我儘で……」

「気にしないでください。困ったときはお互い様ですから」


 僕たちは次の目的地をネメス諸島に決めたのだった。

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