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第40話 【魔軍】

「本当に、あなたには感謝しても仕切れないです!」


 意識を失った擬態龍ぎたいりゅうを、何とか檻に閉じ込めた僕達の元へ、魔物園の責任者である初老の男性がやってきた。

 彼は今回の事件を引き起こした黒服の男を捕らえ、何度も僕に頭を下げる。


「何度も頭を下げないで下さい。皆さん無事だったんですから」


 幸いなことに大怪我を負った飼育員さんはいなかったらしい。


「それもあなた様のお陰だと聞いております。私一人だけでは……助けられませんでした」


 責任者である彼は、なんでも数十年前、【選抜騎士】に選ばれたことのある凄腕の冒険者だったらしい。だから、こうして色んな魔物を捕らえ、飼育できているのだろう。


 互いに頭を下げ合う僕と責任者に、捕らえられた黒服が吠える。


「黙れぇ! お前達が助けたのは人間だけだ! そいつらを助けるために魔物を犠牲にしてることを忘れるな!! お前らは結局、命を殺してるんだよ!!」


 縄に縛られた状態でも強きな態度。

 人が魔物を飼育することに反感を抱く彼は一体、何者なんだろうか?


「一体、お前に何があったんだ? 急に仕事を辞めたと思ったら、こんな事件を巻き起こすなんて……」

「えっと、この人とお知り合いですか?」

「はい。こいつは私が後継者として目を掛けていた飼育員だったんです。しかし、数か月前、何も言わずに園を去ったのですが……」

「なるほど。だから、ここまで手際良かったんですね」


 内部を知る人間だったからこそ、可能だった犯行手口だったわけだ。


「でも、なんでそんな人が事件を……?」


 僕の問いかけに、黒服は「ニィ」と口角を歪めた。


「俺は気付いたんだよ! 魔物こそが頂点に立つ存在。今はまだ、人間の下に甘んじてるだけだってな。そのことを一足先に教えてやろうとしたんだよ!」

「魔物が人の上に……立つ」


 魔物は脅威だ。

 だから、ギルドが在って、クエストを受けて魔物を討伐したり追い払う。だが、それでも人と魔物。どちらの領地が多いかと言われれば、圧倒的に人の方が多い。


「いずれ、魔物が人間を狩る時代がくる。無暗に命を奪ったことを悔いるのはお前らだ!!」

「悔いるのはお前だろうが!!」


 黒服の叫びに、真っ先に反応したのはロウだった。

 男の前でグルルと呻る。


「確かに人より魔物の方が優れてることもある。けどな、お前のやり方は間違ってんだ。お前のせいで人も魔物も危険に晒された。不要な犠牲を出したら、どんだけ高尚な理想だって、下劣に成り下がるんだ」


 ロウの言葉に、黒服の男は呼吸を荒くして顔を赤らめる。

 誰が見ても分かる露骨な怒り。

 ふつふつと身体の中で急激に煮え滾った怒りが、煙となって呼吸によって吐き出される。


「ま、魔物風情がぁ。俺に命令するな」

「へっ。結局お前が一番、魔物を下に見てんだよ。俺達は必要だったら自分達で戦うさ。てめぇみたいな雑魚に頼らなくてもな」

「ふざけんなぁ!!」


 黒服が上半身を縄に縛られたまま、怒りのままに暴れようとする。見かねた責任者が魔法――【斬撃】を発動し、黒服の意識を奪った。





 やがて、国に使える騎士達が現れ、男を連行していった。意識を取り戻した黒服は、「魔物風情がぁ! 俺は絶対にお前を殺すからなぁ!」と、ひたすらにロウを憎み去っていった。


「あいつ、魔物の為にこの事件を引き起こしたんだよな?」

「そう言ってたけど……」


 目的を見失った黒服は、きっと国の裁きを受けることになるだろう。連行された黒服を見届けた僕達に、責任者が騎士から聞いたであろう情報を教えてくれた。


「なんでも、今回の一件は【魔軍】たる組織が起こしたらしいです」

「【魔軍】……?」


 初めて聞く名前だ。ロウも聞いたことないのか同じく首を傾げていた。


「私も始めて聞いたのですが、騎士曰く、『人が魔物の上に立つのではない。魔物が人の上に立つべきだ』。という思想の持った組織らしいです」

「言ってることは同じだな」

「なんでも、そう言った輩が他の街でも事件を巻き起こしているらしくて……。【選抜騎士大会】も近いのに忙しいと騎士達も嘆いていました」


 問題を巻き起こす組織がこのタイミングで動き出した。

 もしかしたら、騎士たちが忙しいのを見越してのことかも知れない。


「でも、なんでそんなことを俺達に教えてるんだ? 騎士たちは聞かれたくなくて俺達を遠ざけてたんだろ?」


 責任者が騎士と話している間、僕たちは離れているように指示されていたのだ。それは話を聞かれたくないからだったのだろうが――。


「あなた達は優しい冒険者です。もしかしたら、今後とも【魔軍】に襲われている人々を助けてくれる気がしたのです」


 責任者である男は、僕達に茶目っ気を含んだ少年のような笑みを浮かべた。


「どうか、もし出会うことがあったら、【魔軍】の手から、他の人たちも助けて上げてください」

「はぁ。そんなこと言われるまでもねぇよ。ユライは相手が【魔軍】だろうがなんだろうが、困ってる奴がいたら放って置かないさ」

「もう、ロウってば!」


【魔軍】と呼ばれる新たな脅威を知った僕たちは、【魔物園】から去っていった。

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