第37話 全部自分で話しちゃった
「あぶねぇ!」
【選択領域】を開こうとすると同時に、ロウが体当たりで僕を押した。身体が一歩ズレたお陰で風弾は脇を抜ける。
「フェンリルが助けたか。可哀そうに……。良いように利用されちまってよ」
「残念だが、俺は利用なんかされてねぇよ! ユライ、油断すんな!」
「ロウには言われたくないよ!! さっきまで、「良い奴かも!?」なんて言ってたくせに……」
「そ、それは……。そう、フェンリルの余裕ってヤツだ!! いいから、常に手札看破は発動してろよ!」
「分かってるってば!!」
ロウの言葉に頷き、意識を瞳に集中させる。「ギュン」と視界が鋭く一点に狭まっていく。
手札看破を発動したことで、男の頭上に魔法が浮かび上がる。
枚数は三枚。
斬数は一枚じゃないから、使用する魔法までは見抜けないか……。それにしても、4枚も魔法を持つなんて、かなりの腕が立つ。
なのに、なんでこんな事件を起こしてるのだろうか?
なにより、相手は人間に躊躇ないなく魔法を放てる男。
さっきは間違いなく僕を殺しにきた。痛めつけられることには慣れてるけど、人から殺意を向けられるのは初めてだ。
ドクドクと心臓が早まる。
「ユライ、余計なことは考えんなよ? 相手が魔物だろうが人間だろうが、お前が出来ることは限られてんだからな」
「う、うん」
興奮か恐怖か分からない鼓動が、ロウの言葉で少しだけ落ち着きを取り戻した。
そうだ。
魔法の枚数が多くても、ロウから貰った力があれば切り抜けられる。
「ほう。良い面構えだ。だが、次はどうかな? 今度は【脚力強化《中》】で、俺自身が加速し、【斬撃波】を二発繰り出す最速の攻撃だぁ!」
手札看破などしなくとも、男は自分の持つ魔法を全て教えてくれた。
相手に手の内をバラすことは愚かなことこの上ないが、きっと自信があるんだ。最速の攻撃を防がれない自信が。
「……」
【脚力強化】
それは、僕が持つ【腕力強化】と同系統の魔法。身体の下半身に込められる力が倍増し、主に移動スピードが増加する。
高速で接近されたら厄介だけど――
「ほぉら、行くぞ行くぞ、行くぞぉ!」
男はゆらゆらと身体を、風になびく布地みたいに揺らす。そうすることで、いつ僕に近付くのか分からなくしているのだろう。
でも、僕はまだ彼が責めてこないのが分かる。
だって、頭の上に浮かぶ魔法は一枚も減っていないんだから。
「さーて、どのタイミングで殺そうかなぁ? まだかな、もう行こう――かな?」
ひゅっと。
男の頭上に浮かんでいた魔法が一枚消えた。
男は不意を着いたつもりなのか、言葉の途中で魔法を発動する。どんな魔法か分からなければ、もう少し様子見が必要だけど――。
「【選択領域】!!」
強化された脚力で一直線に駆ける男。どうやら扱う魔法について嘘は付いていないようだ。
「こいつ……馬鹿だな」
ロウが馬鹿正直に魔法を教えた男に呆れていた。
「面倒だから、さっさと倒して【擬態龍】を探しに行くぞ」
「うん」
まだ、解決すべきことはある。こんなところで時間を消費するわけには行かない。僕は表示された手札から一枚を選択する。
「よし!」
領域を解除すると、男が僕の真正面に現れニヤリと笑う。
「喰らえ!!」
男が放つのは【斬撃波】。発生タイムが早い範囲技。間合いが短い弱点を【脚力強化】で補う戦法は、確かに効果的だ。
勿論、自分から相手にバラさなければだけど。
キィン。
魔法によって生み出された斬撃が、僕の魔法で弾かれる。
衝撃を受けた盾から、衝撃波が生み出された。
「ぐ、グハァッ! こ、これは……!?」
「【反射の盾】。防御系で使いどころが難しいんだけど――持ってて良かったよ」
手に入れてはいたけど、使う機会に恵まれていた魔法が役に立った。【反射の盾】は、魔法で盾を生み出し、受けた衝撃をそのまま放出するカウンター技。
「自分から飛び込んでくるって分かってれば、対応は出来るよね」
正面から、自分の魔法の威力を受けた男は「ガクン」と膝を付いて地面に倒れた。
「ひゅう~。かっけー」
ロウが口笛を拭いて手を叩く。
「今回は相手が全部話してくれたから助かっただけだよ。そんなことより、何か拘束できるものを探そう」
意識を失っているとはいえ、事件と関係をしている人だ。このまま放置するわけにはいかない。
ロウが近くにあった蔦を千切り僕に渡す。
「ありがと。なんでこんなことをしたのかとか、また後で話を聞かせて貰おう!」
次は【擬態龍】を探さないと!!




