第33話 二人の『二人の関係』
「ユライさんはこの後、どうするおつもりですか?」
食事を終えた頃、エミリさんが上品な微笑みと共に語りかけた。結局、食事を終えるまでにアディさんとノゾミさんが戻ってくることはなかった。
「この後のことだぁ? 幸せ過ぎてなんも考えられねぇよ!」
ロウは膨れたお腹を天に晒し、舌を出して横になる。その姿はフェンリルには見えない。昼間から酒屋に入りびたる中年男性みたいだ。
でも、まあ、たまにはそんな日が合ってもいいかも知れない。僕はロウを微笑ましく見ながらエミリさんの質問に答えた。
「しばらくは、この街を拠点に活動してみようかと思います」
「あら。それはそれは。もしよろしければ、この城の部屋をいくつかお貸し致しますが如何でしょうか?」
「いいんですか!?」
「勿論。なんならば――ずっと居てくれてもいいのですよ?」
あれ?
エミリさんの頬ってこんな赤かったかな?きっと、お腹が一杯で血流が良くなっているんだろう。
僕もなんだか眠たくなってきたし。
「流石にずっとは無理ですけど、助かります」
この街では、これまでクエストを受けて貯めた資金を使って、宿に泊ろうかと考えていた。最初は貯金を錐愚図しながら、この街にあるギルドでクエストを受けようと思っていた。
けど、宿泊費が掛らないなら、しばらくは、自由に魔物を探し回れる。こちらとしても願ってもない提案だった。
「このあたりの魔物はどんな魔法を持ってるんだろう?」
海が近いから、きっと、水属性の魔法が沢山手に入ることだろう。水属性の強力な魔法を手に入れらたら、今度は北にある火山地帯に挑める。
「なんて、ちょっと先を考えすぎか」
でも、こんなに先のことが楽しみに思うなんて、冒険者になってから初めてだな。
「どうだ! 私の方が一匹多く魔物を倒したぞ?」
「ですから、あなたの方が先に戦ってたのですから、多いのは当然。むしろ、一匹差に縮めた私を褒めるべきです」
ボロボロと岩や泥を零しながら二人の女性が現れた。アディさんとノゾミさんだった。身体は汚れてはいるが、大きな怪我を折っていないらしく、身体を互いにぶつけ合っている。当たっては弾けてを繰り返す二人はまるで独楽みたいだ。そんな二人の様子をエミリさんは「まあまあ」と楽しそうに眺めていた。
二人を止める気はないらしい。ロウは既に眠りに入ってるし……。
「とにかく、二人とも無事で良かったです。アディさんも食事を貰って、ゆっくり休みましょ。ここに泊めてくれるみたいなので」
「ど、どうしてですか!」
僕の言葉に驚いたのはアディさんではなく、この屋敷のメイドであるノゾミさんだった。
「どうしてと言われても、ユライさんは恩人ですし……。それに、この城は部屋だけは沢山余ってますから、ちょうどいいかなと思いまして。何か不都合でもありますから?」
にっこり。
上品な笑顔なんだけど、凄い怖いぞ?
「い、いえ。不都合はありません。失礼な発言を申し訳ありません」
ノゾミさんは、すっと身を退き姿勢を正した。強いと言っていたノゾミさんを笑顔だけで従えるエミリさん。彼女たちの関係も複雑そうだ。
僕とアディさんの関係が複雑であるように。
「……美味しい! こんな美味い料理初めてだ。そこのメイドも食べてみたらどうだ? こんな料理、食べたことないだろう」
沈黙した空気を壊すように、アディさんが食事を平らげた。
指名したメイドは当然、ノゾミさんで――。
鎮火した炎が再び燃え上る。
「食べたことあるに決まってます。大体、それ作ったの私ですからね!」
「……言われてみれば、そんなに美味しくなかったかも。食べる手が全然進まなかった」
「目の前に空の皿を並べてる人に言われても、説得力はありません!」
言い合う二人に、エミリさんと僕は顔を見合わせて笑った。
アディさん。なんだかんだ言いながら、ノゾミさんのことを認めているんだな。
「全くこんな五月蠅いメイドがいる場で毎日過ごすのは苦痛だ。ユライ君。やはり、宿を取るべきではないか?」
「え、えっと……」
僕はエミリさんみたいに笑顔で人をけん制する力はない。試しに笑ってみたんだけど、アディさんもノゾミさんも、さりげなく目を逸らした。
は、恥ずかしい。
エミリさんの真似した痛い奴になっているではないか。
二人が帰ってきてから2度目の沈黙。
しかし、残念なことに僕を助けてくれる声はなかった。
「むにゃむにゃ、やめろ、俺は豚じゃねぇ。丸焼きにするな~」
なんて、ロウの情けない寝言が聞こえてくるだけだった。
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