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第31話 裏切り者が重ねる身体 【追放Side オストラ視点】

◇オストラ視点


「オストラ、ちょっとどうしたのよ。今日は凄い激しかったけど……」


 ベッドの上。隣で寝転ぶプリスが甘えた声で擦り寄ってきた。相変わらず、この女は自分がどの立場なのか、分かっていないみたいです。私の彼女とでも勘違いしているのでしょうが、こっちとしてはそんな気は毛頭ありません。

 身体がいいから生かしているだけのこと。その体にも飽きてきた今、彼女を生かしておく理由はありません。


「が……、どうやら、まだ使い道はありそうですね」


 何故ならば、バニスが生きていると知ったから。まさか、私が完璧に嵌め殺したと思った相手が生きていたなんて……。完璧に任務をこなすスパイとしては、あるまじき失態です。ミスを噛み殺すように指を噛む。

 自分でも苛立っているのが分かります。だが、隣で横になる女は気付いていないのか、


「なに? なんか言った?」


 間抜けた顔で聞いてきます。人より優れているのは身体と尻軽さだけの女。五月蠅いと紅潮した頬を殴りたくなりますが、辛うじて停止できました。。

 まだ、彼女は使えるんですから、ここで感情に任せて関係を拗らせるのは馬鹿のすること。

 私は精一杯、悲し気な表情を作ってみせます。


「はい。実は……噂で聞いたのですが、バニスが生きていたらしいんです」

「嘘、あの状況で!?」


 プリスは噂を聞いていないのか、間抜けな顔を、更に間抜けに破顔させます。しかし、驚くのは無理もないでしょう。

 両足を切り裂かれた状態で、背後にはリベリオーガ。残虐性の高い魔物を前に生きていられるなど、誰が思いましょうか。


「運だけは一流みたいですね……」


 幸いなことにバニスは私の思惑通り、村を滅ぼした犯人にされたみたいです。そうなった時点で、彼の言うことなど誰も信用しないとは思いますが……。


 万が一の可能性もありますからね。現に今だって失敗しています。今回は徹底的に可能性を潰した方がいいでしょう。

 私が生きていると知る人間を全員殺さなければ。私が隣国が滅ぼすために送り込まれたスパイだと知られたら大問題ですからね。


「なので、今度こそ彼を始末しないといけないんですが、厄介なことに牢獄に囚われているみたいでして……」

「そうなんだね。でも、捕まってるならその内、処刑されるんじゃないかな」


 呑気な女に、今度こそ手が出るところでした。

 私の話を聞いていたのでしょうか? しかし、暴力でしか支配できない人間は三流だと自分に言い聞かせます。

 それを身を持って証明してくれたのがバニスです。彼と一緒の立場になるなんて、私は嫌です。

 怒りからでしょうか。唾液が固形のように飲み込み辛い。素数を数え気を落ち着け、丁寧に尻軽女に説明します。

「勿論、処刑は免れないと思います。しかし、処刑までには日数は設けられるでしょう。大罪を犯したからこそ、多くの民衆に晒上げるために。その間に私の話をされたら困るんですよ。私の立場がバレたら、こうやって二人で過ごせなくなるんですよ?」

「嘘! それは困る。どうすればいいの!?」


 やはり、尻が軽い人間は頭も軽い。こういう女ほど扱い易いですよね。隣に立つ男こそが自分のステータスだと勘違いしている女。

 本当に……哀れです。

 哀れついでに、最後まで利用してあげましょうか。私は布団から立ち上がり、髪を掻き揚げ軽く頭を抱えます。


「バニスを……殺すしかないでしょうね」

「で、でも、今、牢獄にいるんだよね? そこで殺すとか無理じゃないかな!?」


 安心しました。

 ここも理解できなかったらどうしようかと……。


「ですから、あなたに力を貸して欲しいんですよ。私に強力してくれますか?」

「何言ってるのよ。オストラのためなら何でもするわ!」

「本当にあなたは良い人ですね」


 都合が良い人ですけどね。上半身を隠すように布団を抱えたプリスの額に、そっと唇を当てます。

 これで命令を聞くなんて、効率がいいですよね。私は自分が思い描く図を一から展開していきます。


「まあなたには牢獄に行き、バニスを脱獄させて欲しいんです。そして、私の元へ連れてきてください」

「え……、私一人で?」

「はい。決して私の名は出さずに、死んだことにして下さい。自分だけは何とか逃げ伸びたと嘘をお願いします」

「それは構わないけど、一番肝心なところはどうするの?」


 脱獄するためには、まず、潜入すること必要がある。大罪人を捉えた牢獄。見張り達もそれなりの力量を持つ騎士が請け負うことでしょう。

 正面から挑んだら、プリスは勝てない。

 ですから――、


「あなたの身体を使うんです。色仕掛けを使えば潜入など簡単だと思います」

「ちょ、ちょっと待ってオストラ! それって私が見張りと身体を重ねろって言ってるの?」

「……違う意味に聞こえました? だとしたら御免なさい。分かりやすく言いますね? 見張りとヤってください」


 私の言葉にプリスは瞳に涙を溜めます。

 はぁ。彼女とは長く遊び過ぎましたね。

 これは次回の反省点にするとしましょう。どうやって彼女をその気にさせましょうか。こうなったら、ここまで増大した好意を逆手に取ってみましょうか。


「本当なら私だって、プリスが他の男に触れるなんて考えられません。しかし、このままでは、私はあなたと離れ離れになるかも知れません。将来を――誓おうと思っていたのに」


 将来という言葉に、白濁とした泉の中心に浮かぶ桃色の眼が、力強く輝いたことを私は見逃しません。

 しっかりと、針にかかってくれたみたいですね。

 彼女はゆっくりと、魚のように口を動かし、私に真意を確認する。


「そ、それってわ、私と結婚するってことなの?」

「ああ、もう!!」


 私は大袈裟に髪を掻きむしり、背を向ける。

 こんな状況で伝えたくなかったと演出するために。喉元まで針が突き刺さったプリスは、私の背中に強く強く抱き着きます。


「分かった。私、やる! オストラとずっと一緒にいるためだものね。一回くらい我慢できるわ!」

「ほ、本当ですか!? 私のためにそこまでしてくれるなんて――私の奥さんはなんて良い人なんでしょうか!!」

「お、奥さんだなんて、気が早いよぉ!!」


 あー、馬鹿で良かった。

 お前を一人で向かわせるのは、罪を被せるために決まってんだろ。バニスと同じ手口なのに信じていないとか、笑わせてくれる。

 やっぱり、自分は特別だと思ってんだな。

 私は言葉ではなく態度で応じる振りをします。プリスと向き合い優しく抱きしめます。飽きた相手を抱くのは気乗りしませんが、ここは我慢です。

 そのままそっとベッドに押し倒し、唇を重ねていく。


「あ、ああん♡」


 甘ったるい声が身体の下で響きます。

 さてと。

 どうやって馬鹿な二人を殺しましょうか?

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