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第30話 天才は牢獄でも耐え忍ぶぜ? 【追放Side】

「くそぉ! 出せ! 俺を誰だと思ってる! 【選抜騎士】に選ばれたバニス=メント様だぞぉ!」


 牢屋の中。日の当たらぬジメジメとした空間が、オストラに斬られた足に、鈍い痛みを与える。俺は失った足首を庇うように膝で歩く。

 俺を閉じ込める鉄格子を掴み、前に立つ二人の見張りに訴える。

 

 俺は天才なんだ。

 こんな薄暗い牢屋に閉じ込められる人間じゃないと。だが、見張りは俺の言葉に顔を見合わせ笑うだけ。俺の方など見向きもしなかった。


「くそ、この足さえあれば、逃げ出せるのに!!」


 こんな奴ら、俺が本気を出せば余裕で倒せるんだ。だが、足を失い、首には輪が付けられている。

 こんな奴隷みたいな格好してるのも、こ全てオストラが俺を騙したからだ……!


 そうだ。

 そのことをこの馬鹿どもに教えてやりゃいいんだ。村に逃げたのもオストラで、リベリオーガの討伐に失敗したのも、あいつが邪魔をしたからだ。


「おい! お前らに良い事を教えてやる。俺の足を切り落とし、責任を擦り付けたのはオストラだ。あいつは隣国のスパイで、【選抜騎士】のパーティーを崩壊させることが目的なんだ。オストラは今も生きてるんだ。捕まえて真実を吐かせれば、お前達は国の英雄だ!」


 ここで見張りをずっとしたところで、一生の一生の稼ぎはたかが知れてる。だったら、裏切り者を捕まえ、国から感謝され続ける人生の方が楽しいだろう?

 しかし、俺の言葉に見張りは反応しない。


「くそっ! なんで動かない。だから、お前らは見張りなんてやってる馬鹿なんだ!」


 見張りをやっていると言うことは、国に使える衛兵だ。

 衛兵は一般的に貴族の息子など、選ばれた人間が所属する。兵舎で戦う技術を学び、高度な戦闘能力を保持すると謳っているが、実際、そんなことはない。


 俺達、冒険者を利用して、自分達の仕事まで「依頼」という形で達成させる。

 街の外で繁殖した魔物の討伐。

 街で起きたトラブルなどもだ。


 要するに、衛兵はお偉方の怠け者集団。そんな奴らが、常に冒険者として、死線を潜り抜けてきた俺の意見など、聞き入れる訳もないか。

 平和ボケしたお坊ちゃまに、俺の凄さは伝わらない。


 苛立ちの言葉を吐くと同時に、見張りの一人が槍を突き出した。


 ザクッ。


 脇腹に鋭い刃が刺さる。刃を伝うように血が流れた。


「ハッ……。お、お前、いきなり何をしてるんだ?」


 躊躇いなく、人の身体を刺すなんて……こいつ狂ってるんじゃないのか?

 そう言えば、聞いたことがある。

 見張りに配属される衛兵は、貴族の中でも問題を抱えた狂暴な人間たちだと……。思い出した情報と、脇腹の痛みに血の気が引く。


「本物の馬鹿が勘違いしているようだから、教えてやってるだけだ。俺は貴族でお前は冒険者。生まれた時から地位が違うんだよ!」


 シュウウ。


 槍を抜き、手を翳す。

 すると、俺の裂かれた脇腹が一瞬の内に塞がった。傷口が一瞬で治るレベルの【治癒】ってことは、【治癒《中》】か!

 この魔法を持っていれば、冒険者ならば、かなり強いパーティーから誘いが来るレベル。


 俺に無言で訴えているわけだ。

 怠けているわけではない。自ら冒険者にならなかったのだと。


「最悪の犯罪者、バニス=メント。お前は自分の立場を理解したほうが良い。自分の罪を素直に見つめ、受け入れた方が苦しまずに死ねるぞ?」


 くるりと槍を回し、今度は柄で俺の頬を殴る。

 膝立ちで踏ん張りの聞かない俺は、いともたやすく牢屋の奥にまで吹き飛ばされた。


「お、俺に罪はねぇ……。悪いのは全部オストラだ!」

「はぁ。本当、情けねぇよな。今頃、地獄で糞みたいな奴とパーティーを組んだって泣いてるんじゃないか? 【占星の騎士団】のメンバーはさ。他の奴らは皆、リベリオーガの巣から遺品が見つかってるんだよ」


 見張り達は手を叩いて笑う。

 遺品が見つかっている? 

 馬鹿な。

 オストラとプリスは俺を囮に逃げたはずだ。あの後、俺はリベリオーガに散々な目に遭わされたから……分かる。

 未だに痛む尻を押さえる。

 あいつら、性別関係なく遊びやがったんだ。だが、それにも耐えたおかげで、応援がきて俺は助かった。

 生き延びてやったんだ。魔物に犯される屈辱。だが、それもオストラを捕まえれば耐えた価値があるというものだ。


「だから、オストラは生きている! あいつは隣国のスパイだったんだ! 信じてくれよ!」

「はぁ。その話、本当だろうな?」

「あ、おい!」


 俺の脇腹を刺した門番が、腰に付いた鍵を手に取る。

 そして――、


 ガチャン。


 扉が開いた。

 そうだ。分かってるじゃないか。俺が今からオストラを捕まえてきてやる。お前は特別に俺の下で働かせてやってもいいぞ。

 話を聞かなかったもう一人の門番は、ここで痛い目にあって貰うか――。


 ザンっ

 ボトリ。


 俺が今後の予定を立てていると、右腕が肩から切り落とされた。一瞬、何が起きたのか理解できずに、パチパチと瞬きをする。

 そして――、


「グアアアアア!!」


 これは、俺の腕だぁ!

 腕が斬られたぁ!

 なんでだ、なんでだよぉぉ!


 腕を抑えて叫び蹲る俺の頭に、「コツン」と固いモノがあたった。どうやら、頭を踏まれているらしい。


「あまり、五月蠅いことをいうな。もう一本、失うことになるぞ?」

「お、おい……。やりすぎじゃないか?」

「心配するな。国王からは「生きていれば何をしてもいい」と言われてるではないか」

「そう言えば……そうだな」

「だが、この調子では生かすことすらも難しいかも知れないなぁ。はーはっは」


 グリグリグリ。


 笑い声に比例するように踏みつける足に力が込めらた。俺は亀のように体を丸めて痛みに耐えることしかできない。

 これが【選抜騎士】に選ばれたバニス=メントの姿なのか? 

 俺は俺を信じないぞ。


「う、ううう、くうう」


 俺が呻く間に肩から流れる血は緩くなる。どうやら、【治癒】の魔法は2回使えるらしい。俺を踏むことに飽きたのか、見張りは足を退けると、とんでもない提案をした。


「おい。折角ならゲームをしようぜ?」

「ゲ、ゲームだと?」

「ああ、これから俺達がお前を痛めつける。その間、一切声を出さなかったら、逃がしてやる」

「ほ、本当か!?」


 こっちは既に腕を斬られているんだ。

 今更、痛めつけられたって耐える自信はある。こちとら、上位種の攻撃を受けた経験もあるんだ。それを思えばお前達の打撃なんて――。


「勿論。じゃあ、俺から行くぜ? えい」


 ザン。


 残されていた片腕も切り裂かれた。


「ギャアアアアアアアア! なんで、痛めつけるんじゃないのかよぉ!」

「はぁ? この状況で、なんで残された腕を斬られないと思ったんだよ。頭の中、お花裂きすぎだろぉ~。 ハイ、アウト~」


 叫ぶ俺に見張りが大声で笑う。子供が玩具で遊ぶように純粋に笑う。


「お前なんか助ける馬鹿が何処にいるよ! これで、文字通り手も足もでないんだから、黙ってろよな」

「クソォオオオオオ!」


 もう一人の見張りも【治癒】を使えるのか、俺の腕を治す。最初から、こうなることを想定してこの二人が見張りに選出されたのか。


 俺は捕まった時から既に馬鹿にされていたんだ。手足を奪われた俺は、死んだ方がマシだと人生で始めて思った。だから、自殺する方法も分からない。

 惨めな気持ちだけで死ねたら、どれだけ楽なのだろう。


 泣き叫ぶ俺を笑うことにも飽きたのか、見張りは牢の外に出て、談笑を始めた。「彼女が欲しい」だとか、「やりたい」だとか。

 そんなことを両手を奪った人間の前で話す。


 惨めさを内側から突き破るように怒りが湧き上がってきた。

 こうなったのも全部、【占星の騎士団】がいけないんだ。


 弱い癖に俺のパーティーに入ってた雑魚。

 金で裏切る守銭奴、アディ。

 キザな詐欺師のオストラ。

 男好きの性欲女、プリス。


 俺の周りにはロクな奴がいない。あいつらと一緒にいたから、俺は今、こうしてるんだ。


「見てろよ……。俺はここから出て絶対に復讐してやる。例え、どんな姿になろうともな!」


 4人とこの見張り達は絶対殺す。

 そのためには、まず、ここから逃げ出す方法を考えることが先決だ。


「俺が持ってる武器は、オストラがスパイだということ。この情報を使えば逆転はできるんだ」


 さっきみたいに騒いだら、また酷い目に遭うだけ。

 チャンスが来るまで大人しくしていよう。

 余計なことをせず、その時に備えて体力を温存するんだ。天才な俺だからこそ出来ること。


「俺は賢いんだ。天才なんだぁ!」

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[気になる点] “本物の馬鹿が勘違いしているようだから、教えてやってるだけだ。確かに普通の見張りは能無しがやること。だが、お前みたいな凶悪な犯罪者には、腕の立つエリートが付けられるんだ。俺達みたいな選…
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