第29話 メイドは台になりたいのか、なりたくないのか?
「昨日はごめんなさい! 揉め事を起こすつもりはなかったんですけど、ロウが噛みついてしまって……」
「ユライさんは謝らないで下さい。悪いのはこちらです。門番たちにはユライくんが来たら通すように言ってたんだけど、上手く伝わっていなかったみたいで……本当にごめんなさい」
翌日。
再び城を訪れた僕たちは、昨日の拒絶が嘘だったかのように歓迎を受けた。門番たちは僕たちを見るなり、「ようこそいらっしゃいました」と深々とお辞儀をして中に通してくれた。
門の先には煌びやかな馬車が用意されており、中からエミリさんとメイドさんが降りてきたのだ。
謝り合う僕たちの横で、メイドさんが小さく震えながら手を上げる。
「す、すいません~。わ、私が、門番たちに伝えるのを忘れていたんです。どうか、どうか許してください~。お、お詫びにどうか私を台に馬車に乗ってください」
ガバァ。
物凄い勢いでメイドさんが背を丸めた。どうやら、自分の背中を使って馬車に乗ってくれと言っているらしい。
「じゃ、遠慮なく」
ふみ。
ロウが小さな足を動かして、ぴょぴょんと馬車の中に入った。見た目は豚に近いけど、動きだけはやっぱり狼だ。
でも、だからって躊躇いなく人の背を踏めるか?
ロウの行動に驚いていると、
「では、私も失礼する」
アディさんも迷わずに背中を踏もうとする。
ちょっと、流石にアディさんは――。
僕が止めるよりも早く、メイドさんが丸めていた背中を伸ばした。
「あなたは踏まないで貰っていいですか? ていうか、あなた誰よ」
「私はアディだ? 君が踏めと言ったのに、なんで私は駄目なんだ?」
「普通に考えたら分かるでしょ? 私とあなたは何の関係もないじゃない」
メイドさんは下から覗き込むように、アディさんを睨んだ。二人は今にもぶつかりそうな距離でいがみ合う。
「私が踏んでいいと言ったのは、ユライ様とロウ様に言ったのよ。エミリ様を助けてくださった二人の恩人にね。あなたはエミリさんを助けてないでしょ?」
「そうか。それは済まなかった。だったら、最初からそう言えばいいではないか。普通に考えたら分かるだなんて言わなくてもいいだろう?」
アディさんが鼻を慣らしながら馬車に入る。
「ま、自分から踏まれようとする人間の普通と、私の普通は違くて当然だがな。理解できなくて悪かった」
「へぇ……。メイドを前に強気な態度は頂けないわよ」
「それはこっちの台詞だ。冒険者を舐めないほうがいいぞ?」
火花を散らす二人。
その状況にエミリさんは、「どうしましょう」と困惑し、「いいぞ、やれ! やっちまえ」ロウは煽る。
もう。
今日は折角、平穏に住むと思ったのに。
「アディさん。今後、もし、台が必要になるなら、僕が台なりますから、ここは大人しく引きましょ?」
二人の間に入った僕に、アディさんが困惑した表情を浮かべる。
「いや、これはそういう問題ではないのだよ」
「……」
あ、そうなんですね。
先ほど、メイドさんがしたみたいに、身体を丸めた自分が恥ずかしくなってくる。
「と、とにかく、今回の目的は食事会なのですから、早く案内して貰いましょうよ」
「ユライくんが望むならば仕方がない」
アディさんが馬車の中とは思えぬソファに、腰を落とした。
良かった。
一先ず落ち着いてくれたみたいだ。
大きな揉め事にならずにすんだ。胸に手を当て息を大きく吐き出す。さて、それじゃあ僕も乗り込みますか。
一歩前に踏み出そうとした僕の前に――身体を丸めるメイドさんがいた。
「……な、何してるの?」
「あ、いえ。ユライ様になら踏まれてもいいので――というか、むしろ踏まれたいので是非、私を使ってください」
「……」
結局、台になりたいのだろうか?
基準が良く分からないな。
僕は彼女の背に立つことなく馬車に乗り込んだ。
「はい。メイドさんも早く」
「あ、ありがとうございます」
伸ばした手を掴み、メイドさんも乗り込んだ。
心なしか顔が赤いのは、アディさんと言い争って興奮してたからかな?




