第24話 追放者と裏切り者の出会い
「さてと……。今度こそ出発しようか!」
「この台詞、朝も効いたけどな」
夜。
街の門の下で宣言すると、ロウが欠伸混じりに言葉を吐き出す。
「たく。喧嘩売ってきたのは相手なんだから、放っておけば良かったのに、なんでわざわざ戻ってくるんだよ」
「まあまあ。そんなに急ぐ旅でもないからさ」
「だけどよぉ」
本日、二度目の森を歩く。朝と違い夜の森は当たり前だが暗い。灯りを持っているが、小さな炎だけでは心もとない。
まるで森そのものに食べられたような気分だ。揺れる木々は、咀嚼している音に聞こえてくる。
それでも魔物が姿を見せないことは幸いだ。
本当は日が沈んだから遅いから、今日は宿に泊るって手もあったんだけど、あまり街には居たくなかった。
もしかしたら――バニス達が【選抜騎士】に指名されてる可能性もあるわけだし……。
「うん?」
夜の森を進んでいると背後から強い光が迫る。馬に乗っているのだろうか、高い位置で上下に揺れる。
蹄の音も聞こえるから、魔物でないことは確かだ。でも、こんな時間に森を抜けようとする人は珍しいな。
緊急のクエストでも発生されたのだろうか。
馬に跳ねられぬよう、木陰に隠れて道を譲る。だが、光は僕に近付くにつれて速度を緩めていった。
やがて、僕の隣で完全に静止する。
馬に乗っていたのは綺麗な人だった。エミリさんを宝石のような輝きとすれば、この人は鋭く砥がれた刃のような美しさ。
磨き抜かれた力強い視線で僕を睨む。
「えっと……」
なんで僕を見ているのだろうか? ひょっとして、僕から何か奪うつもりなのか?
相手が魔法を発動してもいいように、手札看破で見抜いておこう。
「えっ……!?」
彼女の頭の上に浮かぶ魔法の数を見て、思わず声を漏らしてしまう。
枚数は4枚。
バニスと一枚しか変わらない枚数だ。そうなると、彼女はかなりレベルの高い冒険者だということになる。
警戒を強めると、スッと綺麗な足で馬を超えると地面に降りた。土がまるで真綿のように彼女を受け止める。
動きに無駄がない。
魔法だけじゃなく、体術もかなりのモノだ。
「君がユライくんだな?」
「そう……ですけど」
彼女は僕の名前を知ってるのか?
ロウがリュックの上で呟く。
「こいつ、お前のこと探してたみたいだな」
荒い息と首元を伝う汗から、急いで僕を探していたことが分かる。でも、僕だと知りながら必死に追いかける理由などないと思うんだけどな。
彼女がどんな意志でやってきたのかと、目を見入るが答えは分からない。先ほどまで僕に向けられていた視線がリュックに動く。
そして、「カッ」と見開かれ――、
「豚が喋った!?」
ロウが喋ったことに驚いた。
「だから、俺は豚じゃねぇ……って、ユライ。俺って豚に見えるのかな?」
流石に何度も豚に間違えられると自信がなくなってくるらしい。弱弱しい声で意見を求めてくる。
いや、最初に豚に間違えたのは僕なんだから聞かれても困るんだけど……。「違う」と言えば嘘になるし、「そうだ」と言えばロウが傷付く。
どう答えてもロウを傷付ける悪魔の問いに、僕は曖昧に微笑み話題をすり替える。
「それで――あなたは誰なんですか?」
「私はアディ。【炎の闘士】から【占星の騎士団】にスカウトされた付与使いよ」
「【炎の闘士】の付与使い……って、あああ!!」
二つの言葉の並びに覚えがあった。
追放されるときにバニスが言っていた新メンバー。
でも、なんで新メンバーがこんなところに?
ましてや僕を探していたんだ?
まさか!!
これもバニスの嫌がらせなのではないか。周囲に他のメンバーがいないか確認する。夜の森だから視界が悪く確認はできない。
なら、フェンリルの鼻を頼らせて貰おうじゃないか!!
「ロウ。彼女の他に人の匂いはしたりするかな?」
「ああん? 匂いは……ないな。こいつ一人だけみたいだ」
ふむ。
となると、バニス達は関係していないのか。
露骨に警戒する僕を安心させるためなのか、両手を開き声高らかに叫んだ。
「私は君を守りに来たんだ。バニス達が【選抜騎士】に選ばれやらかしたことを、君だって知ってるでしょ?」
「え?」
今、なんて言った? バニス達が【選抜騎士】に選ばれただって?
そんな素振り僕がパーティーにいた時は少しも見せなかった。
なるほど。追放するときに僕が我儘を言うと思って隠してた訳か。そんなところばかりが計算高いバニスだった。
「そっか。やっぱりバニス達が選ばれていたんだ」
心のどこかで分かっていた筈なのに、実際に事実を告げられると、準備していたはずの受け入れる覚悟を、いとも簡単に超えてくる。
「まさか……。それすらも知らなかったの?」
「はい。選ばれるかもとは思っていたんですけど――、追放された身ですし、自分のことに集中してました」
僕は自分の心境を隠すように言葉で心に鎧を作り上げていく。
そんな僕の態度に何かを察したのか、
「そう……か。やはり、大変な日々を過ごしてたんだな。だが、安心しくれて。私は君を何としてでも守ってみせる。どんなクエストでも一緒にクリアしようではないか」
「……?」
彼女はグッと僕の手を握る。
強く握られた手からは絶対に離さないと強い意志があった。
いや、バニス達が【選抜騎士】に指名されたのに、なんでその答えに辿り着くんだ? アディさんだって【占星の騎士団】の一員なんだから忙しくなるだろうに。
俺が追放された事情を知らないロウが詰まらなそうに、喉を鳴らす。
グルグルと震える唸りは、「これ以上近付くな」と警告してるみたいだった。
「要するに、この女は、昼間、お前が倒してた【炎の闘士】の一員なんだろ? そんな奴無視してさっさと行こうぜ」
ロウがリュックから降りて裾を引っ張る。
「昼間倒したって、ユライくんが【炎の闘士】のメンバーを倒したってことか!?」
「ああ、そうだよ。それがどうかしたか?」
僕を守るように力強く前に出てる。
これが伝説上の生物――フェンリルならば迫力があっただろうが、豚に間違われる狼では気迫に欠けていた。
「倒したって嘘……よね? だって君は……」
先の言葉を言うのは失礼だと思ったのか、語尾を濁して口を閉じた。彼女はバニス達の仲間に入るにあたり、僕の実力を聞いていたのだろう。
だから、【炎の闘士】に勝てるとは信じられないんだ。
「と、とにかく傷はない?」
「へっ。ユライがそんじょそこらの雑魚に傷を付けられるわけないだろーが。なめんじゃねーぞ? あん? コラ?」
ロウが人の姿をしていたら、きっとチンピラみたいな姿なんだろうな。そんなことを思いながら柔らかな脇腹を抱える。
「あ、おい! 何すんだ、ユライ!!」
「一度、ロウは黙っててよ……」
このまま話してたら面倒なことになる。
彼女はバニス達と繋がっているんだ。僕が【炎の闘士】と戦い倒したことが知られてら、きっと不審に思うに違いない。
バニスだけならともかく、オストラは用心深いから僕のことを調べようとするだろう。
魔法の仕組みに付いて隠すつもりはないけど――進んで口外しようとも思えない。これまでの世界の価値観が変わるんだ。
すくなくともバニス達みたいな自分勝手な人にだけは教えたくない。
ロクな結果になることは手札看破しなくても分かる。
「えっと、その……。彼らはクエスト帰りでしたし、油断してましたから……勝てたというよりは……偶然が重なったと言いますか……」
「そう……よね」
アディさんとしても勝てるとは信じていなかったのだろうな。信じてくれたみたいだ。
「だって、君は私が守らないと駄目なのだから」
「へ?」
僕を守る?
その意味を問うより早く、ロウが言葉に噛みついた。
「へっ。ユライはお前に守って貰う必要はねぇんだよ。用がないなら早く帰んな」
守るの意味はやっぱり分からないけど、アディさんが本気で僕を守ろうとしてくれていることだけは伝わってくる。
彼女が何を考えているのか、しっかりと聞いた方が良いと僕の勘が告げていた。
「そんな言い方しなくてもいいでしょ、ロウ。なにか事情があるんでしたら、街でゆっくり話を聞きますよ」
「おい! また引き返すのかよ! 俺は御免だぞ」
ロウが月に向かってギャンギャンと吠えた。




