第23話 罪と決意 【ヒロインSide】
村が消えていた。
私がバニス達を置いて逃げたから――。
「私が村を滅ぼしたんだ……」
私が逃げなきゃ村は滅ばなかったんだ。村が有ったという名残を告げるのは、灰となった木屑のみで、荒廃とした景色が私の力を奪う。
「私が……。私が……!」
なんで私は一人で逃げたんだ。こうなることが分かっていれば、強引にでも彼らを納得させたのに。
膝を付き空を見上げる。私の後悔みたいに雲が黒く分厚く積み重なっていた。
「でも、あの状況で撤退しないなんて考えられない。戦い続けていたら、私たちの命だって危なかった」
リベリオーガに勝てないと判断した私は彼らに撤退を提案した。だが、リーダーであるバニスは私に指示を出すなと怒り、意地でも退こうとはしなかった。
そんな態度に命の危機を覚えた私は、一足先に逃げ出した。
どれだけ戦況の判断が愚かでも、腐っても【選抜騎士】に指名されるパーティー。死ぬことはないだろうと思っての行動だったが――パーティーメンバーの命どころじゃなかった。
「まさか、村を囮に使おうとするなんて――」
【選抜騎士】に指名されたパーティーは、リベリオーガに勝つどころか、逃げ切ることも出来ず――最終的に人として考えられない決断に至った。
その結果が村の消滅。
一体、何人もの人間が犠牲になったことだろう。
「なんで……こうなった!? 裏切りの報いだっていうんなら、私自身に降ってくればいいではないか!!」
吠える私を馬鹿にするように、雨が降る。
ポツポツポツ。
ザー。
私の声は雨音に吸い込まれ、最初から世界に存在しないみたいに何も残らない。
「村がこうなったのは、全部――私のせいだ」
【炎の闘士】を抜けて【占星の騎士団】に所属した罰だと告げるように、冷たい雨が身体を打つ。
そうだ。
私が裏切らなければ――。
私は【炎の闘士】とお金で契約されていた。冒険者としてソロでクエストを受け、魔物を倒していた私を、彼らがスカウトしたのが始まりだった。
キザっぽいリーダーのアルは、やたらとウィンクをしながら話を持ちかけてきた。
「僕たちが【選抜騎士】になったら、一千万を君に上げよう。お金に困ってるんだろ?」
一千万。
それは一生かけて必死に働いても、村に住んでたら稼げない大金。なんでもアルは貴族らしく、金銭的に余裕があったらしい。
お金は生まれながらにして持っている。
だから、アルは【選抜騎士】という肩書を欲した。そのために、腕の立つ冒険者を至る所からお金で集めていたらしい。私以外のメンバーも金で雇われていた。
彼は私に見せつけるように、前金として一〇分の一の百万を手渡した。初めて触れた札束の重さは今でも手に残っている。
「正体不明の病気に掛った妹のために、命を賭けてお金を稼ぐなんて泣けるじゃないか」
アルは札束ごと、私の腕を包んだ。
彼の言う通り、私にはすぐにでもお金が必要だった。
妹の病気を治すために。
妹のためなら、お金で買われてパーティーに所属することくらい平気だ。それほどまでに私は妹が大好きだった。
アルの提案を受けた私は、【選抜騎士】になるために必死に魔物と戦った。気付けば、【炎の闘士】は街で1、2を争うパーティーになっていた。
だが、【炎の闘士】は確実に【選抜騎士】になれる状況にはなかった。その理由は簡単で、もう一つ、名高いパーティーがあったからだ。
それがバニスが率いる【占星の騎士団】。
【炎の闘士】と【占星の騎士団】。
どっちが選ばれるかと冒険者たちが盛り上がる日が続いていた。その声が大きくなるほど、私は必死にクエストに励んだ。
そんな時だった。
バニスに声を掛けられたのは。
「お前……、難病の妹のため、金が必要なんだろ?」
どうやってバニスが妹のことを知ったのか分からない。
妹を救うお金のために、【炎の闘士】に私が所属していると知った彼は、倍の金額を提示してきた。
「お前が【炎の闘士】を抜けて、俺達と組み【選抜騎士】に指名されたら二千万やる。これはその前金だ」
バニスは二千万という大金は簡単に払えるとでも言いたいのか、ポン。と、懐から二つの札束を投げ渡した。
二百万。
私がアルから貰った前金の倍だった。
「……考えさせてくれないか?」
「駄目だ。この場で決めろ。普通に考えれば分かるだろ? どっちが得かなんてなぁ!」
バニスが笑う。唾液が糸を引きネチャリとした笑顔。
私は目を逸らして考える。
どちらのパーティーに所属しても、やることは同じで【選抜騎士】を目指すこと。
そして、このまま【炎の闘士】に所属していても、【占星の騎士団】とどっちが選ばれるか分からない。
だが、私が裏切れば【占星の騎士団】は確実に選ばれる。
不確かな一千万と確実な二千万。
なら、どっちを選ぶかなんて決まってる。
私は迷わず二千万を選んだ。
私が【占星の騎士団】に所属すると決まってから、バニスの行動は早かった。長年、共に過ごしてきた仲間を追放し、私の椅子を用意した。
お金で雇われた私は、お金でパーティーを裏切った。アルから貰った百万を返すことでケジメを付けたつもりだったが、パーティーを抜けることはそんな簡単なことじゃない。
私はそのことを分かっていなかった。
だから、こんな結果になったんだ。
私の裏切りで――村が滅ぶということに。
雨粒全てが後悔の弾丸となって皮膚を打つ。
痛い。
苦しい。
どうすれば、この罪を償える? 何をすれば許しを得られるのだろう。
「今の私にできることはなんだ――?」
その時――どこからか獣の雄叫びが聞こえたような気がした。豪雨の中でも響く力強い獣の咆哮が耳を震わす。
バッ。
頭の中に一人の人物が浮かび上がった。獣と全く関係のない、むしろ真逆の印象を抱く弱弱しい風貌の男だった。バニス達に追放された弓矢使い。
名前は確かユライ。魔法が一種類しか使えない弱虫だとバニスが言っていた。
なんで、彼を思い出す?
まるで、誰かに脳を操られているようだ――。
「そうだ。彼を守るんだ」
ユライくんも私の裏切りによって追放された、いわば被害者。確か誰ともパーティーを組まずクエストを受けていた。
魔法を一種類しか使えない彼が、一人で戦い続けるのは危険だ。いつか、魔物に敗北する日が来るだろう。
「これ以上、私の所為で誰かが傷付くのは御免だ。今度こそ私が救うんだ」
私は決意を込めて顔を上げる。空までもが私の意思を祝福するように雲が流れ晴れ間が覗く。
「待っていてくれ、ユライくん」
私が君を――救って見せる。




