第22話 八つ当たりにお漏らしに
「ふ、ふざけんなぁ! 本当は俺達のパーティーが【選抜騎士】に選ばれるはずだったのに、アディを金で引き抜きやがって――!!」
魔法を防がれたアルさんは、仕切り直しと言わんばかりに、バックステップで距離を取る。こちらとしては、距離を取って貰えた方が有難い。
【斬撃波】の他にも、【爆発】と【三連火弾】を選択してるからね。
対するアルさんの魔法残数はゼロ。
手札看破で見抜いたから間違いない。
「くそ……。くそぉ!! よくも俺の計画をぉ!」
折角、距離を取ったというのに、腰に携えた剣を引き抜き振り上げる。その動きにも無駄はなく、日々努力していることが伝わってくる。
けど、どんなに頑張ろうと剣じゃ魔法には勝てない。
「てい!」
選択していた【爆発】をアルさんの足元目掛けて投げ付ける。地面に着弾した魔法が、ボカンと熱と風を生み出した。
直撃すれば、オーガも吹き飛ぶ魔法だ。爆風だけでも身体を吹き飛ばす威力はあるようだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
【爆発】に飛ばされたアルさんは、背中から木の幹にぶつかる。爆発の威力で張り付けになっていたが、やがて、枝から落ちる枯葉のように地面に倒れ込んだ。
「ば、化物ぉ……!」
ガタガタと視線を震わせて立ち上がろうとする。だが、腰が抜けているのか、上半身だけしか動かないらしい。
動く上半身を使って、深く頭を下げる。
「許してくださいぃ。俺が悪かったんですぅ」
「いや、そんな大袈裟なことしたつもりはないんですけど」
化物と言われることはない――と思ったけど、魔法が30枚使えるだけで充分、その領域に足を踏み入れているのか。
全てロウが僕に与えてくれた力。
改めてロウって何者なんだろ? 何度か聞いてみたけどいつも話を反らされる。リュックの上で眠る自称フェンリルさんは今も気持ちよさそうに眠っていた。
ロウと話すのはまた今度にしよう。
今は、アルさんと決着を付けないと。
「大体、【炎の闘士】からアディさんが抜けたのは、僕と関係ないじゃないですか」
引き抜いたのはバニス。
むしろ、アディさんの引き抜きに成功したから、僕を追放するに至ったのだ。結果的には、僕と残された【炎の闘士】のメンバーは被害者と呼べるのではないか?
裏切りの誘いをしたバニス。
裏切りを決意したアディさん。
利害が一致することはあっても、争う理由にならないはずだ。
僕の問いかけに顔を上げたアルさんは、「へへへ」と笑う。
「そ、そうなんですけど……。つ、つい、カッとなって。だから、どうか許してください!」
ガバァ~。
今一度、膝を付き上半身全てを使って、仰ぐように頭を地面に付けた。
「……分かりました。許しますから顔を上げてください」
僕は近付き手を差し伸べる。
【炎の闘士】は街で1、2を争うパーティーだったことは事実。そのリーダーが僕なんかに頭を簡単に下げない方がいい。
街に近い森だ。
誰が見てるか分からないから。
だが――アルさんは近付く僕に怯えていた。
「ひ、ひぃいいいいい! ごめんなしゃーい」
涙と恐怖で顔をぐしゃぐしゃにしたアルさんは、最初に会った時とは別人のようだ。
星ではなく涙と鼻水が宙を舞う。
アルさんが最初に不意打ちをしたように、僕もやり返すと思ったのだろうか。恐怖で震える目は、やがて動きを止めて色を失う。
バタン。
アルさんは倒れた。
どうやら意識を失ってしまったらしい。しかも、余程怖かったのか、足元には水溜りが作られていた。
少し……黄色いよね……。
「こ、困ったな……」
いくら、先に攻撃を仕掛けてきたとはいえ、意識を失った相手も森には置いて行けない。この森に魔物は少ないが、存在はしている。
一人で寝ていたら喰われてしまう可能性はある。
「放っておくわけには行かないよね」
仕方がない。
「【選択領域】、発動!!」
ブンと目の前に6枚の魔法が表示される。
【強化の矢】【腕力強化《小》】
【強化の矢】【泡弾】
【治癒】 【腕力強化《中》】
「よし、丁度良く、【腕力強化】系が二枚手札に揃ったぞ」
二枚選んで【選択領域】を閉じる。アルさんが怪我をして意識を失ったのであれば、【治癒】で良かったんだけど、外傷は治せても精神は治せない。
だから、街までアルさんを【腕力強化】で、運び休ませようと言うのが考えだ。
アルさんを担いで街に戻っていると、ロウが目覚めた。
「あれ? なんで街に引き返してんだ? ってか、こいつ誰だよぉ!」
担いだアルさんの顔が目の前にあったからだろう。
ロウが驚き叫んだ。
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