第21話 ライバルパーティーのリーダー
数歩歩いた僕の背に、そんな言葉が投げられた。
「へ?」
男の言葉に振り向く。
白馬に乗った男が優雅に近付いてくる。一瞬、彼自身が発光しているような錯覚に陥った。煌びやかな星型が、飛んでるような気がするけど気のせいだよね?
彼は馬車から降りてマジマジと顔を見つめる。
「やっぱりそうだ。その顔、見たことあるよ」
「えっと……」
そう言われても、僕はこの人に見覚えはなかった。こんな爽やかで格好いい人と知り合ったら絶対に忘れない。
「酷いなぁ。僕達のことなんて眼中にないってことかな? 僕は【炎の闘士】のリーダー、アル=カルドラだよ」
「あ……!」
名前を言われて思い出す。
そうだ。
遠目から何度か見たことがある。
パーティー 【炎の闘士】。
それは僕達【占星の騎士団】のライバルだった存在。 ……バニスがあんな性格だから、昔から仲はよくなかった。
「いえ、決してそういう訳では」
むしろ、その逆だ。【炎の闘士】をライバル視していたバニスは、僕を極力合わせようとしなかった。
もしかしたら、僕みたいな存在がパーティーにいることが恥ずかしい。舐められると思ったに違いない。
そんな事情を知らないアルさんは、空から獲物を狙う鷹のように目を細めた。
うわぁ。
凄い嫌な予感がする。何されても良いように【手札看破】は使用しておこう。
やはり、彼らはクエストから帰ってきたばかりなのか、後ろの二人は手札がない。つまり、魔法が使えないってわけか。だから、僕から少し離れているのかもしれない。
アドさんは……手札が一枚か。なら、どんな魔法を持ってるか分かるな。
更に視線を集中させると、手札に模様が浮かび上がる。剣から横に斬撃が放たれる図。
「【斬撃波】か……」
「うん? なんか言ったかい?」
「いえ、別に。それより僕になにか用ですか?」
「なに、一度、君とはゆっくりと話してみたいと思っていたんだ。悪いけど君たちは先に帰って手続きを済ましてくれないか? ここは僕に任せて」
アルさんはメンバーに爽やかな笑みを送る。仲間は「しかし……」と置いてくことを躊躇っているようだ。
当然だ。
僕は追放されたとはいえ、【占星の騎士団】の一員だった男。二人きりにするのは抵抗があって当然。
二人は相談するように言葉を交わしたのちに、
「まあ、こいつなら弱いしリーダー一人で大丈夫か」
と、僕に聞こえるように言い残して街に帰っていった。
「おう! 頼んだぞ~!」
仲間の背に手を振るアルさん。
姿が見えなくなると僕の肩に手を回した。
いきなり距離が近い……。
「仲間が失礼なことを……すまなかった」
「いえ、僕は全然――」
「君は器が広いんだな。こんな醜い豚を飼ってるのが何よりの証拠だ」
アルさんは、ロウを役に立たないペットだと思ってるようだ。僕は恐る恐るロウを見る。「醜い豚」なんて言われたら、手が付けれないほど怒るに決まってる。
「ぐぅ、すー」
良かった。
気持ちよさそうに眠っててくれた。
それにしても……。
キラキラっ!!
アルさんは暴言を吐いてるのに、笑顔が眩しかった。
浮かべる笑顔が爽やかかどうか。
バニスとアルさんの違いは、それだけのように感じる。
「それで僕に話ってなんですか?」
「ああ。そうだった――」
途端に、彼の周囲を待っていた星が光を失った。アルさんの顔から放たれるのはどす黒い怒り。
なにより――頭上に浮かんでいた手札が一枚消えた。
「よくもアディを奪ったな! あいつを仲間に引き入れるためにどれだけの金を払ったと思うんだぁ!」
シュッとアルさんが腕を振るう。
あーあ。
やっぱりか。
予想通りの行動だ。本人は嘘くさい笑顔で僕の油断を誘ったつもりだろうけど、手札看破で全部見えている。
【斬撃波】は、文字通り半径一メートル程の斬撃を生み出す魔法。最大の特徴は武器を持たなくとも発動する。
武器を抜く動作が省略されるから、見切るのも回避するのも難しい。
少しでも反応が遅れれば、身体が切り裂かれることだろう。
まあ、発動するタイミングが分かれば、対応することは可能なんだけど。
「【選択領域】!!」
ひゅっと周囲の空間が暗くなる。全ての空間が混じり暗くなったような景色。最初は不気味に感じだけど、今ではもう慣れたものである。
「とりあえず、これでよし」
【選択領域】に入れるのは、魔法を30枚集めた人間だけ。いくら、【炎の闘士】のリーダーだろうと、そこまで魔法は持っていないようだ。
「さてと。どうやってこの状況を切り抜けようかな」
【選択領域】の時間は短い。
僕の体感だとおおよそ、3分ほどで強制的に解除される。
「はぁ。【選択領域】中も動けたら簡単なんだけど……」
魔法には魔法のルールがあるらしい。
僕に出来るのは視線だけで手札から使う魔法を選ぶことだけ。出来ないことに文句を言う時間はない。
「手札に配置されたのは――この6枚か」
目の前に表示されている6枚の魔法。
【強化の矢】【爆発】
【強化の矢】【三連火弾】
【治癒】 【斬撃波】
「【強化の矢】は至近距離で、尚且つ矢を構えていないから辞めた方がいいよね……」
【強化の矢】は放った矢を強化する魔法。矢を取り出し弓を引く動作が必要となるため、既に斬撃を放たれた状況じゃ反撃する前に切られてしまう。
「治癒はまだ怪我してないから……選択から除外と」
いや、攻撃を受けてすぐに治癒を使ってもいいんだけど、傷付く必要がないのに怪我は負いたくない。
だから、治癒は最終手段だ。
となると、選択肢は半分に搾られるね。
「【爆発】【三連火弾】【斬撃波】か、悩むな」
時間は残り一分。
何もしなければ、後一分で斬撃が身体を引き裂くことだろう。
「……【爆発】や【三連火弾】は、この距離で使うのは避けたいな」
僕とアルさんの距離はほぼゼロ。
ここで火力の高い二つを使用すれば僕自身が魔法に巻き込まれてしまう。他に手がなければ選択するけど、まだ、一枚残っている。
「【斬撃波】」
それは今まさにアルさんが使用している魔法と同じモノだった。
僕の方が一瞬遅いけど、刃と刃は相殺が可能。
【斬撃波】を選択すると、景色が一気に周囲が明るくなる。
その瞬間、アルさんの軌道に合わせて【斬撃波】が繰り出される。普通ならば回避できない一撃だろうが。
キッーン!!
刀と刀がぶつかり合う音が響いた。
放たれた半透明な斬撃の軌道は、残響が静まるより早く消えていた。
「ば、馬鹿な! あの距離で攻撃を防いだだと? 防がれないためにあえて気さくなフリをしたのに!!」
魔法が防がれると思ってなかったのか、出会った時の爽やかな笑みが嘘のように、慌てふためいていた。
まあ、【斬撃波】は反応することが難しいから――驚くよね。
「てめぇ。追放された雑魚じゃねぇのかよ」
「追放されましたけど、なにか?」
追放されたからと、何もしてない訳じゃない。
僕は強くなったんだ。




