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前話に引き続き情報量多めです。お付き合いください。
「つまり僕はクリプトとやらを扱う能力が長けていると?」
「ええそうよ、高いどころじゃなくて私が今まで見てきた魔導士、海外のも含めると相当な数だけどその中で貴方はぶっちぎりで最高なの」
「つまり強い魔導士の因子と結ばれたいと?」
「そうよ、この瞳に映るのは容姿でも心の善し悪しでもなくクリプトの適性それだけよ。でも貴方がここに入れている時点で私に害意のある人間じゃないことは証明されてるわ。ここは私に害をなす者が入れない結界が施されてるもの。つまり貴方は許しなく私を襲うような殿方でもないってことね」
最後の一言で自分の置かれている状況を認識してしまった。密室に絶世の美少女と二人きり。快は別に欲がないわけではないが自制はしっかり出来る男である。目の前の美少女に手を出したら最後、自分が処刑される程度では済まず一族郎党首を落とされるのがオチだろう。
「そ、それで入寮?するためには何が必要なんですか?その一般人がいきなり入れるものなんでしょうか」
動揺を隠すように話題を戻してみる。
「私が推薦するから問題ないわ。でも今の貴方はクリプトの扱いも知らない素人よ。だから師をつけるわ。その方は私の師匠でもある老師という方よ。彼の元で一年と一か月修行を積んでもらうわ、今年の入寮は来月だけど流石に間に合わないでしょうし。そしてここからが大事な話。私と婚姻するためにはそれなりの家柄が必要よ。陰陽寮では冠位十二階にちなんだ階級制度があるの、下から黒、白、黄、赤、青、紫それぞれ上下があるのだけど貴方には最低でも青の上まで登ってもらうわ。ここは私の力ではどうにもできないところよ。青の上まで上がったら貴方を適当な神社の神主にあてがって家格を付けれるわ。それに青の上の権限があれば貴方がお友達について調査する権限も与えられるのだし貴方の目的も果たせるはずよ」
見事に話を戻されてしまったが気になったことを聞いてみる
「その青の上までってどれくらい難しいんですか?」
「そうね、、全体の上位5%ってところかしら。私が知っている最短記録で7年かかってるわね。でも貴方の才能ならこの記録を破れると思っているわ。さて長い話になったわね。そろそろ夕食にしましょうか」
いつの間にかテーブルの上には豪華なディナーセットが並んでいた。
「あ、まだいただきますには早いわよ。お祈りを済ませなきゃ」
「お祈り?」
「そう、海外の人とかよく食事前に神様にお祈りしているでしょ?桜の国じゃその風習はないけどその理由は私がこうして全国民分お祈りしてあげてるからよ。」
そういって彼女は立ち上がると何もない所から紅白の紐に付いた鈴を取り出した。彼女は聞いたことない言葉で唄いながら上半身を大きく動かしながら舞う。暫くすると彼女の手から鈴が消えお祈りも終わったようだ。
「さ、いただきましょうか」
いただきますと声を合わせて合掌する。夕食は豚の生姜焼きとみそ汁、上にちょんとミニトマトの乗ったサラダであまりに庶民的過ぎて少し驚いてしまった。
「将来の夫婦の最初の晩餐としては少し安っぽ過ぎたかしら。でも私はいつも一般家庭と同じような食事にするようにしてるの。こんな立場にいると国民みんなの感覚が分からなくなってしまうの。それが原因で滅びた王朝は数えきれないほどあるのよ。食事中に歴史の講釈なんて不要ね。」
「生姜焼きを作るだけで特別な日を思い出せるんです、安くてよく作る料理の方が絶対いいですよ」
明花様は不意打ちを食らったように顔を真っ赤にした。すぐにそれに気付いた彼女は両手で顔をしばらく隠していた。
「私が怖くて襲えない意気地なしだと思ってたけど中々やるじゃない。男の子にこんなにドキドキさせられたのは初めてだわ。貴方、もしかして彼女居た?」
「居ませんよ。昔っから親友と暴れまわってたやんちゃ坊主だったんで特段女の子に近寄られもしなかったし近寄りもしなかったですよ」
「その割にはお上手じゃない」
彼女と目が合いふとお互いに笑ってしまった。
この時はこんな幸せな時間が明日以降も続くと思っていたのだ。翌日からどんな地獄が始まるか予想もせずに。
~魔眼~
その人が生まれ持った才能。発現すると遺伝した眼とは異なった色になる。魔眼を持つ人間は総じてクリプトの扱いに長けており、強力な眼の能力を使うことが出来る。桜の国では小学生に対して行われる血液検査で魔眼の有無やクリプトへの適性を見出し、才能ある者を陰陽寮へスカウトしている。快が検査でスカウト候補にリストされなかった理由は不明。