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第十三話 セイント☆バレンタインデー(1) (視点変更有)

(佐竹風花視点)



「……初めてって……」

 私は、ぼうっとした頭で口ごもる。

「まぁ、でもまだ風花には無理かなぁ」

などと、にやりと笑いながら尚吾は言った。

「……尚吾は初めてじゃないの?」

 ドキドキしながらも口走ってしまう。

「そりゃーな」

「それって……」

「でも、頑張れば風花にだって無理じゃないかもな」

「頑張る?」

 何を?

「俺が、きっちり仕込んでるんだから、そろそろ採れてもいい頃だとは思うんだ。数学百点の答案」

「……って、そんなの小学生の頃に経験済みよっ!」

 私は転がった海老シューマイを(はし)でぐさりと突き刺した。

「それは数学じゃなくて、算数だろ?数学では?」

「ぐぐっ」

 確かに数学では百点をとった記憶がなかった。

 その後すぐに、シューマイの匂いを嗅ぎつけたのか、兄が帰ってきたので、三人でテレビゲームをした。私が、ゴルフゲームで尚吾と兄にコテンパンにされた頃、両親が帰ってきた。


「な~にが、風花の初めてが欲しい~だっ」

 私はベッドの上で、めちゃくちゃに枕を殴る。むう、数学百点だと?とってやろうじゃん。私は怒りをバネにするタイプだったのだ~。


 翌日、数学の授業後、私は廊下で数学の先生を呼びとめた。

「先生っ、先生っ」

「お?佐竹?どうした?」

「今週中に数学のテストって、ありますか?」

 数学の先生は、軽く目を見開いてから、にっこりほほ笑んだ。

「小テストなら、明日するつもりだが……最近、佐竹は頑張っているようだな。先生は嬉しいぞ。いやいや、8点をとった時は、どうしたものかと思ったものだが、あれから余程頑張ったらしいな」

「はぁ、まぁ、それなりに……」

 私は苦笑する。

「末広がりの八だったって訳だ。これからも頑張れよ」

 数学の先生は、ニコニコしながら歩いて行った。


 バレンタインデーは金曜日だが、今度、尚吾に会えるのは土曜日だ。まぁ、一日くらいのタイムラグは許してもらおう。

 待ってろ~パンダめっ!




*   *   *

(一之瀬尚吾視点)



「しょーご、悪い、今日泊めてくれ」

 金曜日の夕方、陸也からケータイに連絡が入った。

「ああ、いいぜ。呼鈴ならしても出ないから、着いたらケータイに連絡しろよ」

「分かってる。もう下にいるんだ」

「了解。今開ける」

 俺はモニターを確認してから、玄関のカギを解錠し、陸也が入ったことを確認して施錠した。このマンションはセキュリティがしっかりしているところが売りだ。

「もしかして、バレンタインデー?」

 俺は片眉を上げる。陸也はチョコレートが入ったデッカイ紙袋を二つもぶら下げていた。

「誰が教えたのか知らないんだけど、俺のアパートにまでやって来てるんだ」

 それでここに避難してきたのだと言う。

「モテる男は辛いねぇ」

「何言ってるんだ?こっちはおまえの分だ。おまえ、大学さぼってんじゃねーぞ」

 陸也は紙袋をドサリと下ろした。

「なんでもらってくるんだよっ」

 お返しをするのが面倒だし、金も掛かるし、チョコレートの処分にも頭を痛めることになるので、今年は大学を休むことにしたのだ。

「言っとくがな、もらったんじゃないぞ。押しつけられたんだ」

 陸也は怒マーク付きの顔で言った。


 俺らは、共同でチョコレートリストを作り、共同でお返しをすることにした。俺たちは結構律義なやつらなのだ。

「おまえさぁ、彼女作ればいいんじゃね?そしたらチョコくれるやつ減るって」

 俺は、チョコをくれた女の子の名前と学年と所属を入力していきながら、陸也に提案する。

「それはおまえも同じだろ?」

 陸也は憂鬱そうに、チョコレートの格付けを始めた。それなりのものには、それなりのものをーだ。

「それを俺に言うか?」

 ふられたばかりなのを知っている癖に。

「このチョコの山をどうするよ?」

 陸也は、洋酒入りのチョコを開けて口に放りこみながら言った。俺にも一つよこしたので口に入れる。口の中に甘くて熱い液体がじんわりと広がった。これは陸也の部活の後輩からだそうだ。陸也は弓道をやっている。

「実は、今年は宛てがあるんだ」

 俺はニンマリとする。

 俺の母親は辛党で、ビターなやつならツマミで少々食べるが、それ以外は見向きもしない。しかし、今年は甘いものに飛びつきそうな知り合いが一名いた。

「もしかして、風花ちゃん?」

「ふふふ」

「よし!じゃあ、俺の分も託す」

「えー」

 俺は不満の声を上げた。いくら風花が甘党でも、この大袋二つはどうだろうか?受け取り拒否された時が痛い。

「これ運んでやったの俺だぞ」

「だから、もらってくんなって。人がせっかく休んだのによ」

 俺は文句を言いつつも、チョコの袋を引き受けた。もちろん、風花に渡す前に、二人して真剣に中身チェックをする必要があった。恨まれている自覚は無かったが、万が一ということもある。

「陸也、この人誰?」

 記憶にない女性の名前を陸也に確認する。

 陸也の特技だと言っていいと思うのだが、彼は女性の顔と名前を一度聞いたら忘れないのだそうだ。男は時々忘れると言っていた。おいおい。

「なー、風花ちゃんってどんな子?」

 陸也は、二つ目の洋酒チョコを頬張っている。チョコが好きなら、全部食べればいいのに。

「どんな子って……」

 俺は当惑する。風花を一言で表現できる言葉が見当たらない。

「タレントで言うと誰?」

「タレント?タレントねぇ……」

 風花に似ているタレントも思いつかない。そもそも俺はあまりテレビを見ない方なので、タレントや女優をあまり知らないのだ。

「動物に例えると、ウサギなんだけど……タレントねぇ」

「なんだよ、それ」

 陸也は、あきれたように呟くとチョコレートの箱を積み上げた。



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