その⑧ 豆狸、引越しの挨拶をする
「というお話なの。
さっきの狸達が、本当に豆狸だったら良いけどね♪」
奥さんが教えてくれたのは、この町に伝わる【豆狸の宿】というちょっと変わった化け狸の昔話でした。
「へぇ~そんな話があるんだな。
ところでその話に出て来た小さな宿屋って、まだあったりするの?」
とご主人が聞くと奥さんは……
「あるわよ。駅向こうにある老舗旅館の【満月屋】さんがそうじゃないかって昔から言われているわ。」
「【満月屋】かぁ…確か180年は続いている老舗だろ?凄いよなぁ~。
それだけ長く続いていれば、そんな伝説だって付きそうだよな……
そうかそれでウチの屋号も【ストロベリームーン】なんだ。」
「そ!【満月】の数ある呼び方の1つよ。
【6月の満月】ってあったでしょ?
6月と言えばブライダル。
ウチのお店がきっかけで恋が実れば良いかなぁ~ってね。
後、【満月屋】さんみたいに長続きしますようにって♪」
「そうか。ちょうど狸も来たし、明日からまた頑張ろう。
そうだ、次に狸が来た時は町一番のお酒を呑ませてやろう!
きっと喜ぶぞ♪」
「もう~あなたが呑みたいだけでしょう♪」
白い洋館…ペンションの若夫婦がそんな会話を楽しげにしている頃……
豆狸達は新しい巣穴の場所と、引っ越し先に持って行くお土産の事を考えていました。
『従兄、人間は引っ越し先に何か土産を持って行くらしいぞ。』
『そうなのか?何か人間が喜ぶ物?
そうじゃのぅ…… 』
従兄豆狸は考えました。
『おおそうじゃ!良い物があるぞ♪
ここからもっと東の山奥に、人間の喜ぶキノコが生えておるんじゃ。』
『じゃあ、さっそく今晩にでも採りに行こう。』
翌日…ペンションの奥さんがサンルームに行ってみると、入り口には……
「あ…あなた、たいへんよ!ちょっと来て!!」
奥さんの声に慌ててご主人が行ってみると、入り口の前にはたくさんの柿や栗だけでなく何とマツタケまで置いてあったのです。
その周りには狸の足跡もあります……
「えっと…コレはお礼のつもり…なのかな?」
困惑する若夫婦をよそに大満足の豆狸達でした。




