その⑥ 豆狸、従兄に相談する
夜が明ける頃…豆狸は、ようやく従兄の豆狸が住むお寺に着きました。
従兄の豆狸はこのお寺の奥にある、鐘撞堂の更に奥に住んでいます。
『お~い!従兄おるか?
満月屋の豆狸じゃ!』
豆狸が呼ぶと、巣穴から少し太った豆狸が出て来ました。
『おぉ満月屋の…久しぶりじゃのぅ。
祭りの時期でも無いのに、急にどうした?』
『実は…ワシの巣穴が、人間に壊されてしまってのぅ。
新しい巣穴を探しに来たんじゃ…… 』
しょんぼりした豆狸が言うと、従兄豆狸はすごくおどろいて……
『なんだって!?誰がそんな事を!?』
『壊したのは【満月屋】の新しい当主じゃ…… 』
するとそれを聞いた従兄豆狸は、残念そうに言いました。
『この辺りで豆狸の巣穴を壊す人間がいるとはなぁ……
昔はワシらが居るだけで、ありがたがられたのにのぅ…… 』
巣穴の前でため息を吐く豆狸達。
『もうすぐ夜も明ける。とりあえず、ワシの巣穴に入ろう。
疲れているじゃろうから、詳しい話しはひと眠りしてからにしよう。』
『すまんのぅ……
コレは土産の甘い柿じゃ。』
『こりゃあ美味しそうじゃのぅ。
それじゃあコレを食べてからひと眠りしよう。』
豆狸は、巣穴で甘柿を食べた後、仲良く眠りにつきました。
その日の夕方までゆっくり眠った豆狸は従兄にこれまでの事を話し、安心して長く住める新しい巣穴の場所を相談したのです。
『従兄どこかちょうど良い所は無いかの?』
『そうじゃな…ここから少し東の方に行った所に、新しい宿屋ができたんじゃが、そこはどうじゃろう?』
『新しい宿屋?』
『宿屋を始めたのは、若い夫婦もんでの…奥さんの方は昔この辺りに住んどった。
場所は、昔ブドウ畑のあった場所の近くじゃ。』
『ブドウ畑か…懐かしいのぅ。
アレは、なかなか美味いブドウじゃったな。』
豆狸は、ブドウ畑にも従兄とよく行った事を思い出しました。
2匹で行っては、はしの方に成っている実を、少しばかり神通力で落として食べたものでした。
それを想像したら、またヨダレが出てきてしまいました。
従兄の話しによれば、そのブドウ畑もとうに無くなり、その近くに人間達の集落ができたそうだ。
『その集落の中に新しい宿屋ができた。
お前さんの元の巣穴の近くの酒蔵に、昔からある白い洋館があるじゃろう。
あんなのが建っとる。』
その白い洋館は昔、酒蔵の当主が建てた物で、今でもたくさんの人間が見に来るのです。
毎年行なわれる《名物の酒を盛り上げる祭り》の時には、町中が酒の香りに包まれ…その辺りもたくさんの人であふれます。
豆狸達もこの日は祠の賽銭箱に入っているお金を使って、飲み歩くのです。
《祠が壊されてしまったので、次の年からどうやって呑みに行こうか?》
と悩む豆狸達でした。