異世界に到着!
視界が、暗い。ここは何処だろう....?
何か音は聴こえるが水の中にいるように音がハッキリ聞こえない。私はさっきまで会社の先輩と飲んでいたはずなのだが....
[!?]
体が突然圧迫され始めた。危機感を覚えた私は、体を必死にうごし圧迫から逃れようとした、が体が驚く程動かない。必死にもがこうとしている間にも体は圧迫され続ける。この後私はどうなってしまうのだろうと考える間もなく目の前が真っ白になった。
眩しかった。えもしれぬ恐怖で声は出なかった。耳から聞こえる音が飽和したように自分では処理しきれない程の騒音が耳に入ってくる。
あぁ、私はこの後死ぬのだろ....ん?
いやそうか、これは夢だったのか....そうに違いない。
視界がハッキリしてきた。体は未だに動かなかったが、私は布に包まれた。見知らぬお姉さんに抱かれた。幸せそうに私を抱いているお姉さんを見たとき私は
[私、赤ちゃんになってる?]
と察したのであった。
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私は島原細子。大学卒業後、所謂インディーゲームを作っている企業に就職したばかりの未来が明るいピチピチの女の子....だった筈なのだが....?
オタクな私にとって今の状況はライトノベルの異世界転生モノと同じ状況である、そう考える事しか出来なかった。いや実際に転生はしているのだろう。確認できないがおそらく今の体は赤ちゃんだろうし、お母さん(推定)に抱かれた後お父さん(推定)に抱きしめられたからである。
そんな強く抱きしめないでパパ!
すぐにでも家に帰ると思っていたが、1日様子見をするそうで、今は産婦人科(?)で寝ている。
両親が帰る時に一緒にめちゃくちゃ可愛い子(生まれて数ヶ月だろう)がいたので、私には兄か姉がいるのだろう、生前一人っ子だった私は兄弟がいるのが少し嬉しい。早く家に行ってみたいなと思つつ、私は眠りに落ちた....
翌日、起きて数時間程して家族が迎えにきた。ようやく新たな我が家に行けると思うと胸がワクワクする。
建物の外に出て、我が家への道を行く。家に着くまでに驚いた事が三つある。
一つ目は、両親の発言曰く可愛い子は私の姉らしいこと。
二つ目は植物が地球とは全く別物に感じれたこと
三つ目は文明レベルが滅茶苦茶高いこと。ラノベの世界と比べたらの話だけれども。
まず、バス走ってること。道路も整備されてる。そこそこ綺麗なガラスがあること。馬糞が落ちてないこと。
家までは驚きの連続であった。
家に着いた私は一旦落ち着くために思考を整理する。まず、私には家族が三人居る。それなりに裕福な暮らしをしているらしい。庭が付いている一軒家なんて転生前の私より裕福な家に住んでいる。なんか負けた気分。あのバスは多分木炭バスと言われているものだと思う。ということは産業革命は起きた後なのだろう。本屋がウチの近くにあるのは確認済みだ。植物の本なんかも売ってるかもしれない。よし、行動できるようになったらまず本屋に行くことにしよう。
ひとまず私はこの世界を楽しむ事を決意した。
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あれから一年とちょっとが過ぎた。自慢したい事がある。ウチの姉は天才かもしれない。一歳の誕生日の時に「パパ、ママ」という単語を発したのである。両親は狂喜乱舞し、私は感動で漏らした。やべっ
姉は子供にしては食べ方も綺麗な方だと思う。素振りからして私と同じ転生者であるとは思えないので、やはり私は姉は天才説を提唱していきたい。親に隠れて私は姉に言葉を教えることにした。
ちなみに私は誕生日会の後におやすみと両親に言って腰を抜かせてやった。ちょっと楽しい
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そこからまた一年が経過する。あれから私はとんでもない事実に気がついてしまった。それは私にビックバン3回分くらいの衝撃を与えた。
私は......俺だった。
そう、俺だった。男だったのである。中身は女で体は男....トランスセクシュアルだったのである(!?)中身が女の子なのは仕方がないので私は男の娘を目指すことにする。所謂性自認って奴だ。中身が女のまま男になりきれるとは思わないからね!
それはひとまず置いておくことにする。とりあえず、あれから半年もしないうちに私達姉妹は会話ができるようになった。私が言葉を教えた影響か姉は語彙が豊富だ。自分の感情を口に出す事ができる2歳児ってやっぱ控えめに言って天才だよね?異論は認めない。
せっかく言葉を話しても怪しまれないようになったので、私は親に植物図鑑をねだろうと思う。怪しまれないように語彙は絞って、
「パパ!私いっぱいお花さんがのってる本がいっぱい欲しい!」
「.....、そうか!じゃあ今から買いに行こうか!!」
「やったー!パパ大好きー!」
そう言って駆け寄ってやれば父親なんてイチコロだろう。なにせ私は可愛い女の子()なんだから。
なんやかんやで本屋へは家族全員で行くことになった。姉が私と一緒に行く行ったからである。
「パパこれ買ってー」
お父さんの手を引っ張りながら絵のついている植物図鑑を指さした。
「えっ、ちょっと.....分厚過ぎないかい...?」
お父さんが図鑑の分厚さに引いている。普段から本を読んでないからそう感じるだけで図鑑ならこれが普通ですー!まぁ確かに2歳児が読む厚さじゃないが。
「いいじゃない、伊織の好きなようにしてあげて。別に破産するほど高いわけでもないでしょ」
お母さんが援護してくれる。ちなみに伊織というのは今の私の名前だ。フルネームは楠木伊織。姉は雫で父は正成、母は愛莉だ。
「そうだよパパ!それに私は将来学者さんになるんだからこれ位がいいんです!」
「そうね、伊織は植物が好きみたいだから植物学者なんてのも面白いかもね」
「そこまでいうなら良いけど....大事にするんだよ?伊織」
お父さんはすぐに折れて本を買ってきてくれた。
その後ろで、お姉ちゃんは私のわがままをキラキラした目で見ていた。
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家に帰ると私は図鑑を持って外に出た。私はあの時見た植物がなんだか気になって仕方がなかったのだ。
「行ってきまーす!すぐ帰ってくるからね!」
「ま、まっていおり!私もついてく....」
お姉ちゃんがトテトテ走ってきた。可愛い。
私たちは近くの公園まで行き、一緒に植物観察をするのであった....
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姉と一緒に公園で植物を調べたり、本を読んで色んな言葉を覚えたり。そんな生活をしばらく続けて今度は2年後、植物観察をしている時に公園で遊んでいた同年代っぽい少年達が私たちのところにやってきた
「お前らいっつも草なんか見て何が楽しいんだよ!蹴鞠の方が楽しいだろ!一緒に遊ぼうぜ!」
私は少し笑ってしまった。普段からサッカーらしき事をしている少年達を認識してはいたが、いやはや、アレは蹴鞠だったのか。別に馬鹿にしたかったわけでは無かったが、蹴鞠と聞いて、平安時代の麻呂麻呂してる貴族達がしている所を想像してしまった為である。
「何笑ってんだよ!お前らは男なんだから変な格好してないで蹴鞠するぞ!」
男なんだから.....?あっ!
私は彼の言っている事がすぐに理解できなかったが、私達の事を男と言っている事に気がついた。っていうか私が男なの忘れてた。
どこから私が男だと漏れたのかは知らないが、まぁ、中身は大人な私が大人な対応をして軽くあしらってあげれば良いだろう....姉が男扱いされたのは腹が立つが、我慢。
「何か勘違いしてるかもしれないけど私達は女の子だよ?」
「嘘つくな!ママ達が言ってたぞ!男なのに女の格好してる変な植物好きがいるって!ここら辺で植物好きなんてお前らだけだろ!」
「うるさいなぁ、どれだけ言ったって私達は女の子だし、蹴鞠なんてやらないよ。」
「チッ」
ガキ共は去っていった。
全く、最近の子供はマセてんだかよくわからないがうるさいなぁ。将来彼らには男の娘は女の子だという事実を教えてやらねばな....って、えぇっ!?
お姉ちゃんが泣いている!?
「えっ、えっ、ど、どうしたのお姉ちゃん!」
「ごめんね.....ごめんね......」
「え?なんでお姉ちゃんが謝るの??」
「だって、だって、、わたし、お姉ちゃんなのにいおりのこと守ってあげられなかった....いおりの後ろでビクビクしてただけだった...」
なんて良い子なんだ.....
「大丈夫だって!お姉ちゃんにはいつも守って貰ってるじゃん!!」
「......」
頑張ってお姉ちゃんを泣きやませたが、全く許せん。あのガキ共愛しのマイシスターを泣かせやがったな。今度あったらギャン泣きさせてやる。
そうして私達は手を繋いで家に帰った。
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「ど、どうしたんだい雫!」
家に着くなり腫れぼったい目をしたお姉ちゃんを見たお父さんが悲鳴をあげる。
「伊織、何があったか説明できる?」
お母さんは理性があるようで助かる。
「いつも通り公園で植物観察してたら、突然男の子達がやってきてお前ら男なら蹴鞠をやるぞっ!て言ってきてなんやかんや断ったら、その男の子達が怖かったって泣き出しちゃったの」
「そう....大丈夫よ雫....あなたには私達も伊織もついてるからね....」
我が家の聖母様はそうしてお姉ちゃんを抱きしめて撫でている。
「これは絵になるなぁ....」
「なんで伊織はそんな冷静なんだよ....」
お父さんのツッコミは無視しておく。
その後お姉ちゃんが落ち着きを取り戻したので、晩御飯を食べる事にした。今日はお姉ちゃんの好きな蜂蜜のかかったグラタンだ。
私はこれがあまり好きじゃない、かというのもブロッコリーの代わりに入っている"ローズハニー"という名前の植物が不気味なのだ。形は確かにブロッコリーなのだ、なのだがいかんせん、色が.....
紫を薄めたピンクの様な色をしているのだ。
どうしても危険色にしか見えないが、味は良いのだ。生意気にも。ブロッコリーというよりはハーブみたいな味で他の具材同士の多少の味の衝突を誤魔化してくれる。
まぁ、取り敢えず
「「「いただきます」」」
家族と過ごす穏やかな日々は静かに過ぎていくのであった....




