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吉浜高校広報部

作者: お日さまサンサン

放課後の二人きりの教室。

 夕陽の光が差し込む窓からはグラウンドで部活をしているであろう運動部の声が聞こえてくる。

 対して、この教室はとても静かで心臓の鼓動の音が良くわかる。

 「先輩、そろそろ始めましょう」

そこで何も起こらない訳もなく……。










       

 「はい!今から新聞部から頼まれた次号の見出しを決める会議を行います!」

 次に出す新聞の見出しを考えていた。

頼まれたとは言っても小さい枠の一つらしい。

 黒板を叩きながら催促しているのはこの委員会の委員長である。

 ついでに俺は特に役職がない。

 「見出しと言われてもそんなパッと思い付きませんよ」

 俺の言葉に委員長は眉をしかめる。

 「そこをどうにかして出すのが仕事でしょ?」

 「じゃあ委員長はなにか?」

 「そうね……野球部県大会予選突破!とかどうかしら」

 「うちの野球部今年予選の最後でコールド負けでしたよ。覚えて無かったんですか?」

 「あれ?そうだったかしら」

 気まずそうに目を逸らす彼女は。

 長い黒髪に平均的な身長。

 カチューシャを着けているのが特徴だろう。

 あ、あと胸が小さいのも一つ。

 「今失礼な事考えてたでしょ?」

 「そんな事無いですよ委員長。あれ?後ろ向いてます?黒板の方向いてませんか?」

 「ケンカなら買うわよ?」

 「冗談ですってば」

 鋭い視線が俺を捉え近付いてくる。

 目の前で委員長を見上げるところまで来ると広報室の扉が開いた。

 「ごめん遅れちゃった!ってどしたのこれ」

 入ってきたのは同級生の城ケ崎だ

 「いらっしゃい城ケ崎さん。見出しを何にするかで考えていたの」

 委員長は俺への追及をやめて黒板へと戻る。

 城ケ崎はいつもの定位置である俺の隣に座ると頭をコテンと傾けた。

 「見出しね……無難にサッカー部予選大会進出でいいんじゃない?」

 「いや今年のサッカー部大会予選初戦敗退だから」

 「あれ?そうだっけ?」

 気まずそうに目を逸らす。

 このやり取りさっきやったよね。

 てか今年の二代運動部弱くないか?

 「剣道ならそこそこいいところいきましたよね、あと美術部の部員が表彰取ってましたね」

 俺が本校の実績について語っていると二人が感心した表情をする。

 「よく覚えているわね」

 「そりゃ友達がサッカー部と野球部に居ますからね」

 『え?』

 あれ?なんで驚くんだ?

 驚くところ今無いよね?

 だからそんな驚いた表情しないで欲しいです。

 対面席に座っている二人は一度目を見合わせると同時に口を開いた。

 『相葉(君)に友達が居たなんて……』

 

───昔、保険の先生が言っていた。

 涙はストレスを解消するものだと。

 

 つまり今俺の両目から止めどなく流れているこれはストレスを解消するために流れているんだなぁ……。

 ああ、ストレス解消してる。

 ポツン、ポツンと机に雫がぶつかる音が静かになった教室内に響く。

 まさか泣くとは思っていなかったのか謝ってきた。

 「ご、ごめんね。まさかそこまでショックを受けるとは思ってなくて」

 「ごめんなさい、。でも貴方も私の胸をバカにしたからこれでお相子よね」

すると『胸』というワードに城ケ崎が反応してしまった。

 具体的にいうと委員長の慎ましやかな胸をチラッと見てしまったのだ。

 その一瞬を委員長は見逃さなかった。

 「城ケ崎さん?今、見たわよね?私の胸。なに?自分はそこそこ大きいからって当て付け?私には余裕があるって見せつけてるの?もぎ取るわよその肉塊」

 怖っ!さっきも怖かったけど今回は委員長の回りに何か禍々しいオーラが出てるように見える。

 すると城ケ崎は怯えながら俺の方へ走ってきた。

 「こ、怖い!相葉たすけて!」

 隣まで来ると腕に抱き付いてギュッと締め付ける。

 決して小さくは無い胸が腕に当たり何とも形容しがたい幸せな感覚に若干感動する。

 それの行動が更に委員長の怒りを爆発させた。

 てかもう怖過ぎて直視出来ない。

 「またそうやって見せつけてくるのね。しかも相葉君に抱き付いて…覚悟は出来てるわよね?」

 今日の委員長荒ぶりすぎじゃありません?

 いつにもまして暴走気味なのでブレーキをかけるために話しかけた。

 城ケ崎は恐怖のあまり椅子の後ろに移動した。

 「ちょ、ちょっと委員長。落ち着きましょう?」

 すると俺の手首を掴むと早口で捲し立てて来た。

 「貴方もあの肉塊に当てられて鼻の下伸びてたものね。そんなに大きな胸を好き?色んな人が言っているかも知れないけれど大切なのは大きさではなく形よ?形。あんな大きな肉なんて年を取ると垂れるだけなんだから。だから相葉君はこちらに来るべきよ。その肉に呑まれてはいけないわ」

 いや禍々しいオーラどころじゃなくて最早ブラックホールになりそうなぐらい暗いよこれ。

 離れようとしても腕がっちり掴まれて動かないもん。

 引っ張ってもびくともしないし俯いてるから顔も伺えない。

 「いやどっちでもいいですから!取りあえず話を進めましょう!」

 もう巨乳とか貧乳とかどうでもいいから。

 この窮地からいち早く抜け出したいです。

 するといつの間にかオーラが消えて元に戻っている委員長が黒板に文字を書き始めた。

 「今回の見出しは『巨乳狩りの方法』でいいんじゃないかしら?」

 何刀狩りみたいな感覚で言ってんだこの人。

 書き終えたチョークを置いて黒板に背を向けてこちらに振り替えると委員会の目に光が灯っていなかった。

 見ていると吸い込まれてしまいそうなほどに。

 オーラ、ブラックホール吸われた!?

 融合してとんでもない事になってるよ!

 ハイブリッドになってる!?

 委員長の目線が城ケ崎の胸元に行く。

それを感じた城ケ崎は両手で守るように自身の胸を抱き締めた。

 「どう?相葉君。この見出し良いとおもうのだけれど」

 いやどうって……。

 聞くまでも無いだろう。

 「駄目ですよ、当たり前じゃないですか。第一そんな事したら乳揺れが見れ……あ」

 しまったつい心の奥底に眠っている本音が出て来てしまった。

隣と前から注がれる視線が刺々しい。

 「な、なんちゃって……コホン。城ケ崎は何か良い見出しある?」

 すると呆れたと言わんばかりに肩を落とす。

 「よくこの状況からそれが言い出せたよね……もう普通でいいと思うんだけど」

 「いや別にユニークな見出しにしようとは思ってないからね?って委員長!なんでまだ候補出してるんですか!しませんよそんな見出し!」

 黒板には巨乳へのアンチテーゼを綴った見出しが大量に書かれている。

 てか妖怪乳殺しってなんだよ。

 そんな記事だれもそんな新聞は望んでないだろう。

 尚も委員長はチョークで黒板に書こうとする。

 力が強いのかポロポロと粉が下に落ちて彼女の制服のスカートを白く汚す。

 「いい加減にしてくださいよ。ほら、ちゃんとやりましょうって」

 俺は立ち上がると黒板消しを使って書いてあるものを全て消した。

 「そうね……」

 やっと正気に戻った委員長が顎に手を当てて考えている。

 本来なら野球部やサッカー部の大会について載せたいんだが、今回は過去歴代で酷い。

 流石にこれは駄目だろう、彼らの心の傷を抉ってしまこと確実である。

 「今回は美術部とかの表彰とかにしてはどうですか?一人いましたよね」

 「別に大した賞じゃないのよねアレ。私も貰ったし」

 ……ちゃっかり美術部をディスったぞこの先輩。

 自分のハイスペックを棚に上げて美術部の実績ディスったよこの人。

 「じゃあ何が良いんですか?」

 「そうね……ならこれならどうかしら?」

 委員長は平らな胸ポケットから一枚の写真を取り出しテーブルの植に置いた。

 いつの間にか復活していた城ケ崎とその写真を覗くとそこには本校の男女の先生二人が写っていた。

 二人とも笑顔でカメラマンに向けてこちらにピースをしている。

 でもこの写真をどう使ったら見出しになるのだろうか。

 「こうすれば……完璧でしょ?」

 写真をマグネットで黒板に張り付けるとその横に文字を書き始めた。

 えーと、『スクープ熱愛報道!!あの先生達は出来ていた!』

 「出来るか!!」

 「あら、駄目かしら」

 「駄目に決まってるでしょ!!何してるんですか!てかこれは本当に洒落になりませんよ」

 「大丈夫よ、冗談に決まってるじゃない。七割冗談よ」

 「三割本気だったのかよ!!」

 「あ!こんなのはどう?」

 すると今度は城ケ崎が黒板に書き始める。

 『熱愛発覚!!やはり二人は出来ていた!!』

 「だから駄目だっていってるでしょうが!一旦その二人から離れてくださいよ」

 「でもこれなら絶対に見てくれるわよ?」

 「そりゃそうかも知れませんけど、俺達はパパラッチじゃないんですからそういうのはしなくても良いんですよ」

 もう先生二人はそっとしておいてあげて欲しい。

 あの二人ホントはそんなに仲良くないって有名だし……。

 まさに犬猿の中って誰かが言ってたぐらいだ。

 するとまた委員長が黒板で見出しを書く。  

 「なら……『前代未聞!!サッカー部初戦敗退』なんてどうかしら?」

 「傷を抉るな!!確かに前代未聞だよ?今まで初戦で敗退とか無かったからね!?でもそれ傷口に塩を塗ってるしなんならサッカー部全員敵に回すから駄目ですよ!」

 俺が反対意見を言うガクリと背中を落とす。

 よかった……これでサッカー部は守られた。

 「じゃあ、相葉君は何かいい案は無いの?」

 不貞腐れたように委員長がこっちに目線を向ける。

 「それは……はい。そんなインパクトがある見出しは思い付かないですね」

 正直な話、自分自身こういうのは苦手で、人を惹き付ける見出しを作ることが中々出来ない。

 あれから一通り意見(殆ど論外)が出たが、それぞれが納得するものも無く。

 皆が静かになる。

 下校時刻も迫ってきて、今日は帰ろうかとなったとき、城ケ崎が何か思い出したのか大きな声を上げて席から立ち上がる。

 「あ!あれは?最近噂されてる心霊現象の奴」

 初めて聞いた話題に俺と委員長は頭を傾ける。

 「「心霊現象?」」

 まあそれなら全然良いだろう。

 特にこれに至っては在り来たりたが、だからと腐る訳でもない。

 「それで良いかもね、見出し。それ以外には思い付かないし」

 委員長からもOKがでた。

 まだ期限までは時間がある。

 これなら完成させるのも難しく無いだろう。

 するとちょうど下校時刻を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。

 「今日はお疲れ様、これにて解散。気を付けて帰ってね」

 「「お疲れ様でした!」」

 「お疲れ様」

 委員長はまだ少し残るらしく俺と城ケ崎は先に教室を後にした。


 

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