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〜神様のいる世界〜



焦げた大地、

ボロボロになった魔族たちを尻目に

俺はハーフマオリエに抱えられた状態で

空高く飛んでいく。

こんなにも広い空の上から

下の地上を見下ろせば

人間界も魔界もそんなに大差はないんだ。

同じようにみんなが必死に

生きているだけ。


「ブレイト。

これから行く先は天界みたいなもの。

私は転生者だから

魂そのものにほとんど不老不死に

近い呪いがかかっているから

天界に行っても平気。

ブレイトも本来自分の魂に

魔王の魂が入り込んでるから

天界に行ってもさほど

異常はないと思う。


けど、長居は出来ない」


「どうしてそんなこと言うんだ?」


「本来元来、

天界は死んだものがいくところだからよ。

だからもしも身体に異変があったら

言ってほしい」


ハーフマオリエがどんどん

雲を突き抜けて、

空高く飛びながら俺に言った。

この最終局面に近いところでよく

俺の心配出来るな。

少しは自分の心配してくれよ。


「わかってる。

けどハーフマオリエもだぞ。

もう、隠しごとはなし!

他に隠してることあったら吐け!」


俺がドヤ顔で言うと

ハーフマオリエは目を見開いた。


「……隠してるつもりはなかったの。

時期を見て話すつもりだったよ。

どの道ブレイトとパーティを組んで

冒険していけばそのうちバレるのは

わかっていたからね。」


ハーフマオリエはそう言うと

飛ぶのを止めて

ふ、と着地した。

白い大理石のタイルで敷き詰められた

古代遺跡のような場所だ。


「ここが天界……?」


「……の入り口ね。

ここを通る前に神様が

天国行きと地獄行きを決める、って

童話の話知ってる?」


「絵本の?

ああ、昔母さんに読んで貰ったことがある。

まさか、その通りだって言うのか?」


「そのまさかよ。

仕事放棄してなければ、現れるわよ」


ハーフマオリエは

そう言うと、足早に進んで行き

俺はそれについて行く。

すると目の前に大きな遺跡があった。

まるで丸い門のような形をした遺跡は

門から淡い光を放っていた。


「……おかしい」


ハーフマオリエは更に進むと

門の前で足を止めた。


「ハーフマオリエ?」


「……まさか」


「どうしたんだよ?」


俺がハーフマオリエを見つめると

ハーフマオリエは俺の顔を見た。


「あの放任主義者……

下界に降りてる」


「は!?

ってことは人間界に!?

なんで!?」


「……気まぐれに下界に降りて

器探して戻って来るの。

たぶん、前のは相当歳とってたし」


「どういうことだよ!?」


「神様といえど魂だけでは

存在出来ない。

だから1番魂と相性の良い人間の身体を

器として探して拉致していくの。


勿論、その器の持ち主に

関わった人、全員の記憶を改ざんしてね」


「来た意味ねぇ!」


「あの放任主義者、1000年前の身体

長々と使ってたからそろそろ

替え時だと思ってたけど

まさか今回と被るなんてね。

ブレイト、すぐに人間界に戻りましょう」


ハーフマオリエは俺の腕を引っ張ると

そのまま俺を姫抱きにして宙に浮いた。


「ゲートはどうするんだ!?

ヴァンは魔界だろ!?」


俺はハーフマオリエの首に

しっかり腕を回しながら叫ぶ。


「あら忘れたの?

私が魔導師だってこと。

魔導師なら、何処でもゲートを開けるの」


ハーフマオリエは

《ゲート》と叫ぶと目の前に

人が通れるような大きさの

黒い渦を巻いた空間が

ブォン、と音を立てて現れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……そういえば

ハーフマオリエ、魔導師だったね……

チートスペックの」


俺が呟くと、既にゲートをくぐって

直ぐに人間界の亜人の村の

リアが待っている小屋、

ハーフマオリエの部屋にいた。


「なんでここに?」


「前に人間界から

魔界に行ったところがここなの。

私がいくら魔導師だって、

流石に魔界や天界から人間界の

次に行きたいところを

指定出来るわけではないよ。


まあ、人間界なら行きたいところ

すぐに空間転移で行けるから

必要ないんだけどね」


俺がぽかん、として質問すると

ハーフマオリエは説明しながら

俺を下ろした。


「とりあえず外に出ましょう。

あの放任主義者のことなら

きっとヨボヨボの身体で動いてるはずだから

そんなに遠くにいるわけでは

ないと思う。


外に出て使い魔に

痕跡を追わせれば

居場所がわかるはずよ」


ハーフマオリエはそう言うと

小屋から外に出て行く。

俺も後を追うと、

そのまま外に出た。

なんだか村の方が騒がしい。


「……なんだ?」


俺が村の方を見ると

噴水広場に村人が集まっていた。

なんだ、あの噴水もう出来たのか、

と思っていると

なんだか村人が次々と倒れていくのが

目に入った。


「ハーフマオリエ!あれ!」


俺が指差すとハーフマオリエも

気がついたようだ。

次々と村人が頭を抱えるようにして

倒れる中、噴水の近くにいた

見慣れた恩人、リアがいる。

リアも頭を抱えて苦しそうだった。


「何が起こってるんだ!?」


「ブレイト、まずいわ。

あの放任主義者……

次の器をリアにしようとしてる」


「は!?

じゃあ、リアは神様に

乗っ取られるってことか!?」


「その通りよ」


「止めないと!」


ハーフマオリエより俺の方が先に

飛び出して行った。


「リア!しっかりしろ、リア!」


「……?ブレイト……さん?

あれ……?なんで、

ハーフマオリエさん……は?」


「ハーフマオリエもいる!

一緒に来たんだ!

リア、しっかりしろ!

お前がいなくなるのは嫌だ!」


俺がリアの身体を揺さぶると

リアは少し嬉しそうに微笑んだ。


「良かった……、ブレイトさんが、

ハーフマオリエさんと……再会出来て……。

それだけ、ずっと気がかりだったの……」


リアは何処か安心したような表情で

俺を見つめた。


「ハーフマオリエ!

何とかならないのか!?」


「出来ないことはないけど」


「頼む!」


俺がハーフマオリエに懇願すると

ハーフマオリエは呆れたようなため息を

ついた後に何処か優しげに微笑んでいるように見えた。


「そう言うと思ったよ」


ハーフマオリエがリアの

心臓部分に手を重ねて

瞳を閉じた。


「ハーフマオリエ、さん……?

良かった……無事……だったんですね。

私、貴女が……何処か

遠いところに行ってしまった

んじゃないかって……心配で……」


リアが健気にハーフマオリエを

見つめてハーフマオリエの手を握り返すと

ハーフマオリエは黙ったままだった

口を開いた。


「いい、リア。

貴女は神から洗礼を受けて

その身体を狙われてる。

そいつは貴女と

貴女に出会った全ての人の記憶を

容赦なくなかったものにするわ」


「……?

忘れちゃう、ってことですか?」


「そうよ。

貴女が大切にして来た

この村の、家族である人たち

全てを忘れてしまう。

それは貴女だけじゃなくて

この村の人たちも貴女のことを忘れてしまうの。


いいの?

何もかもなかったことになっても。

貴女が好きだと思った

この村が消えて無くなるのと一緒よ」


「……無くなる?……村が?」


「貴女がいてこその村でしょ。

貴女がいなかったら

この村は成立しない」


リアはハーフマオリエの言葉に

徐々に自分が置かれている

この状態を理解していっているようだ。


「リア、俺は。

俺はお前のこと忘れたくない!

お前は、俺のこと

忘れてもいいのか!?」


俺が心の底から叫ぶと、

リアの真っ赤な瞳から一筋の涙が零れた。


「わ、私は……、

わすれ、たく……ないッ……!」


リアの身体がパアッと光り輝く。


「ブレイトさんのことも、

ハーフマオリエさんのことも……、

私は、私の家族を

幸せにするまで、絶対忘れない……!


私はこの村の村長なんだから!」


リアがそう言い切ると

そのまま眩い光がその場を包んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……?

あれ、頭痛……治まりました」


リアがきょとん、としているが

俺はたまらずリアに抱きついた。


「よく頑張ったぞ、リア!

って……あれ、なんか手が光ってね?」


俺は喜びに満ちていたが

リアの手が異様に光っているのを見て

身体を硬直させた。


「リア、おめでとう。

貴女……賢者の素質、ありよ」


「は!?」


ハーフマオリエの言葉に俺がびっくりしていると

リアはきょとん、とした顔のまま

ハーフマオリエを見つめた。


「リアにはもともとそれっぽい

素質はあったんだけど……。

あの放任主義者のおかげで、

覚醒しちゃったみたいね」


ハーフマオリエはやれやれ、と

ため息を軽くつくと

少し疲れたような顔をして

噴水の近くのベンチに腰掛けた。


「賢者、ですか。

私……村長なんですけど……」


「大丈夫よ。

賢者は賢者のスキルの上げ方次第で

作物が枯れた時に元気にしたり、

雨が振らない時に振らせたり、

病気とかが流行ったら軽く治したり、

色々役に立つことが多いから

なっておいて損はないわ」


ハーフマオリエがそう言うと

鞄から何冊か本を出すと

リアに手渡した。


「それ、村とかで活用出来そうな

スキルの獲得出来るステータスの

記載された本だよ。


それあげるから

後はやりたいようにしな」


リアはすごく嬉しそうに

真っ赤な瞳をきらきらさせて

丸くてふわふわした真っ白な尻尾を

ふりふりさせた。


「あ、ありがとうございます!」


「なあ、ところでリアのこと

乗っ取ろうとした神様は?」


「ああ、それなら……」


俺の疑問にハーフマオリエは

下に目線をやった。

俺が下を見ると、そこには。


1匹の猫。


「神様猫になったの!?」


俺が叫びながら聞くと

ハーフマオリエは右手の親指を

グッと俺の目の前に無表情で突き出した。


「何その表情!?

感情と仕草が全然一致してない!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『よくもやってくれたなぁ、お主』


「古臭い話し方はいい加減やめなさいな。

人間の目の前じゃ

今のあんたはただの猫なんだから」


『そうか。じゃあやめるニャン』


「気持ち悪い喋り方するのはやめて。

吐き気がする」


神様らしき猫が

ハーフマオリエと話す。

ちなみにハーフマオリエは

何故か少しだけ嫌そうな顔だ。

こんなハーフマオリエの顔を見るのは

相手がヴァン以来だから新鮮だった。


『話を戻すかね?

わたしの身体、猫になっちゃったんだけど

どうすればいい?』


「知らん」


あれ、このやり取り何処かで、

と思いながら俺が

ハーフマオリエと猫になってしまった

神様を交互に見ていると

リアがガチャ、と扉を開け

お盆に紅茶とミルクを持って来た。


「リア、もう動いていいのかよ?」


「?はい。何故か前よりも

身体はすごく動きやすいですね」


なんででしょう?とリアは言いながら

俺とハーフマオリエに紅茶のカップを、

神様は猫になってしまったのでミルクを置く。

ちなみにあれから村人は

何事もなかったように各々仕事し始め、

俺たち一行はリアの住んでいた

あの小さい家に来ていた。


「リアは前は普通に

暮らしてるだけだったけど

今日から賢者に目覚めたわけだし、

身体もスキルで軽くなったりするよ」


ハーフマオリエが紅茶を飲みながらそう言うと

はぇー、とリアが不思議そうな顔をして聞いていた。


『わたしの話を聞けーよー……。

わたし、なるべく人間の身体が

良かったのに何してくれちゃってんの?

本当不便なんだけど』


俺の目には猫がひとりでに

喋っているようにしか見えないのだから

段々面白く見えて来た。


「もともと人間裁く用に

人間の身体を器にしてたんでしょ?

もう猫でも相性のいい器が

無事に見つかったんだから

もう今回はその器でいいんじゃない?」


『他人事!?

やだよ俺、猫のまま

人間裁くの!』


ハーフマオリエと神様(猫)の

やり取りになんだか昔の自分と

ハーフマオリエとのやり取りがダブって見える。

気のせいなんだろうか?



「別に猫でも出来るでしょ、

天国行きと地獄行きの判決。

人間は神様には逆らえないんだし」


『うるせー、魔王め!

てからなんでここ魔王2人もいんの!?

聞いてない!!』


「あんたが仕事サボってたからだよ」


『いいじゃん別に!?

じゃあお前やってみろよ人間裁くの!


「わたしぃ、元カレの浮気でぇ〜

カレ殺しちゃってぇ、地獄ですかぁ?」

とか言うギャルに地獄行きしてんだよ!?


まだ「人殺しちゃった☆しかも連続で!」

みたいなのが地獄行き渡しやすいよ!?

まだいいよ、上二つは!


もっと面倒なのは

「昔、子供のころ

駄菓子屋のうんまい棒盗んだことあります。

でもうんまい棒の魅力には抗えなかった

ので僕は悪くありません。

うんまい棒が美味しいのが悪いんです」

とかもうどうしようもなくね!?


確かに駄菓子屋のあの魅力的な雰囲気はわかるよ!?

駄菓子屋見ると妙にそわそわするもん!

うんまい棒知らないけど自分を

正当化されるとこっち判断しにくいの!


しかも悪いことが小さい!

俺裁けないよ!?

地獄行きしちゃっていいの?これ?みたいな!


もう仕事疲れちゃったんだもん、俺。

サボってもよくない?

誰も咎めないもん、良くない?』


ギャーギャーと日頃の鬱憤をぶちまける

神様はもう猫が愚痴を言っている

ようにしか見えなかった。

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