〜魔王との対面〜
魔王。
俺が討伐する存在。
最初に王様にそう命令された時は
本物の勇者になった気分を
心の底から感じ、嬉しかったのを覚えている。
なのに、どうしてこんなに
胸が苦しいんだ。
「ハーフマオリエが、魔王……!?」
ヴァンに抱えられ、宙に浮いたまま
俺は驚きを隠せないでいた。
「あは♡ブレイトくんのその顔……唆るね♡
ボク……濡れちゃいそう♡」
頬を赤らめて涎を垂らす
変態サキュバス。
俺たちの周りはもうほとんど屍の山で、
さっきまでの剣同士のぶつかる金属音だとか
爆発音だとかはもういっさい
気にならないのほど静かだった。
「嘘だろ、ハーフマオリエ!
頼むから嘘だって言えよ!」
俺の叫び声に真っ黒な巨大なドラゴンが
霧のように消えると、
そこには宙に浮いた状態の
ハーフマオリエが目の前にいた。
「……残念だけど、
魔王は私だけじゃないの。
貴方もよ、ブレイト」
ハーフマオリエの衝撃的な真実に
俺の頭は鈍器で殴られたかのように
頭痛が鳴り響いた。
「……な、何を言って」
「え??それまじ?
ブレイトくんも魔王だったってこと?
あ!それでボクの特性、
チャームが効かないんだ!
勇者特有の加護かと思ってたけど
Lvクソなブレイトくんに
特有なんかあるわけないしね!」
ハーフマオリエの言葉に
ヴァンも驚いたのか
すぐに合点がいったようで
失礼なことを言いつつも
なるほどね〜、と呟いていた。
「俺が、魔王?
ハーフマオリエじゃなくて?」
「私と、ブレイトが魔王。
前に聞いたでしょ?
魔王の魂はバラバラになってる。
私たちは巻き込まれたのよ」
ハーフマオリエが
俺をヴァンから交代で抱き上げると、
たった数時間しか離れていないのに
懐かしいハーフマオリエの
きれいな顔に俺は泣きそうになった。
「巻き込まれたって……」
「そのままの意味よ。
前に魔王が倒された時、
魔王は最期の抵抗に
自分の魂を媒介にした呪いを産んだ。
そしてその魂は見事に
砕け散って2つに別れた。
ひとつは私に。
もうひとつは赤ん坊だったころのブレイトに。
だからブレイトが勇者として
Lvが一向に上がらないのは
魂が魔王なのに気が付かず、
そのまま勇者として成長しようと
して抗ったせいよ」
「……だから、俺のLvは上がらなかったのか」
「勇者としてのLvは上がらず、
魔王でも使えるスキルのみの習得。
まさにクソゲー、そのものよ。」
俺が整理の追いつかない頭で
ハーフマオリエの説明を聞く。
だんだんと状況が読めて来た俺は
ひとつの疑問に辿り着いた。
「……ハーフマオリエは
どうしてそこまで知ってるんだ?
もう、全部教えてくれよ。
俺は、ハーフマオリエの全部を
知りたいんだ」
「……どうして?」
ハーフマオリエがじっと俺を見つめた。
俺はぐっと拳を握り締めて、
覚悟を決めた。
「ハーフマオリエが、好きだからだ!」
バクバクと鳴る心臓の音も
顔に熱が集まるのも、
ハーフマオリエだけだ。
「……そう。
わかったわ……。
私に聞きたいことは何?」
「ハーフマオリエが
どうして俺の赤ん坊のころから知ってるんだ?
俺とハーフマオリエの年齢は
変わらないはずなのに」
俺が疑問に思っていたことを
ハーフマオリエに聞くと
ハーフマオリエは観念したように
口を開いた。
「私が転生者だから。
私が魔導師になる前は、
魔王を倒した勇者だったの。
勿論、前の勇者の身体は
ボロボロになってしまったから
国の方で埋葬させたけどね。
私たち転生の一族は
魂は何万年も生きるけど
身体はその都度、変えているの。
身体は人間にするつもりなかったけど」
「ハーフマオリエが
先代勇者!?」
ハーフマオリエが転生の出来る一族だったことや
2度目の人生を送っていたことが
俺の中では到底信じられなかったが
更には先代勇者だった事実に声を荒あげた。
「私が2度目を迎えるにあたって
魔王の魂がもうひとつ
別れたことに気づいて
直ぐに使い魔を派遣させたわ。
そうしたら生まれたばかりの
赤ん坊の魂に重なるようにして
魔王のもうひとつの魂が入っていったのが
ブレイトの身体だった。
まさか勇者の家系に
魔王が魂を送り込むとは思わなかったけど。
よっぽど勇者を恨んで亡くなったのかも」
俺はハーフマオリエの話を聞きながら
あることに気がついた。
「なあ、ハーフマオリエ。
ハーフマオリエは……一体いつから
俺と一緒にいたんだ?
俺の知る限り、もう物心つくころから
一緒にいるイメージなんだが」
「この身体を手に入れて直ぐよ。
それからブレイトの家に孤児として
養子に入った」
ハーフマオリエの言葉に
俺は少しだけホッとした。
これまでハーフマオリエと
一緒に過ごしていたことも嘘だと
言われたら流石に立ち直れないが
そうでないならそれでいい。
「私は最初から
ブレイトに魔王の魂が入っていると知っていた。
私とブレイトがこの歳まで
身体が成長するまでに
魔界の方で人間派閥と魔王派閥の冷戦が起こったり、
急に人間界の一部の地方の治安が悪くなったり
この世界のバランスは深刻だった。
私は各世界の魔法使い、
魔術師たちに色々と教えながら
世界のバランスを崩れないようにしていた」
「じゃあハーフマオリエは
魂こそ魔王に呪われたものの、
悪いことはしていないじゃないか!」
「それでも人間界は止まらない。
いくらこうして魔界が
人間派閥を広めても、内戦を繰り返しても、
人間界は治安の悪くなったことも
経済や収穫が悪いのも
全て魔王のせいにして
魔王のいない間も勇者を送り続けた」
「……じゃあ、人間界が悪いのか?」
「どちらも悪いことなんかしてないわ。
悪いのはこの世界のバランス。
放任主義の神が怠けているせいよ」
俺の質問に恨めしそうに空を見上げる
ハーフマオリエ。
「それじゃあ、
神様を倒せって言うのか!?」
「……ちゃんと仕事しろって
脅すだけで充分だと思うわ。
どちらにせよ、
この世界を救うには
神様に謁見を求めないといけない。
本当なら
私が1人で行くつもりだったのだけど……。
一緒に来る?」
ハーフマオリエが
俺を見つめて聞いて来た。
「……当然だ!
ハーフマオリエをもう1人にはしない!」
俺の叫び声にハーフマオリエは
ほんの少しだけ目を潤ませて微笑んだ。
「ありがとう、ブレイト……」