〜チート魔導師の秘密〜
ぼんやりと宙に浮く感覚。
ああ、最近よく夢を見るなあ……。
と思いながら俺は
ゆっくり夢を見た。
見たことない豪勢な広間。
大きなシャンデリアに
何となく王宮に似ているなあ、
と何処と無く思った。
ふわふわと宙を漂うように進むと
目の前に鏡張りの大きな廊下。
ふと自分の姿を見ると……
真っ黒な大きい豚になっていた。
「うわあああ!!」
ドサッ!と勢いよくベッドから床に
叩きつけられるように落ちて、
目が覚めた。
なんだあの夢は。
昨日リアがお花のお礼に
晩御飯をたくさん作ってくれたので
確かに食べ過ぎたと思うけど、
流石に豚はないだろう、豚は。
しかもあんなに丸々太って、更には黒豚だぞ?
絶対食べたら美味しいやつでしょ。
悪夢なのか飯テロなのか
よくわからなくなった俺は
ひとまず起きようと思って
重たい腰を上げた。
「おっはよん♡ブレイトくん!」
「ぎゃあああ!!でたぁあああ!!」
神出鬼没なこの声は、
あの変態サキュバス……ヴァンだ。
「そんな驚かなくったって
いいと思うんだけどなぁ?」
「いきなり出て来んな!
てかどっから入って来た!?」
「窓から不法侵入したよん♡」
「自由か!」
朝からゼーゼーと息を切らしながら
俺はヴァンを睨みつけた。
「せっかくの俺の癒しライフが!
またこの変態に汚される!!」
「ね♡もう少しボクが来るの早かったら
イタズラ出来たんだけどな〜」
ヴァンは人差し指を唇に押し当てながら
ニヤニヤと怪しく笑っていた。
ヴァンの言葉にそういえば前にこいつが
朝っぱらから上に跨がっていて
ハーフマオリエにドン引きされたのを思い出す。
「しなくていいから!
てかなんだよ朝から!」
「ぉ、おはようございます……ブレイトさん。
何かあったんですか?」
ひょこ、と顔を覗かせるリア。
多分俺の叫び声が聞こえて
見に来たんだろうが、
リアのためにも俺はヴァンに
跨がれてなくて良かったと痛感した。
あんなもの幼女には見せられないよ。
「お♡可愛いね〜君♡美味しそ♡」
「やめろ!リアが穢れる!!」
舌舐めずりしているヴァンを
見ないように俺がリアの盾になった。
「ぇと?……誰かいるんですか?」
「リア、見るな!
こいつは存在自体が
18禁そのものなんだから!」
戸惑うリアに俺は必死にリアの目を塞いだ。
「失礼だねぇ、ブレイトくん。
ボクこれでもしばらく断食してるんだよ?
君を捕食した時、その方が絶対美味しいからね♡」
「何物騒なこと言ってんの!?」
ギャーギャーと俺が反発していると
ヴァンは仕方ないなあ、と言う。
何をするのかと思ったら
ヴァンは普段あまり見ない羽根を
腰あたりから生やし、
露出の高い服が亜人の村人が
着ているような服に変わった。
「ブレイトくんの為にそれらしくしたよ。
これで文句ないかい?」
「……問題ねぇけど、
それどうなってんだ?」
「ああ、ボクらの肌って
君たちから見ると服に見えるんだよね。
だからこうやって自由に形を変えたり出来る
ってわけさ」
「それ実質裸じゃねぇか!!」
「大事な部分見えてないから良くない?」
「つーかこの間服脱いでた時あっただろ!?
あれどうなってんだ!?」
「なはは、脱皮だよ。脱皮」
「蛇か!」
俺がマシンガントークしてるうちに
いつの間にか俺から離れたリアが
ヴァンを見つめていた。
「ぇと、お客様ですか?
この村ではあまり見ませんが……」
「気にしないで♡
ちょっとお使いで来たんだ。
鴉の亜人、ヴァンで〜す。よろしく♡」
「ぁ、うさぎの亜人の、リアと申します」
軽く挨拶するヴァンと
ぺこりと行儀良くお辞儀するリア。
「……てかなんで魔族って黙ってるんだ?」
俺がコソコソとヴァンに
それとなく聞くとヴァンは
いつになく真剣な表情で笑った。
「魔族って聞いたら驚いて怯えるのが普通だよ?
ブレイトくんはボクの知り合いだし、
勇者だからわかんないかもだけど」
ヴァンの言葉に
だから隠したのか、と思うと
リアは?という顔をしていた。
「それで、ヴァンさん……。
ぇと……お使い?とは一体?」
「ああ、そうそう。
ブレイトくんに速報持って来たの」
リアの質問にヴァンは
俺に向き直ってにこっと笑った。
こいつが笑うと嫌な予感しかしない。
「んとね、簡単に説明すると……。
ボクの故郷で戦争起こっちゃった☆」
ほらな。こいつはトラブルしか持って来ないんだ。
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ヴァンが説明するには
ヴァンの故郷である魔界で
人間派閥VS魔王派閥
というデスマッチ……戦争が起こったのだそうだ。
「ええ!?それは大変ですね……!
親御さんとかは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。多分民間人は
安全な場所に避難してるはずだし。」
リアの慌てふためいた質問に
ヴァンは優しく答えた。
「なぁ、なんでまた戦争なんて
起こったんだ?」
「んー……、
詳しくはまだわからないんだけど。
多分、利害の不一致かな。
人間たちと仲良くしたい一族と
独立したい一族が喧嘩してるって感じだよ」
ヴァンの説明に
以前ハーフマオリエが
そんなことを言っていたことを
思い出した。
「それと俺のなんの関係があるんだ?」
「関係ありまくりだよ〜。
超あるよ〜。
だって、ハーフマオリエたん、いないでしょ?」
ヴァンの言葉に俺は目を見開いて、
次の瞬間には席を立って
ハーフマオリエのいる部屋の扉を叩く。
「ハーフマオリエ!?いるか!?
いるんだろ、開けてくれ!」
ヴァンの悪い冗談であってほしい。
それなのに扉は開かない。
「ブレイトさん、これ」
急いでやって来たリアに渡された部屋の鍵で
ガチャガチャと鍵を開けて
部屋の扉をバッと乱暴に開けた。
誰も、いない。
「だから言ったのに」
「……どこだ」
「へ?」
俺のドスの効いた声に
ヴァンの間抜けな声が聞こえた。
だが俺はそれどころじゃない。
「ハーフマオリエは何処だ!?」
「たぶん戦場〜」
「は……?」
俺の鬼の形相にも動じず
若干頬を赤らめてハァハァ言いながら
呑気に答えたヴァンに
俺は目が点になる。
「知らないの?
魔導師は世界の戦場において
ありとあらゆる国から
その力を買われるの。
ハーフマオリエたんのとこにも
手紙が来てるはずだよ〜」
ヴァンの言葉が入って来ない。
ハーフマオリエが戦場に。
「……俺も行く」
「ブレイトくんが?
やめときなよ。Lvクソなのに」
「……っ!それでも行く!」
「残念だけど、戦場に君の役割はないと思うよ〜。
でも、ボクについて来てくれるなら
ハーフマオリエたんには会えると思うよ」
ヴァンの言葉に俺は彼女を見ると
ヴァンはいつの間にか
ハーフマオリエがいつも本や書類を
置いている机の上にあった
1枚の紙を俺の目の前に差し出した。
『ブレイトへ
少しある国に呼ばれたから行って来ます。
直ぐに終わるのでその間は
ヴァンから話を聞くこと。
話を聞いたら熱くならずに
そのままリアと小屋で待つこと。
絶対守って。
ハーフマオリエ』
ハーフマオリエの置き手紙に、
俺は自分の目すら疑った。
ハーフマオリエが魔界にいる。
しかも戦場に。
どうして何も言ってくれなかったんだ。
「どうする?
ボクと一緒に来る?」
ヴァンが怪しく微笑む中、
リアはオロオロと俺を見つめた。
「……少し、賭けさせてくれ」
俺はゆっくり息を吸って吐くと
ピアスに意思疎通をする。
これで出来なかったら、
俺はハーフマオリエのところに行く。
『ハーフマオリエ、聞こえるか?』
ピアスに意思疎通をしたが、返事がない。
なら、決まりだ。
「ヴァン。俺をハーフマオリエのところに
連れて行ってほしい」
「そう来なくっちゃ」
俺はリアに旅に必要な食糧を用意してもらい、
身支度を素早く済ました。
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「それじゃあリア、行って来る」
「お気をつけて……!」
俺がリアに小屋を預けて出ると
ヴァンは俺を後ろから
いきなりお姫様抱っこした。
「急ごっか!」
ヴァンが羽根をはためきさせて
空を飛んだ。
「うおおおおい!?急過ぎる!
ちゃんと前持って言って!?」
「だって急ぎだし?
それに今回のゲートは空なんだよ」
ヴァンに言われて空を見ると
厚い雲に隠れて空の一部に
丸くて暗い空間があるのがわかった。
「ゲートって場所に寄って違うのか……」
「まあ、ハーフマオリエたんみたいな
超一流魔導師になると
何処からでも行き帰り可能なんだけどね」
ヴァンが飛びながら俺の質問に答えていく。
俺はヴァンに対してずっと前から
疑問に思っていることを聞くことにした。
「ヴァンはハーフマオリエのこと、
どのくらい知ってるんだ?」
「藪から棒に何?
っていうかボクが知りたいよ。
君はハーフマオリエたんの何を知ってるの?
ボクから聞くより、本人から聞いたら?」
少し揶揄されるような言い方をされ、
俺はヴァンがゲートをくぐったのを見届けた。
「今回は変装という名の設定は要らないね?
ブレイトくんはハーフマオリエたんを
迎えに来ただけだし」
ヴァンがそう言うと俺は頷いた。
「戦場でどうやってハーフマオリエを
見つけるんだ!?
何処にいるかわからないと
来た意味がない!」
もうすでに俺の真下では
剣同士のぶつかる金属音や
飛び交う矢に銃声、
何処から来るかわからない魔法に
雄叫び、やられていく兵士の絶叫、
血と汗と煙の匂いに頭が痛くなりそうだった。
「ハーフマオリエたんならすぐわかるよ。
ほら、あれだよ」
ヴァンの指差す方向をバッと見ると
そこだけやけに燃え盛る炎で
まさにこの世の終わりそのものだった。
「流石だよね。
1人で地獄絵図作ってるようなものだよ」
ヴァンが関心しながらニヤニヤと笑う。
燃え盛る炎の先に、
煙から姿を表したのは
俺が見て来たどんな建物よりも大きな、
1頭の真っ黒なドラゴンだった。
「ハーフマオリエはどこに!?」
「だからいるって、目の前に」
ヴァンの言葉に俺は目を細める。
ドラゴンの上にでも乗っているのか、
やはり姿は何処にも見えない。
ふと、ドラゴンの耳の部分に
きらきらと輝く赤いピアス。
……まさか。
「ハーフマオリエ……?」
ハーフマオリエは、ドラゴンになったのか!?
『ブレイト……?
ああ、来てしまったのね。
あまりこの姿は見られたくなかったのだけど。
貴女が彼を唆したのでしょう?
人間派閥のリーダー……、ヴァン・リー』
全身で感じるハーフマオリエの声に
俺はヴァンを見た。
ヴァンが人間派閥のリーダー!?
「最近あの双子ちゃんから任されたの、
よく知ってるね〜。流石だね〜。
ハーフマオリエたん♡
いや、それとも敬意を込めて
こう呼んだ方がいいのかな〜?
ボクらの創造主……、魔王様♡」