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〜勇者、束の間の休息〜


ベッドでゴロゴロと

惰眠を貪って早3日。

この1週間で俺の身体は

だいぶ回復した。


「後遺症も無事ないみたいだし、

今日は身体を動かすついでに

リアと亜人の村にでも行って来たら?」


ハーフマオリエはそう言いながら

リアお手製の紅茶を飲んでいた。


「ブレイトさん……、ぁ、あの……

私からも、お願い出来ますか?

今日のお買い物、荷物……その、多くて」


申し訳なさそうに言うリアに

俺はベッドから起き上がった。


「いいぜ。

俺もちょうど身体を動かしたかったし」


「何かあったらピアスで呼びかけて

くれれば直ぐに行くよ。


それ、多少遠くくらいなら

意思疎通出来るはずだから」


ハーフマオリエはどうやら小屋で

留守番しているようで

全く動く気配がない。

優雅に紅茶を飲みながら

分厚い本を読んでいる。


「おお。わかった。

それじゃあ行って来るな」


俺はそう言うと出かける支度を済ませて

リアと小屋を出て村に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……にしても何かだいぶ変わったな?

前に来た時とは違う気がする」


「ぁ、はい。

ブレイトさん達が都市に向かった後で

ハーフマオリエさんから使い魔が来まして……。

お手紙で色々教えて貰ったんです。


……村の復興の仕方を」


俺が村を見渡しながら歩く中、

リアはとことことついて来ながら説明してくれた。


「村の復興か。

それでこんなに……」


「あ!村長!

今日出来たばかりの野菜、

持って行ってくれ!」


「……ぁ、ありがとうございます。

えと、出来がいいのは、その、街に

送って下さい」


……ん?


「えええ!?リア!?

村長になったの!?」


「ふぇ……?あ、最近なりました」


リアの衝撃発言に俺は

目を丸くした。

リアの周囲の亜人たちは

村長!と笑顔でリアに

色々なものを貢いで行く。


「……荷物が多いってまさか

このことだったのか?」


「そう、ですね……」


えへ、と照れくさそうにはにかむ

リアに癒されながらも

俺は納得した。

いくら幼女であっても

一時は村でしっかりしていた

リアのことを村の人は知っていたのだろう。

更にそこから村の復興に貢献していたのなら

村長になったのも頷ける。


「村長!最近村長が教えてくれた

魚の養殖に成功したんだ!

だからこの魚、貰ってくれ!」


「村長殿!薬草の栽培もうまくいってますぞ!

また必要な時は是非ともいらしてくれ!」


「村長さまー!今度はいつ

遊んでくれるの?

僕ね、この間村長さまから教わった方法で

母さんと布を結ったんだ!

これで服、たくさん作るからね!」


村人たちでどんどんリアが埋もれていく。

てか買い物じゃなくね?

神様への貢物レベルじゃね?


「あ、ありがとうございます……皆さん。

1度村を巡回したら、また来ますね」


リアの控えめな声と共に

村人たちはリアを讃えながら

去って行った。


「すげぇな……。

いつもこうか?」


「最初はそうでもなかったんですけど、

いつの間にか……」


えへへ、と笑うリアに

リアも好きで村長やってるのかと思うと

少しだけ安心した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれからリアが連れて行ってくれたのは

食料品のお店と日用品のお店だった。


「そういえば、ブレイトさんは

何か足りないものありますか?」


リアに聞かれて、

俺は即座には浮かばなかったが

ふと思いつく。


「……なあ、この村に

その、なんか女の子の喜ぶものとか

売ってねぇかな」


「えと、最近出来たばかりの

お花が売ってる種屋さんと、

あとはガラス細工屋さんですかね」


リアが指差すと

遠くの方にそれらしい看板が

ちら、と見えた。


「ありがとう。

俺、そこ寄って来るわ」


俺はそう言うとリアは

?という顔をしていた。


「あの、私……

すぐそこの工房施設に用事があるので、

何かあったら来て下さいね」


リアの言葉に手を降って応えると

リアはそのまま向かい側の

工房施設に歩いて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あー、悩む……。

どうしよう」


俺は頭を抱えながら

うーん、と悩む。

俺がこうして女性層の高い店に

わざわざ来たのには理由がある。

日頃世話になってる

ハーフマオリエと

ここ数日間泊めてくれたリアへの

プレゼント探しだ。


「お兄さん、何かお探しですか?」


恐らく鹿の亜人であろう女性が

俺に声をかけて来た。

エプロンをしていたから

この店の従業員だろう。


「えと、実は……プレゼントでして」


「女性への?

それはいいですね。

奥様ですか?」


「へ!?いや、奥さんではないです。

ただ、日頃世話になってて」


俺の妄想では

ハーフマオリエは嫁認定だけど

現実悲しいかな、そうでは無い。


「あ、あと最近泊めてくれた

うさぎの女の子にも贈りたくて」


俺がそう言うと

店員はうさぎ、ですか

と悩む素振りも見せずに

すっと指さした。


「あの子なら喜びますよ」


にこ、と笑う店員さんに

選んで貰ったのは……

クローバーとたんぽぽだった。


「こんなのでいいんでしょうか?」


「うさぎの方なら確実です。

人気ですから」


ここはこのお姉さんを信じて

買っておこう。

そのクローバーとたんぽぽは

お姉さんがブーケにしてくれたが、

めちゃくちゃ安かった。

ありがとうございましたー、

という店員さんの声を後にして

俺はガラス細工屋に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ひぇええ……、高……」


ガラス細工は当たり前だが

さっきのクローバーとたんぽぽよりも高い。

でもハーフマオリエのプレゼントだけ

決まってない。

それはまずい。


「お兄ちゃん、何かお探しかい?」


また声をかけられた。

ムキムキな筋肉を持つ彼は熊の亜人だろう。


「えと、その、プレゼントを、ですね」


「がはははは!なんでぇ、かみさんかい!?

粋なことするじゃねぇか!」


キョドりまくっていると

おっさんがバンバンと俺の背中を叩いたせいで

今日食べたリアの昼食を

軽くリバースするとこだった。

おかげで噎せて否定すら出来ない。解せぬ。


「どんなかみさんなんだ?

うちのはいいぞお、美人だし!

おっとお兄ちゃんには紹介出来ねぇな!

がはははは!」


店員なのか作業員なのかよく分からない

格好をしているおっさんは

自分の奥さんの話をした。

俺の話は聞く気ないらしいが

一応ハーフマオリエの特徴を思い出した。


「えと、物静か……というか

クールビューティー?で頼りになって……」


「姉御肌なかみさんか!なるほどな!

お兄ちゃん予算はどれくらいなんだ?」


俺の話を遮りおっさんが聞くので

俺は小銭が入った袋を取り出した。


「なるほどな!

ならいいのがあるぜ!

ちょっと待ってな!」


おっさんがドカドカと奥に入って行くと

俺はふう、と一息ついた。


「待たせたな、お兄ちゃん!

ベネチアンガラスの腕時計だ!

これならお兄ちゃんの財布にも優しいぜ!」


おっさんが箱から取り出したのは

アイボリーの腕時計。

時計の部分はきらきらと

カラフルなガラス細工が埋め込まれている。


「日常的に使えるやつがいいと思ってな!

うちのかみさんも専業主婦になってからは

時間ばっかり気にしててな。

新婚さんならこれが1番!

お兄ちゃん若いだろうし、

今日はまけてやるから

また来てくれよ!」


俺は新婚だなんて一言も言ってないが

まけてくれるならありがたいので

黙っておこう。

俺はガラス細工屋で腕時計を買って

ありがとなー!とばかでかい声で言う

おっさんを尻目に店を出た。

なんだかんだでこの村、

色々揃ってんだなあ。

そう思いながら歩いていると、

何やら建物を作っている広場にリアがいた。


「リア、悪い。待たせた」


「ぁ……、ブレイトさん。

私もさっき来たところです」


リアが俺に気がつくと

ふりふりと手を降ってくれていた。


「……なあ、この建物何が出来るんだ?」


「噴水です。

村の人達が毎日遠くの井戸で水汲みしてるので

少しでも近くに水場を作ってあげたくて、

工房に作って貰っているんです。

先程は噴水の出来栄えについて

話して来たところなんですよ」


先程工房施設にリアが

行っていたのはそういうことだったのか。

リアがきらきらした目でそう言うと

俺はなるほどなー、と呟いた。


「あ、そうだ。

ここ数日間世話になったから

よかったらこれ、貰ってくれよ」


俺が種屋で買ったブーケの

クローバーとたんぽぽをリアに渡すと

ぱあっとリアの真っ赤な瞳が

爛々と輝き出した。


「ぃ、いいんですか!?」


「おう」


「はわわ……!

嬉しいですっ……!

ひぇえ、どうしましょう……っ!

お部屋に飾って……、

腐らないうちに……あぁ、でも

せっかくブレイトさんがくれたのに……

なんだか勿体ないですぅ……!」


「?

勿体ないって?」


「はっ!ご、ごめんなさい……!

実はブレイトさんがくれた

このクローバーとたんぽぽ……。

私の大好物なんです」


しょぼん、と申し訳なさそうに

言うリアは本能なのか

口から涎が出ていた。


「あ、そういうことか。

気にするなよ。

もうそれはリアのものだし。


食うなり飾るなり、

好きにしてくれ」


「い、いいんですか……?

嬉しいですぅ……!

はぅ、美味しい……」


言うが早いか、リアはもぐもぐ食べ始めた。

どんだけ好きなんだよ。

だからあの種屋のお姉さん、

自信満々だったのか。


「わ、私としたことが、

取り乱してしまいました……。

そろそろ小屋に戻りましょう?

ハーフマオリエさんも

待ってくれてますから」


恥ずかしそうに言うリアに

俺は微笑みながら頷く。

リアもまだ子供な部分もあるみたいで

なんだか癒された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ただいま戻りました……!」


リアと荷物を持って小屋に帰ると

ちょうど本を読み終えたらしい

ハーフマオリエと目があった。


「おかえり。どうだった?」


「リアが村長になってたぞ。

あと村もなんか色々変わってて、

すごく良い雰囲気だった」


俺が椅子に腰をかけながら言うと

リアは荷物をしまいに行ったところが見えた。


「その様子だと村の復興、

うまくいってるみたいだね」


何処か安心したように言う

ハーフマオリエに俺は

そっか、ハーフマオリエが

リアに村の復興の仕方を教えてたんだっけ、

と思った。


「ハーフマオリエ、いつの間に

リアに村の復興なんか教えてたんだよ」


「使い魔に手紙送ってただけだから

実質あそこまで村を復興させたのは

リア自身だよ。

私は少し情報をあげただけ」


謙遜しなくてもいいのに、

と思いながら俺はふと思い出した。

あのガラス細工屋で買った

腕時計を渡さねば。

そう思ったら途端に緊張して来た。


「えーと、ハーフマオリエ。

……いい天気だな?」


「もう夕方なのに何言ってんの?」


すごく怪訝そうな顔をされた。

まずいぞ。


「あー……調子はどう?」


挙動不審過ぎる俺に

ハーフマオリエは俺をじっと見つめた。


「なんか隠してる?」


ハーフマオリエの鋭い指摘に

俺の肩がびくっ!と反応した。


「……バレたもんは仕方ないか」


俺はもう諦めて箱を取り出して

ハーフマオリエに手渡した。

ハーフマオリエは首を傾げていた。可愛い。


「日頃、ハーフマオリエには

世話になってるだろ?

お礼にな。プレゼント」


俺はギクシャクしているのが

分からないように必死に平静を保っていた。

だが身体は正直で手汗がやばいことになっていた。


「……ありがとう」


「開けてみてくれ。

気に入ってくれるといいんだが」


俺は目を泳がせまくっていたと思う。

ハーフマオリエの顔がまともに見れない。

シュルシュル、と箱の

リボンを解く音がして、

パカッ、と箱の開ける音が聞こえて

俺は恐る恐る顔をあげた。


「……きれい」


ハーフマオリエは無表情なことが多いし、

稀に表情を変えることはあるけど

普段滅多に笑わない。

そのハーフマオリエが、微笑んでいる。

あれ、俺の視界が滲んでよく見えない。


「……ありがとう。ブレイト。

……何泣いてるの?」


「だっでぇええ!ハーフマオリエ

普段あんまり笑わないからぁああ!

可愛いよぉおお!」


「……情緒不安定か」


ハーフマオリエは少し可笑しそうに言い、

俺の頭をそっと撫でた。


「私から言うのもおかしいけど、

これからもよろしくね。

私の勇者様」


「もうハーフマオリエと俺、結婚するうぅ!!」


ハーフマオリエの言葉に

俺が叫びながらハーフマオリエに抱きついた。


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