〜転職しようとしたら敵とエンカウントした〜
ハーフマオリエと一緒に
俺がリアのいる小屋へ
戻って来ると既に朝日が登っていた。
「もう朝になっちまったな」
「そうね。
とりあえず今後ブレイトが
なれそうな職業でも探しましょう?
どの道冒険は続けるつもりでしょ?」
ハーフマオリエがそう聞くと
俺はおう、と頷いた。
「剣士とかならなれるかな?
魔王のスキルと相性が
良さそうなのって何があるんだろうな」
「さあ……。
実際ブレイトのスキルは
魔王が使えそうな剣士スキルが多いみたいだから
それに近い職業があれば良いのだけど」
ハーフマオリエの言葉に
俺はうーん、と考えながら
ふと窓際を見ると
一匹の伝書鳩が窓をカタカタと
嘴でつついているのが見えた。
「伝書鳩?誰からだろ」
俺が窓を開けて伝書鳩の足にくっついている
手紙を取るとガサガサと開いた。
その手紙の便箋には
冒険に出る前に見た王宮のマークのついた便箋だった。
「王宮から?
えーと、なになに……。
至急、王宮に戻られよ
って何だこれ」
「まだここまで冒険して来た成果の報告
してないからね。
痺れをきらして連絡して来たんでしょう」
「あ……、そういえば
連絡する紙、1枚も書いてねぇ」
そういえば前にハーフマオリエに
書くようにいわれてたんだっけ。
俺はボリボリと頭をかきながら
うっかりしていた、と言わんばかりの顔をすると
軽くハーフマオリエにじろり、と睨まれた。
「仕方ないから今回は空間転移で行きましょう。
ついでに街の申請所で
勇者から転職すればいいのだし。」
ハーフマオリエは軽くため息をついて
身支度をし始めた。
「ハーフマオリエは寝なくていいのか?
さっき軽く休んだは休んだけど、
寝てないだろ?」
「平気よ。
ブレイトは?」
「俺は大丈夫だぜ」
ハーフマオリエの身体を心配しながらも
俺も装備やらを着用すると
ハーフマオリエは杖を掴んだ。
「ならいいわ。
リアに王宮に戻ることを伝えてから
行きましょう。
彼女にはだいぶお世話になってしまったからね」
ハーフマオリエの言葉に
俺も同意すると
リアのいるだろうキッチンに向かった。
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「まあ……、王宮に……!?
ぇと、なら…もし良かったら、これ」
リアに差し出されたのは
数日分くらいの軽い食料と
薬草、鉱石だった。
「お役に立てばいいんですけど……」
「ありがとう、リア。
すごく助かるわ。
色々お世話になったわね。
また来るわ」
ハーフマオリエがリアの頭を軽く撫でると
リアはすごく嬉しそうに微笑み
丸い尻尾をふりふりと動かした。
「じゃあ、行って来る」
「い、いってらっしゃい……!」
俺がリアに手を振ると
リアは手を振り返してくれた。
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ハーフマオリエの空間転移で
王宮のある街の前まで来ると
俺は眉をピクピクと痙攣させた。
「なあ、ハーフマオリエ」
「何?」
「最初王宮行く時、徒歩3日くらい
かけてリアの村まで行ったろ?」
「だから?」
「なんでこんな一瞬で到着出来るのに
いちいち徒歩なんて手段使ったんだ?」
「ああ、なんだ。そんなこと?
ブレイトのLvが思ったより低くて
あんまり質の高い力出すと
ブレイトがその力にあてられて
下手したら協会行きになりそうだったし。
それにブレイトも戦闘だー!
って感じだったから丁度いいかと」
「俺全く戦闘してなかったけどね!」
ハーフマオリエの答えに虚しくなりながらも
俺はハーフマオリエと共に王宮まで
歩いて行った。
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「これはこれは……。
ブレイト・フェニニクスよ。
よくぞ来られたな。
まずは長旅ご苦労であった。
連絡が途絶えていたので、
こちらから連絡してしまったことを
まず詫びねばならんな」
相変わらずステレオタイプな王様に
俺は慌てて跪く。
「いえ、こちらこそ
連絡も出来ず、申し訳ありません。
王のお詫びなど、滅相もありません。」
「さぞかし大層な旅であったのだろう?
まずは聞かせておくれ。
そなたたちの、この世界であったことを」
王様の言葉に俺はこれまであったことを
説明することにした。
「まず王の言った通り、
亜人の村での情報収集後に
魔族の売られているという都市の
オークションへと行きました。
そこでその魔族が人間派閥のものでしたので
その魔族から魔王の情報を聞き出す為、
魔界へと行って参りました」
「なんと!?魔界に!?」
「そこで知ったのは
先代の魔王が先代勇者によって
消滅されていた事実。
そしてその消滅した魔王は
魂のみ砕けてこの世界の何処かに
さ迷っているのが現状です」
王様の驚いた声の後に
説明したのはハーフマオリエだ。
「なんということだ。
先代勇者は確かにこの国からも
出してはいたが……。
それで、現在の魔王は……」
王様はよろけながらフラフラと
玉座から立ち上がった。
俺が不安になって駆け寄ろうとしたが、
ハーフマオリエに腕を掴まれた。
「?
ハーフマオリエ?」
「……待って。様子がおかしい」
ハーフマオリエの言葉に
俺が王様を見ると王様は頭を抱えて
何やらブツブツ呟いている。
「現在の魔王がまさか
此処に来るとは思わなかった」
王様がこちらを凄い勢いで見て来るが、
その瞳は王様のものではなさそうだ。
「!?」
俺が驚いて後ずさると
ハーフマオリエが俺の前に出て
杖を床に立てつけて
魔法で作ったのか、防御の壁が出来ていた。
「……あなたは誰?」
ハーフマオリエが目を細めて聞くと
王様が突然ケタケタと高笑いした。
『まさかまさか
余の魂2つも、2つも同時に
来てくれるなんて、なんて都合の良い!
良い日だ、今日は!
今日というこの日に、神に、
神に感謝せねば!』
「なんだ!?王様、なんかやばそうだぞ!?」
「……なるほど。そういうことね」
とち狂った王様に慌てる俺に
ハーフマオリエは納得したのか
軽く舌打ちした。
「え!?どういうことなの!?」
「つまり、魔王が砕け散らせたのは
魂2つだったとは限らなかった
ってことだよ。
私が先代勇者として倒した後
魔王は魂を2つに砕いた、けど
それだけじゃあ奴は復活出来ない。
奴は自分、魔王に見合う身体と
自分自身の人格が必要だったの。
だからあの魔王は今とんでもなく
良い状況にある。
王様から乗っ取った身体、
そして自身の人格そのもの。
あとは私たち2人から
自分の魂を取り戻せば
晴れて復活完了、というわけ」
「それってめちゃくちゃやばいんじゃねぇか!?」
王様から放たれる強烈な突風から
ハーフマオリエがガードしてはくれているが
ヘマをすれば吹っ飛ばされそうに
なりながらも俺は叫んだ。
『さすがは我が身を滅ぼしてくれた
先代勇者!博識だな……!
今度は女となり、魔導師となり、
余の前を邪魔するか!』
「ええええ!?
ハーフマオリエ、前は男だったの!?」
「驚くところそこなの?
あなた下手したらあの魔王に
魂引き抜かれるかもしれないのに、呑気ね」
王様から放たれる魔王の言葉に
俺は驚きを隠せなかったが
ハーフマオリエは冷静に呟いた。
『前回は油断したが今回は
そうはいかぬぞ、小娘!』
「弱い犬ほどよく吠える、とは
まさにこのことね」
『何を!?』
「私が何の準備もせずに
ここに来たとでも思ってるの?」
魔王に完璧に乗っ取られたらしい王様が
ゆっくりとこちらに進んで来るが
ハーフマオリエは1歩も動かずに
彼を挑発した。
『くくく……!たかだか魔導師風情の魔法など
余の敵ではないわ!
そこの勇者も余の魂には抗えない
どうしようもないものと見た!
この勝負、余の勝……!』
魔王が言い終える前に、
魔王は王様ごとドッシーン!と
ばかみたいにでかい音で俺たちの目の前から
姿を消したのだった。
「……ハーフマオリエさん?
一体何が起こったんですかね?」
俺が恐る恐る尋ねると
ハーフマオリエは素知らぬ顔でこう答えた。
「敵とエンカウントする前に
自分の特殊能力を最大値まで上げまくったけど
あんまり必要なかったみたい。
その前に私の作った地雷に落ちてくれたし。
新魔法・トラップピットフル
見事にはまってくれたみたいよ」
「……つまり?」
「ただの落とし穴よ」




