〜勇者、今日でやめます〜
「神様も大変なんだな……」
猫神様の日々の愚痴を
長々と聞かされた後、
俺がポツリと呟くと
わかってくれるのか〜!同志よ!
と飛びかかられそうになったが
ハーフマオリエがバシッ、と
猫神様を軽くはたいたことで
それは阻止された。
『さっきからお前酷くない!?』
「酷くて結構。
放任主義者なあんたは昔から
好きじゃなかったし」
猫神様が半泣きな声で言うと
ハーフマオリエは
素知らぬ顔してキッパリと言い放つ。
『仕方ないじゃん!?
人間たちの
天国行きと地獄行き裁いてたら
下界のいざこざもスルーしちゃうって!』
猫神様はハーフマオリエに
はたかれた場所を前足でおさえて悶絶している。
「てか俺たちの用件って
なんだっけ……」
俺がカオスな雰囲気に
呆気に取られながら言うと
ハーフマオリエはああ、と呟き
猫神様に向き直った。
「仕事して」
『あああああ!!
仕事の話はやめろおおお!!
俺は社畜か!?』
ハーフマオリエの渾身の台詞に
猫神様はのたうち回る。
「てか他に神様いないのか?
下界じゃ他の神様の話とか
絵本で聞いたりするけど」
『神にも種類があってね……。
僕のところは人が足りないのにも
関わらず、あんまり人を寄越してくれないんだよ』
たぶん人間だったら涙が出るような
表情に見えて来た猫神様は
ぐでっ、と身体をだらけさせていた。
「じゃあ何?
私たちにかかった魔王による
魂の呪いは自分たちでなんとかしろって言うの?」
ハーフマオリエが
じろり、と猫神様に容赦なく言うと
猫神様はまさか、と言った。
『勿論、方法は教えるさ。
けど僕もご覧の通り
忙しくってさ〜。
そろそろ戻らないとまずいんだよ』
猫神様はゆっくり起き上がると
仕方ないから身体はこのまま行くよ〜、
と呟いていた。
「わかったわ。方法だけ教えて」
『簡単だよ。
君たち2人共揃いも揃って
魂が2つ重なってる。
もともと持ってる自分の魂と
魔王の魂をね。
だから自分の魂を
なるべく刺激しないように
魔王の魂を抜き取って壊せばいい』
猫神様は簡単に言うが、
そんなことは可能なんだろうか?
と思っていると
ハーフマオリエは怪訝そうな顔をした。
「簡単に言うのね。
難しいの知ってるくせに」
『だってわたしのことじゃないもん。
勝手にやって?』
「本当なんであんたみたいな
ろくでなしのちゃらんぽらんが
神様なんてやってるのかしらね」
猫神様のサラッと酷い台詞に
ハーフマオリエも毒舌で返した。
『それじゃあね〜』
「最後に助言するなら……。
あんた、天使、雇えば?」
猫神様が軽い足取りで行こうとすると、
ハーフマオリエがさり気なく呟いた。
猫神様はピタッと止まって
まるでブリキのロボットのように
ギギギ……、とゆっくり振り返って
こっちを見た。こっちみんな。
『天才か!!?
早速天使雇って来るうううう!!』
颯爽と姿を消した猫神様に
嵐が去ったかのような感覚を覚えた。
「なんか……すげえ人?だったな」
「猫だけどね」
俺が顔を引き攣らせて言うと
ハーフマオリエに冷静にツッコまれた。確かに。
「で、魂がどうのって
言ってたけど出来るか?」
「とりあえず下準備が
いるから夜まで待ってて。
そうね……。
夜、またここに来てくれる?」
ハーフマオリエは下準備に行くらしく、
俺に待っているように告げた。
「準備なら手伝うぞ」
「準備事態は簡単なんだけど、
夜にならないと環境的に難しいのよ。
それに今までで結構力も使って
消費してるし……。
まあ、休憩しましょってこと」
そう言うハーフマオリエは
確かに戦場から天界、
更には人間界まで俺を連れて行ってくれているし
リアを助けるのにも消費したはずだ。一理ある。
「わかった。
そうしようか。
よく考えたら風呂とかも
入りてぇよな」
汚れた衣服を見て、俺がハーフマオリエに言うと
ありがとう、と言って早速
リアにお風呂を頼んでいた。
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夜。
あれから風呂に入ってさっぱりした後、
リアが前に使っていいと言われていた
ベットで俺はごろごろしていた。
……にしてもここ最近は色々あり過ぎた。
ハーフマオリエと俺には
魔王の魂入ってるって言われるわ、
神様にリアが乗っ取られるかと思ったら
リアは賢者になるし、
神様は猫になるし。
そして今夜は魔王の魂を取り除く。
そんなことは本当に可能なんだろうか。
ハーフマオリエの話では
俺の赤ん坊のころからずっと
魔王の魂が入ってて、
まるで自分の身体の一部のように
そこにあったわけだから
それを取るってどうやるんだ。
「ごちゃごちゃ考えてても
始まらない、か……。」
俺は考えるのをやめて
ベットから起き上がって
ハーフマオリエの待つ部屋に向かった。
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「待たせたか?」
俺がそう聞くと
ハーフマオリエは首を
横に振った。
「大丈夫。
それより少しは休まった?」
「それはこっちの台詞だ。
ハーフマオリエは大丈夫なのか?」
ハーフマオリエの質問に
俺は質問で返してやったら
ハーフマオリエは少しおかしそうに頷いた。
「それで今から行くところなんだけど、
昔私が魔導師の修行中にいたところに
行くつもり」
ハーフマオリエはそう言うと俺の手を
そっと握り締めた。
「何処だ、それ?」
「私の魔導師の力の源と
相性のいい土地だから
そこなら魂に関わる儀式を
やったとしても成功率が上がる
と思うのだけど」
「なるほどな。
じゃあよろしく頼む」
俺がハーフマオリエの提案に
賛成するとハーフマオリエは頷き、
空間転移をした。
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「ここがハーフマオリエの
修行場所だったところか?」
俺の目の前には
地下室らしき場所だ。
石の敷き詰められた床に
壁一面のたくさんの本は天井まで届きそうだ。
上の空洞からたくさんロウソクのついた
古いシャンデリアが淡く光を照らす。
本棚の間に梯子が長々と設置されており、
多分ここから上に行けるのだろう。
「そうだよ。
昔魔導師になる前に
修行の為、ここに篭ってたの」
ハーフマオリエはそう言うと
複数の文字や円の書いた跡のある床を
歩くと小さな机まで行く。
「それで俺は何をすればいいんだ?」
「とりあえずここに服脱いで上がって」
ハーフマオリエはそう言うと
本棚の本を押すと
ガコッと本棚が動いて
隠し扉になっていたみたいで、
奥の部屋を指差す。
「わかった。
……まさか、前と同じか?」
俺は目の前のベットを見た瞬間に
ふと前に魔族化しかけた時に
ハーフマオリエがほとんど
下着に近い格好で長期治療されたのを思い出した。
「悪いけど、もっと面倒よ」
ハーフマオリエはそう言うと
部屋に入って来た、が。
裸だった。
「ハーフマオリエ!?何して!?」
「ブレイトも脱いで。
魂の儀式だから
肌とかの密着性とかも必要になってくる。
嫌なのはわかるけど」
ハーフマオリエは扉から入って来る
淡い光のおかげで大事なところは
ギリギリ見えてないが、
時間の問題だろう。
目が慣れて来たらどの道アウトだ。
「い、嫌じゃねぇけど……ッ」
俺はハーフマオリエの裸を見ないように
服を脱ぐことに集中した。
「何どもってるの?
儀式に集中して貰わないと
三途の川渡る羽目になるよ」
サラッと恐ろしいことを言った
ハーフマオリエの言葉に
俺の俺はなんとか踏みとどまってくれている。
頑張れ俺、耐えるんだ俺。
ふとハーフマオリエの身体に
いくつもの蛇のようないくつもの
刻印のような模様が全体的に淡く青白く光る。
「な、なあ、それ」
俺が目を泳がせてハーフマオリエの身体を指差すと
ハーフマオリエはああ、と目を伏せた。
「血の巡りが良いとね、浮き出るの」
ハーフマオリエはそう言うと
気にしないで、と呟き
俺の胸元に手を添えた。
「ハーフマオリエ……?」
俺はどぎまぎしながら
ハーフマオリエを不安そうに見る。
「心の準備はいい?
今からブレイトの魂に
私が干渉して魔王の魂を取る」
「ハーフマオリエはどうするんだ?」
「私は転生者だから
転生した際に魂はどの道
別れることになると思うの。
だから次の転生までは
このままでも別に構わないかな。
魔王の魂があるってわかっていても
そんなに不便があるわけではないからね」
ハーフマオリエの言葉に
俺は確かに、と思った。
「俺も実は自分の魂に
魔王の魂があってもそんなに不便が
あったか、って聞かれたらそうでもないぜ」
「ブレイトは勇者なんだから駄目でしょ?
魔王の魂がある限り、
勇者として生きていくことは出来ない」
ハーフマオリエに俺が勇者であること
を指摘されて俺は少し黙った。
「……じゃあ、俺は勇者じゃなくて
別の職業に転職する。
勇者にこだわってるわけじゃないしな」
俺のまっすぐした瞳に
ハーフマオリエはそう、と
短く答えると何処から出したのか
服を羽織ると俺の服も手渡してくれた。
「とにかく魂の儀式をしなくていいなら
リスクもないし、悪いことではないわ。
それに魔王の魂を外に出したら
どうなるかわからないし、
いい考え方だったかもね」
裸になったのは損だけど、
と付け足すように呟いたハーフマオリエに
俺は乾いた笑いで誤魔化すしかなかったのだった。




