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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

地獄の鬼の子

僕のお父さんは、嘘つきを懲らしめる獄卒です。

毎日毎日、ヤットコを使って、嘘つきの舌を抜いています。

舌を抜かれた嘘つきは、死んでしまいますが、お父さんがヤットコを振りかざすと嘘つきに舌が生え生き返ります。

すると、お父さんは、生き返った嘘つきの舌を抜きます。

また、嘘つきは、死んでしまいます…。


僕は、お父さんに尋ねました。


「何度舌を抜けば、嘘つきは救われるの?」


「嘘をついた数だけ抜けば救われるんだよ。」


「救われた嘘つきはどうなるの?」


「良い人間に生まれ変わるんだよ。」


僕は、お父さんに頼んで、嘘つきのおじさんと話をさせてもらいました。


「おじさんは、どんな嘘をついたの?」


「嘘をついて沢山のお爺さん、お婆さんから、お金を騙し取ったんだよ。」


「どうして嘘をついたの?」


「お金が欲しかったんだよ…。

お金が無いと生きていけないからね…。」


おじさんは、辛そうな顔を見せると、それっきり黙ってしまいました。

お父さんの仕事は、良い人間の世界を作るために必要なんだよ。

と、お母さんは言います。


でも僕は、嘘つきの舌を抜く仕事は嫌です。


僕は、お母さんに尋ねました。


「地獄には、他にどんな仕事が有るの?」


「鬼作おじさんが、罪人を針山に落とす仕事をしてるわよ。」


僕は、お母さんに頼んで鬼作おじさんの仕事を見学させてもらいました。


鬼作おじさんの職場は、高い崖の上でした。

罪人が、列を作って崖を登っています。


鬼作おじさんは、崖の頂上から眼下に見える針山に向って罪人を投げ落としていました。

落とされた罪人は、針山に串刺しになり苦しみながら死んでいきます。

死んだ罪人の体が、段々と透けていき、消えてしまいました。

不思議に思っていると、死んだ罪人が、列の最後尾で生き返り、再び崖を登っています。

そして崖の頂上に着くと、また針山に投げ落とされるのです。

僕は、鬼作おじさんに尋ねました。


「何度、針山に落とされれば、罪人は救われるの?」


「犯した罪の数だけ落ちれば救われるんだよ。」


「救われた罪人はどうなるの?」


「良い人間に生まれ変わるんだよ。」


僕は、鬼作おじさんに頼んで、罪人のおじさんと話をさせてもらいました。


「おじさんは、どんな悪いことをしたの?」


「万引き、空き巣、スリ、強盗…。

食い逃げもしたか…。

いろいろとやり過ぎて忘れちまったよ…。」


「どうして悪いことしたの?」


「簡単に金が手に入るからな。

楽して稼ぎたかったんだよ。」


と、おじさんは、楽しそうに犯した罪を次から次に語り始めました。

すると、鬼作おじさんが遣って来て…。


「まだまだ、反省が足りないようだな。」


と、罪人を抱え上げると針山に投げ落としました。

鬼作おじさんの仕事は、良い人間の世界を作るために必要なんだよ。

と、お母さんは言います。


でも僕は、罪人を針山に投げ落とす仕事は嫌です。


僕は、お母さんに尋ねました。


「地獄には、他にどんな仕事が有るの?」


「隣の鬼三おじさんは、罪人を血の池に沈める仕事をしてるわよ。」


「それって、どんな仕事なの?」


「グラグラに沸騰した血の池に罪人を放り込んで、池から出さないようにする仕事よ。」


僕は、そんな仕事は嫌だと思いました。


「もっと他の仕事は無いの?」


「あとは…、等活地獄の監視人って言う仕事があるわよ。」


「等活地獄って?」


「争い好きな人間が集まって永遠に殺しあう地獄よ。

殺された人間に、『生きよ!』って声をかける仕事で、するとその人間は生き返るのよ。」


僕は、そんな仕事は嫌だと思いました。


僕は、大人になったら、こんな仕事をしないといけないの?

と、思うと涙が溢れてきました…。


「お母さん…。

僕、大人になりたくないよ!

地獄の仕事なんかやりたくないよ!!」


僕は、ワーン、ワーン…と、泣きました。

すると、お母さんが僕をそっと抱き締めて…、


「何で、そう思うの?」


って、聞いてきました。


「だって、罪人のおじさん凄く痛がってたよ!

苦しんでたよ! かわいそうだよ!!」


お母さんは、笑顔を見せると…、


「それで、良いんだよ。」


って、言いました。

僕は、お母さんの言った意味が分からなかったので…、


「何で良いの? どう言う事?」


と、尋ねました。

お母さんは、涙を流しながら…、


「お前が、良い子供として生まれ変わる事が出来るからさ…。」


と言いました。


(??)


僕には、訳が分かりません。

すると、お母さんが、地獄の事を話してくれました。


悪い事をした人間は、地獄に落とされる。

そして地獄で罰を受けた後、良い人間として生まれ変わる。

生まれ変わった人間は、地獄の事を覚えていない。


だから、何人かの人間は、また悪い事をする。

すると、地獄に落とされる。

これを108回繰り返した人間は鬼になり、一生、地獄で暮らすことになる。

これは、大人の負うべき罰…。


では、子供は?

子供は、悪い事と良い事の区別がついていない。

例えば、動物をいじめたり、友達を無視したり、嘘をついたり…。

もちろん、これが悪い事だと分かっている子供もいるが、分かっていない子供もいる。


そんな悪い事をした子供が、病気や事故で死んでしまうと地獄で鬼に生まれ変わる。

そして、地獄は嫌なところ、怖いところだってことを心に刻む。

悪い人が、苦しんでいる姿を見て良い気味だと思うのではなく、かわいそうだと思う心…。

その心に目覚めた時、子鬼は良い子供に生まれ変わることが出来る…。


お母さんの話を聞いていた子鬼が、光に包まれ天に昇って行きます…。


「良い子に生まれ変わるんだよ!」


お母さんが、涙を流しながら手を振ってお別れしてくれました…。



「…おぎゃあ! おぎゃあ!」


「おめでとうございます。

元気な、男の子ですよ。」


産着に包まれた赤ちゃんが、お母さんの横に寝かされます。

その時、お母さんが残念そうな顔で呟きました…。


「男の子か~…。

女の子が良かったんだけどなぁ…。」


消えゆく子鬼の記憶の中で、男の子は思いました。


(あぁ…、地獄のお母さんの罪は、これだったのか…。)


男の子の心に、小さな角が生えました……。

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