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オリオン座の夜に

作者: 井原 敬三

羽田空港に着いた。


故郷の愛媛から出張で東京に来る同級生、いや唯一の親友と呼ぶべきだろうか、そいつと久しぶりに再会して酒を飲む約束をしていた。だから、わざわざ小田原からここまで来たのだ。

ターミナルはコートを着ていると汗ばむ程に空調が効いている。


「暑い」


薄いマフラーとコートを脱いで腕にかける。


到着ロビーでそいつを待っていた。朝から降っていた雨は幸い昼過ぎには止み、巨大な窓の外にはチラホラと星が見えていた。


5、6歳の男の子が飛び出して来た。


「パパー」


遅れてママも出て来る。右腕にグレーのコートをかけ、左手にはハンドバッグといくつかの見覚えのある紙袋。

男の子は、僕の数メートル前で同じように待っていた30歳前後の男に勢いよく飛びついた。


おそらく単身赴任のパパに、愛媛からママと2人で会いに来たのだろう。

抱っこされ、パパの顔にしがみついた男の子の嬉しそうな顔がとても眩しく、そして羨ましく、再会は何ヶ月ぶりなのか、いや何年ぶりか、と考えながら、しばらく3人に見とれてしまっていた……


暑さのせいか頭がボーっとする。


だんだんと時間の流れは遅くなり、3人の姿はかすれて行った……


ん、気のせいか、少しのぼせただけだろう。


いや違う、確かに、違う、、違うのだ。


目の前の3人は、毎年一度ここで再会しディズニーランドへ行っていた、僕たち3人の姿へと変わっていたのだった。


僕…… 慎太郎…… そして、元嫁……


……


間も無く、コートを着た男が同じ出口から出て来て、僕たち3人の横を一瞥もせず通り過ぎた。


「うぃー、久しぶりー」

片手を上げ、指を3本立てながらそいつは僕に言った。僕はこの男の年齢も知っている。いや誕生日も血液型も、嫁と娘の名前まで。


「おぅ」

僕は、手も挙げずに答えた。

「どうした」

そいつは笑顔のまま不満気に聞く。

「いや……」

なんでもない、なんでもないさ。


「よーし、今日は綺麗なお姉さんがやってる居酒屋に行こうや、ええとこ知っとんで」

羽田まで来るなら、梅屋敷のグラマラスな女将がいるあの焼トン屋に連れて行こうと決めていた。こいつなら喜んでくれるだろう。

「おお、ええのお、近いんか」

返ってくる台詞も知っているさ。

「おお、電車で10分かからんてや」

私は、30過ぎくらいの、ふっくらとした頰に赤いチークを塗った女将の、谷間の見えるTシャツの胸元ばかりを思い出していた。


「ほーか、早よ行こや」

この親友との時間を無駄にしたくはない、電車のホームまで歩きながら話そう、会話など考えなくてもいい。こいつとは話したい事だらけだ。

「おう、早よ行こや、早よ行こで」


僕たち2人は僕たち3人家族に背を向け、コートを羽織りながら歩き始めた。


窓の外にはオリオン座が輝いていた。


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