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(誰……?私を呼んでいるのは誰……!?)
頭に響く自分を呼ぶ声。
それはどんどんどんどん近くなる。
行かなければならない。声の元へ。
その不思議な使命感が千夜の足を動かしている。
早く、早く――――――――
「……はぁ……はぁ……」
息を切らしながらゆっくりと足を止める。
声の聞こえる場所へとたどり着いたのだ。
「…………ここは……お寺……?」
辺りには人が行きかう。
観光名所なのだろうか。
そんなことを思いながら千夜は深呼吸をし、再び足を動かし始めた。
どこか、どこか懐かしさを感じる。
そんなことを思いながら自分を呼ぶ声の元へとゆっくりと歩いていく。
そして、境内の奥へと進んでいったその時だった。
「っ!!」
辺りが突然真っ暗な闇に覆われ、桃色の光が淡く散っている。
それはまるで桜の花びらの様だった。
「……一体、何が…………」
今、何が起きているというのかが理解できない。
だけど不思議と不安な気持ちにはならない。
不思議と気持ちは落ち着いているのだ。
【ようやく……ようやく会えましたね……。】
「っ!!」
頭の中で響いていた声がすぐ近くから聞こえ、声のする方へと向き直る。
そこには淡い光をまとい、白装束に身を包んだ髪の長い男性の姿があった。
その身なりはまるで平安時代の人を彷彿とさせる。
何処か、不思議な男性だ。
「……貴方は誰?どうして私を呼んでいたの?」
不思議な男性に恐れ動じることなく千夜は言葉を投げかけた。
淡い光のせいか男性の姿はひどくおぼろげではっきりとは見えない。
幽霊といわれればそれはそれで納得もできるけれど、何故呼ばれていたのかが一向に理解できなかった。
知っている人ではない。
知っている人ではないはずなのに知っている気すらもする。
本当に不思議な存在だ。
「……時は巡り来た。」
「え……?」
「姫よ。これから貴方は再び貴方と運命を誓った者たちと巡り合う。来るべき日にすべてを終わらせるために。」
白装束の男性は一人淡々と話し続ける。
しかし、その言葉は千夜には全く理解ができない。
「一体……一体何を言っているの?それに……姫って……。」
理解しようとは試みるけれど何一つ理解ができず困惑する千夜。
しかしそんな千夜に白装束の男は答えを返さず言葉をつづけた。
「貴方はこれから貴方と運命を誓った者たちと巡り合う。その為に貴方は思い出さなければならない。共に運命を誓った者たちの事を――――――」
白装束の男性が千夜に向かい、そっと手のひらをかざす。
その次の瞬間、まばゆい光が千夜へと襲い掛かり、千夜はその光のまぶしさに瞳を固く閉じた。
そして、その光がゆっくりと消えていくと光に包まれた千夜の体がドサッと地面に倒れたのだった。
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【……千夜っ……千夜っ……!!】
……誰かの声が聞こえる。
その声はとてもよく知る声で……とても懐かしい声で……
ひどく、温かい気持ちになる。
そんなことを思いながらうっすらと目を開けるとその目にはぼんやりとたくさんの人が見えた。
【すまねぇ……約束……果たせねぇで……】
低い声をした少し体格のいい男性は必死で涙をこらえながら千夜をまっすぐと見つめていた。
しかし、千夜をまっすぐと見つめているのはその男性だけではなかった。
顔ははっきり見えない。
だけど、確かに知っていると感じる人たちが何人も自分を見つめていることは解った。
そのすべての人たちが悲し気に顔を歪ませていることははっきり見えないはずなのになぜかはっきりと伝わってきた。
【やめてください……●●さん……私は……今まで十分皆さんに尽くしていただきました……】
そう言いながら千夜は笑顔を浮かべ千夜の隣で倒れ込む人に手を伸ばした。
「私の……大事な片割れにも……会うことができました……。」
千夜の隣に倒れ込む人とつないだ手。その手を優しく覆いかぶせるように先ほどとは違う男性が千夜の手を握った。
【しっかりしろよ、千夜!俺たちと一緒にずっと生きてくって約束は……どうすんのさ……!!】
【おいっ!やめろ●●!!そんな責めるような事っ……いうんじゃねぇ。】
【でもっ、でもっ……!!】
千夜の手を震えながら握る男性。
そんな男性に千夜は何故か笑みを浮かべた。
【……ごめんね……守れなくて……。】
本当は自分だって生きていたい。
でも、体はもう千夜の思うように動かない。
自分の体がどんどん冷たくなっていくのを感じさえする。
自分は死ぬのだ。
そう、理解してしまっていた。
【俺さ……俺さ……まだ……言ってないこととかいっぱいあるし、千夜と行きたいとこだっていっぱいあるんだ!だから……頼むよ……そんな悲しいこと、言わないでよ………………】
冷えていく手に唯一感じる暖かな体温。
それがとても心地よくて、なんだか眠くさえなってくる。
そんなぬくもりを感じる手にポツンっと熱い滴が落ちてきた。
(……泣いて……いるの……?)
正直、もう話すことすらつらい。
口を動かしたくてもうまく動かない。
【●●君……私は……――――――――】
言わなければ。伝えなければ。
きっと、後悔する。
そんな思いを抱きながら必死に口を動かし始めたその時だった。
「起きろ―――――!!千―――夜―――――!!!」
突然何処からか声が聞こえてくると共に辺りはまばゆい光に包まれだした。