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私たちの始まり。
それは何十年何百年も前の話。
そして、私の運命の始まりは――――
私たちの出会いよりももっと前に逆上るのだった。
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「おいで……こちらへおいで……」
(………誰?)
真っ暗な闇の中、暖かな光がぼぉっと灯っている。
その光はとても神秘的で、不思議とひかれてしまう。
それはその光が気になりそっと手を伸ばしてみる。
「おいで……こちらへ、はやく………千夜……」
(……誰?あなたは誰なの?
なぜ私の名前を知っているの?あなたは、一体――――)
光に向かい必死に手を伸ばす。光は少しずつ近づいてくる。
その光はやがて若い男性の姿へと形を変え、そして―――――
「――――よ………千夜!!」
暗闇の中に別の声が響きわたり、暗闇はすっと光に包まれていった。
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時は平成。
京都の四条大橋からバスに乗り、嵐山へと向かう道中の修学旅行生の輝夜千夜、杉平優人は壬生寺道というバス停で下車し、ベンチに座っていた。
バスに乗車中に千夜の様子がおかしくなり、千夜を案じた優人の計らいだった。
「千夜、大丈夫!?かなり顔色悪いけど……。あっ!もしかして吐きそうか!?だ ったら確か買い物袋がーーー」
「だ、大丈夫だよ、優人君。」
カバンの中を大雑把にガサガサかき回す優人を千夜は苦笑いをしながら止める。
そして、すぐさま気分が悪い訳では無いと否定の言葉を述べた。
「……不思議な夢を見たの。」
「不思議な夢?」
少し真剣な顔持ちになった千夜の顔を不思議そうにのぞく優人。
千夜はそんな優人の返答に静かにうなづいてみせ、膝の上に置いていた掌をそっと胸元の前で握った。
そして、恐る恐る自分の見た夢について語り始めた。
誰かに呼ばれている不思議な夢。
その誰かはわからなくて、誰だか知りたくて手を伸ばしたところで目が覚めた。
そんな夢の話を終えた千夜は悩ましげな顔を浮かべだした。
(あれは本当に誰だったんだろう……)
よくよく思いなおしてみると心当たりもあるようなないような。
そんな感じでいまいちスッキリとしない。
胸の奥に暗雲がかかったようにモヤモヤする。
そんな様子の千夜を見ている優人は不思議そうに顔をゆがめた。
「えっと、それ、そんなに不思議がる夢かな?」
優人は少し言いづらそうに頭を掻きながら言葉を述べた。
そんな優人の言葉に「えっ?」と少し驚いてみせる千夜。
そんな千代に「だってさー」と優人は言葉をつむぎ続けた。
「いや、別に気になるのが変って言ってるわけじゃないんだけど、ほら、夢ってなんて言うか、夢は夢っていうか……俺、馬鹿だから上手いこと言えないけどさ、現実には関係ないって言うか、気にしすぎないでいいもんばっかじゃん?まぁ、過去の夢とか友達の夢とかは別としてさ。」
なんとか必死に思っていることを伝えようとする優人だが、うまい言葉が見当たらずあー、うーん、となやむ声を出しながら言葉を探している。
そんな優人をじっと見つめながら千夜は静かに優人の言葉を待っている。
そんな千代を見るとなんだか独りであー、うーん、と言っていることが少し恥ずかしくなり、優人はほんのり顔を赤らめた。
「と、とにかくさ!千夜にとって不思議な夢だったにしてもそんな考えることないよ、きっとさ!」
恥ずかしさもあってか、大きく元気な声で力強く言葉を発する優人。
そんな優人を見ていると千夜からも釣られるように笑みが零れた。
「ふふっ、そうだね。確かに不思議な夢とは思ったけど、考えたところで誰に呼ばれてたのかもわからないし。」
「だろだろ!?だからさ、今は悩むよりもせっかくの修学旅行楽しもうよ!」
明るくなってきた千夜をいむそう明るくさせようと元気に立ちあがり、笑ってみせる優人。
そんな優人に「そうだね!」と言葉を返して千夜もゆっくり立ちあがった。
「じゃあ、嵐山に向かうか!あ、でも、嵐山まで結構バス乗るんだよな……。どうする?少し戻って祇園の方行く?」
不安そうに千夜の容態を心配する優人。
そんな優人に「大丈夫だよ。」と言いながら千夜は時刻表へと視線を移した。
その瞬間、目に飛び込んできたものに千夜は大きく胸をざわつかせた。
「壬生寺……道……。」
「えっ?あ、うん。そうだな。」
突然ボソッと言葉をこぼす千夜の顔を優人は再び不思議そうに、また、少し心配そうに覗いてみる。
どうも様子がおかしい。
そんなことを思いながら
千夜に言葉をかけようとする優人だが、その言葉は千夜によって遮られた。
「優人君!八木邸に行きたい!」
突然優人へと向き直り力強く言葉を発する千夜。
そんな千夜の行動に優人は驚いた。
「えっ?や、八木邸?」
そもそも、そこはどこなのか。
なぜ突然そこへ行きたいと言い出したのか、様々な疑問が優人の頭に浮かび上がってくる。
その成果無意識に顔に不思議がっているということが出てしまっていた。
そんな優人を見て、千夜はゆっくりと説明を始めた。
「班で行きたい場所調べてた時に少し気になっていたところが近くにあるの。優人くん、新撰組って分かる?」
「も、もちろん!新撰組はゲームとかアニメとかに結構出てくるし!」
千夜の問いかけに優人はすぐさまうなづき、言葉を返した。
その言葉を聞いた千夜は話を続けだした。
「その新撰組が屯所としていた八木邸が近くにあるらしいの!それで、ずっとそこに行ってみたいなって思ってて……ダメかな?」
不安そうに問いかけてくる千夜。そんな千夜をみて優人はすぐさま首をおおきく振り、「そんなことない」と言葉をかける。
「行こうよ、八木邸!
偶然だけど千夜が行きたかった場所の近くに降りたんだし、いや、むしろ何かの縁だと思うしさ!」
拳を強く握りながら千夜の提案に賛同する優人を見て、千夜はとても嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとう、優人君。」
とてもうれしそうな千夜の笑顔にほんのりと顔が赤くなる優人。
それが少し照れくさくて優人は急いでスマホに手をかけ、八木邸の検索を始めた。
そんな優人を見て自分も検索しなければと千夜も検索をはじめる。
そして2人は目的の場所を確認するとゆっくりと移動を始めたのだった。