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三章 ギルドと内通者《2》



ギルド内は様々な人々で溢れかえっている。テーブルを囲み数人で話し合う人、装備を見せ合う人、隅にあるクエスト内容が書かれた紙が貼られたボードの前に立ち考え込む人。


そんな大勢の冒険者が集う中、見た目からして明らかに子ども、ましてや装備もろくにしていない場違いな二人組がギルド内を歩いている。


その結果当然周りからは視線が集まることになるのは言うまでもない。



「あらたー、なんだかすごい見られておるぞ?やはりこの寝ぐせのせいかのー」


「バカ、黙って着いてこい」



明らかに見られている。当然気づいてはいたがあえて触れないようにしていた。

それよりも今はすべきことがある。



「おはようございます。今日はどういった御用でしょうか?」



実はギルド内に入ってすぐに新は気づいていた。

広間の奥を見ると、他の冒険者とは異なる格好をし、尚且つ腰ほどの高さの敷居を隔て座る女性の姿を。



(やっぱり!この人はギルドの案内人か何かだ)


「実はギルドに来たのは初めてなんですが」



言い終わるより早く女性はどこからか用紙とペンを取り出した。



「初めてなのでしたら、まずはギルド登録をする必要があります。そちらの用紙に必要事項を記載しておりますのでまずはそちらにご記入下さい。」



名前

性別

年齢

種族

登録理由


(たったこれだけ!?)


簡素な内容に驚きつつも項目も埋める。アルに書かせれば 《種族 神》などと書かれそうな気がしたためアルの分も新が書き埋めた。


裏面を見ると他にも項目があることに気がついた。


筋力 〖 〗

魔力

敏捷力

精神力

スキル



(魔法は一度見たことがあるから魔力などは分かるが...スキルって??)



目の前にある不可解な項目に手が止まる。

よく見ると右上に小さな四角形の空白部分があることに気がついた。



「そちらはご記入されなくて結構です。表面の項目の記入が終わりましたら次にお二人の人差し指を用紙の右上にある四角形の中に置いて下さい。」



何をするのか疑問に思ったが言われた通り人差し指を前に出す。

アルは身長が低く窓口に足りていないため、新が抱えるようにして人差し指を出した。



「少しチクッとしますが心配いりませんので。」


「「え?」」



その瞬間人差し指に一瞬痛みが走る。



「「ッ!」」



見ると血が用紙に滲んでいる。咄嗟に指を離し確認するが切れている様子はない。用紙を見ると少量だったはずの付着した血はだんだんと広がっていき遂には用紙の裏面全体を赤く染めた。



「な、なんなのじゃ?」


「どうなっているんだ??」



「心配ございません。これはお二人のステータス値を計測し、値の結果に基づいて評価した後 最初にスタートするクラスが決まるというシステムなのです。あ、そろそろ結果が出たようですね」



真っ赤に染まった紙の中心から突如球体状の紅玉が現れ宙に浮上した。ある一定の高さに留まると底部から一筋の赤光が伸び、項目の横にそれぞれの数値を描いたが、新だけはスキルと書かれた項目には全く触れず光は消滅した。


それと同時に赤い染みも消え、残るのは元々あった項目と赤く描かれた数字のみとなった。


============


筋力 236

魔力 258

体力 252

敏捷力 284

スキル


============

アル


筋力 24

魔力 ✕✕✕

体力 28

敏捷力 32

スキル 豪運



(俺はスキル無しか。アルは...豪運??)



腕に抱いているアルは自分のステータス値を見てニヤついている。なにが気に入ったのかは全く分からないが。


それよりも気になることが一つ。

新のステータス値だ。アルよりも筋力値などが高いのは当たり前として、この値は普通の人達と比べてどうなのだろうか。



(これでも神の加護ってやつを受けてるんだけどな)


「あのーすいません。この値って...」



この結果は良いのか聞こうと案内人の女性に視線を向けた。すると先ほどまでの表情から一転し、彼女の視線は新の用紙に釘付けになっていた。



「あのー、大丈夫ですか?」


「あ、申し訳ございません。結果を報告します。アル様のステータス値は平均値以下、魔力値に関しましては...見た事のない表記ですので推測ですが、魔力値無しということだと思われます。」


(いや、たぶんその正反対だと思うが)



口から漏れそうになる言葉を飲み込む。



「そうですか。それで俺は?」


「はい。続きまして新様の方ですが、正直どの値も見てもS級クラスだと言えます...スタートクラスとしては最高ランクのOnyx(オニキス)になります。ですが値だけを見ればその上のBeryllus(ベリル)、いやSapphirus(サフィラス)にも匹敵するかもしれません...」


(言っていることはよく分からないが、褒められてるんだよな?それにしてもステータスがS級って...。明らかにアルやり過ぎただろ。)



このギルドのシステムは未だよく分からないが、周りの反応とS級という言葉でなんとなくだが分かるだろう。


案内人の女性は未だ落ち着きがなく、信じられない様子でいる。それほどまでに今の新のステータスは高いのだ。


アルはといえばその一部始終を見終わると、どこか満足そうな表情をしている。

大方自分の手柄くらいに思っているのだろう。



「スキルについて教えてもらえますか?」


「はい。スキルは人によって異なり、持つ者と持たぬ者に別れます。全てのスキルはその個人によって異なり、固有スキルと言われることもあります。現在は持たぬ者であっても経験を積むことでスキルが現れたケースもあると聞いております。アル様のスキルですが、文字から察するに運気が向上するスキルかと。」


「なるほど」


「さすがワシじゃな!」



自慢気に新を見つめるアル。いつもなら相手にしないのだが、正直羨ましい。



そうこうやり取りをしていると、そんな様子を嘲笑うかのように、見知らぬ二人の男達が割って入り罵声が飛んでくる。

どちらも武装してはいるが、簡素なものであった。一人は細身でもう片方は肉付きのいい体格と対極的な二人が近づいてくる。



「おいおいそんな訳ねぇだろ。見てみろよ、どっからどう見てもただの糞ガキじゃねぇか」


「おい糞ガキ、どんな手を使ったのかは知らねえがイカサマは良くねえなぁ?」



罵声を浴びせつつ、強めに肩や頭に接触する。明らかに挑発的な行動であるが今問題を起こすわけにはいかない。怒りで震える手と強く高鳴る鼓動を落ち着かせる。二人の男に続くように他の冒険者達も罵声を発する。


必死に怒りを堪える中、先に怒りが爆発したのはアルであった。



「気安くあらたに触れるな!!」



その瞬間、一瞬時が止まったような感覚に陥った。雨のように降り注いでいた罵声はピタリと止み、ギルド内に静けさが満ちた。


アルの声には明確な怒りが満ちていた。

そこである異変に気づく。怒りで震えるアルの体表面から青白い光が現れていた。



(この光...どこかで...。。!!)


「前に山賊を射抜いた光の矢と同じ感覚!」



新の中で警報が鳴り響いた。野性的直感が伝えてくるのだ。これはヤバイ、危険だ と。

咄嗟にアルを止めに入る。



「アル、お前の気持ちは嬉しいが俺は大丈夫だ。こんなやつらなんて放っておけばいいんだよ。それにいいのか?このままだと今日の夜飯は無しになっちまうぞ?」



そう繰り返す。

すると、新の声が届いたのかゆっくりとではあるがアルの表面から青白い光は薄らいでいき、最後には消えてなくなった。


落ち着きを取り戻すとこちらに振り向き、申し訳なさそうな顔をしている。



「...あらたがそう言うなら」



アルのその純粋な優しさに、気づけば新の怒りは溶けるように和らいでいった。

周りの大人達も反省したのか先ほどまでの罵声は止み、ギルド内に静けさが満ちた。



パン!!



突如。その静けさをかき消すように一つの破裂音がギルド内に響く。音のした方を振り返ると手のひらを合わせている一人の女性が立っていた。


口には煙草を咥え、白と黒を基調とした服装に後ろで束ねた長い赤毛。なんといっても男勝りなその堂々とした雰囲気と立ち姿は男から見ても格好良いと感じる。


口から煙を吐き出し、ゆっくりとこちらに近づいてくる。



「まったく、うちの若い男共は情けないねぇ。子ども相手になにやってるんだか。いいかい、次こんなしょうもないことをした野郎には(うち)の店への一切の出禁にするからね!分かったら返事をしやがれ!!」


「「はい!!!」」



彼女の一言でギルド内の男達全員が統率のとれた軍人のように返事を返す。



(一体この人は何者なんだ?)



男達に向けていた鬼のような形相とうって変わり優しい笑顔を新に向けた。



「君が新君だね?(うち)のバカ兄貴から話は聞いてるよ」


「兄貴??」


「あらた、ワシはこんな小娘身に覚えがないぞ?」


「誰が小娘だガキンチョ!」



アルの失礼な発言にも笑って対応するその大人な対応。


そこである一人の人間像が浮かんだ。

この女性と同じ赤毛、人の上に立つことのできる人間味と優しさ、そしてその圧倒的な存在感。



「も、もしかして...」


「どうやら新君は分かったようだね。そう、私の兄貴はヴォルフ・ラインフット。そんで私の名前がミルダ・ラインフット。よろしくな!」


「「えぇーー!!」」


「いい反応してくれるねー」



あまりの驚きに空いた口が塞がらないでいた。

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