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二章 災難と出会い 《2》


...ピチャ...ピチャ


水滴の落ちる音で目が覚める。



「ん、ここは。」


自分の全く知らない場所にいる事に気づく。


周囲は薄暗く、光は部屋の隅にある一本の蝋燭の揺らめく光のみ。壁は見たところ石で造られているようだ。

前方には何本もの太い鉄柵があり、牢屋から逃げ出す気すら出させないほど頑丈に造られている。


隅には簡易ベッドが設置され、牢屋の広さは四畳ほどだろう。



(状況から考えると、山賊と間違われて捕まったって所か)



どうやって濡れ衣を晴らしたものか。。



ふと前方の鉄柵の外を見ると、先ほどまでは気づかなかったが壁際に警備兵だろうか。王国騎士と呼ばれていた連中とは違い、防具や武器を装備はしているものの派手さはなく軽備な格好をしている。



「あのーすいません。どうやら勘違いで捕まってしまったようなんですが」



「・・・」



「あの、一度話がしたいので上の人と合わせていただけないですか?」



「・・・」



返答どころか表情一つ変えない。

そういう風に指導されているのだろう。


ここまで無視されると次の言葉を出す気さえ失う。


とりあえず簡易ベッドに腰を掛けた。その時、首筋に鋭い痛みが走った。咄嗟に痛みが走る箇所に手を当てる。



「随分と強くやられたもんだ。まぁ、あの矢に射抜かれてないだけまだマシか」



あの血の海の光景を思い出す。生まれて初めて人の死ぬ瞬間に出くわした。思いのほか衝撃は小さかったが。



(少し間違えていたら今頃死んでいたのは俺だったのかもなー)



ギーー



重い鉄扉が開く音が牢屋中に響く。

眩い光が扉の先から漏れだし、薄暗い牢全体を包んだ。



先ほどまでただ立っていた警備兵は扉が開くや否や扉の方向に直立し敬礼をしている。



「いったい次はなんなんだ」



こちらの世界に来てからハプニング続きな事に少々の苛立ちを覚え始めた。


開いた扉の先からは二人の騎士が現れ、真っ直ぐこちらに向かって来ている。


扉が閉まり眩い光が途絶えると、騎士の顔や体格がはっきりと見える。


一人は大柄な体格の男だった。

歳は四十手前、顔の輪郭全体に立派な赤髭を生やし、大きな白布を纏っている。その背中には男と同じ丈はあるであろう大剣が背負われていた。どっしりとした佇まいをしている。かなりの使い手だろう。



もう一人は長い金髪を揺らめかせ、同じく白い布を纏っている。腰には長細い長剣が下げられており、外見はとても細く見えるが、本当に騎士団の一員なのか疑うレベルだ。



「ん?お前は俺を殴ったやつじゃないか。言っておくが、俺はあの盗賊連中とは全く関係ないからな。」



「・・・」



視線は外さないが返答はなし...か。

新の発した言葉は狭い牢屋にむなしく空を切り響くのみだった。どうやら会話をする気はないらしい。


しばらくの沈黙が続く。


最初に言葉を発したのは赤髭の大男だった。



「すまない。こいつは無口でな。まぁ、そんなにいきり立たんでくれ。心配せんでも君が山賊の一味でないことは確認がとれている。俺達は君を釈放させに来たんだ。」



見た目と合致する野太い声で男は話を続けた。



「俺の名前はヴォルフ、王国騎士団第一騎士隊の隊長をしている。

で、こっちのがシルフィー。同じ第一騎士隊の副隊長だ。

今回の件では君を巻き込んでしまい申し訳ない。こちらにも色々と理由があってな。。」



その続きは言い難い内容なのだろう。



「言い難いなら無理に言わなくていいさ。よくよく考えてみれば誰だってあの状況を見れば俺も怪しい人間の一人だしな。」



「そう言って貰えると助かるよ。あー、言い忘れていたが妹さんが迎えに来ているぞ。早く行ってあげるといい。」



懐から鍵の束を出し扉の鍵を開けた。

どうやら本当に解放してくれるようだ。


しかし、「妹」とは誰のことだろう。嘘をついているようには見えないが。。

そう思いつつも天国の幼女(神様)を思い出していた



(...まさかな)



牢の扉は鉄の擦れる嫌な音を響かせた。

とりあえずこんな場所には一時も居たくない。とっとと立ち去るのが無難だ。


高さの低い牢扉をくぐり抜け、その足取りで外へと続く扉に向かった。



「私は間違ったことはしていない!...しかし悪いと思っている。」



急に大声を上げる彼女に背筋が自然と伸びる。後ろを振り返り見ると、こちらを向き身体を小刻みに震わせている。


見るからにプライドの高そうな彼女にとって精一杯の謝罪の言葉なのだろう。



「あぁ、分かってるよ」



一言だけ言い残し、扉を出た。

扉を出ると広い玄関ホールが広がっていた。


その真ん中に一人。

見覚えのある幼女が立っていた。


髪は白髪で膝下ほどの長さ。

目は大きく綺麗な二重。

身長は新の腰より少し高いほどだ。


ま、まさか。。



「あらたーーー!!」


扉をでるなり腰に抱きつく白髪の幼女。忘れもしない、天国で出会った幼女(神様)だ。


腕と足を絡めぴったりと張り付き、押そうが引こうが全く離れない。



「な、なんでお前がここに居るんだ。天国はどうした!?」



「心配いらん!あっちは他の者に任せておる。そ・れ・よ・り・も!」



キラキラさせた顔をこちらに向け、ピタッと動きが停止する。



「? どうかし...」


「会いたかったぞーーー!あらたーーー!!」


「!?!?」



顔を胸に埋め、高速で頭を左右に振り続けている。


昔から首筋や足の裏に刺激を与えられることに弱かった新には地獄のような行為だった。


全身の鳥肌が立ち、顔がみるみる青ざめていく。



「や、やめてくれ!た、頼む!頼むーー!」



十分後



「ふぅ。満足じゃ!」


腰に手を当てキラキラと輝く元気百パーセントの幼女。


その足元には口から魂が抜けかけた姿の新が倒れ込んでいた。死体のように真っ白になり、痙攣を起こしている。



「あらた起きんか!これくらいで倒れるとは、あらたもまだまだじゃのー。あれほどステータスを上げてやったのは何のためだと思っておるのじゃ!」



腕を組み不満げに言葉を投げつける。散々めちゃくちゃにされた挙句最後には罵りの言葉を吐いている。


とうとう新の堪忍袋の緒が切れた。



「おーまーえーなー...」


ふらつきつつもゆらりと立ち上がる姿はホラー映画に出てくるゾンビそのものだった。



「俺はこういうむず痒いのが苦手なんだよ!それとステータスをいくら上げられてもこれに関してはまっったく変わるわけがない!それにだな、お前がここに居ること自体が、、」



グギュルギュルーーー...



話を割って入る その轟音にハッと我に帰る。誰かが止めなければ機関銃のように永遠と説教を垂れていただろう。


しまったと言わんばかりにため息をつき、片手で顔を覆う。



(つい、キレてしまった。。それにしてもさっきの音はいったい...)



そっと指の隙間から幼女神様の顔を伺う。

すると、さっきまでの元気ハツラツな表情とはうって変わり、顔からは元気が無く下を向き(うつむ)いている。



(やってしまった...)



理由はどうであれこんなに小さい幼女に対して本気でキレた挙句、落ち込ませてしまった。この事実を新は心から反省していた。


しかし、普段からこういったことに関わらないようにしていた新には何を言えばいいのか分からないでいた。



「あー、なんだその...すまなかった。さすがに言い過ぎたよ。」



手で頭を擦り、気まずそうに謝罪をしている。これが新の精一杯の謝罪であった。

幼女はというと未だ俯いている



「あらた...あのな...」



「..なんだ?」



グギュルギュルーー...



(...ん?)



「...腹が減って元気が出ないのじゃ。腹が減っては戦は出来んというくらいじゃからのー。」




...プチン



新の中で何かが切れた。

勝手に勘違いをしていたという恥ずかしさもあったが、それ以上に怒りの感情が爆発した。



「それで、なんで新は謝っておるのじゃ?」



首を横に傾ける幼女。




「おーまーえーなーー!!」




「な、なんで怒っておるのじゃーー」







数十分後



ようやく落ち着きを取り戻すと一時休戦協定を結び外に出る事にした。


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