一章 美幼女と異世界転移
なんて気持ちがいいんだろう
気づけば草原に仰向けで寝ていた。
目を開けば日の暖かい光が身体を包み込み、小鳥たちが空を飛び、耳を澄ませばさえずりが聴こえる。周囲には地平線まで雲海が広がっていた。
まさに人が想像する天国そのものだ。
こんなにも気持ちいいと天国に来てよかった。と少し思ってしまう自分は不謹慎なのだろうか。
「俺、ほんとに死んだんだな」
とりあえずこのまま、もう少しだけ寝ていたいと思い目を閉じた。その矢先。
「ぐはっっっ!!?」
強烈な衝撃が押し寄せた。
ボーリング玉が腹部に落ちたような感覚。完璧なみぞおちドストライク。あまりの痛みに上体を曲げるなか、視線を腹部に向ける。
そこには膝下ほどの長さのキレイな白髪にクリっと大きな目の美幼女が俺の腹部をまたぐようにして座っていた。
ボーリング玉の正体はこの子のようだ。
そこで気づいたが、今来ている服装はどうやら事故の時に来ていた制服だった。
傷などはなく新品同様だ。
「起きろ あらたー!寝るには まだちと早いぞー」
見覚えの全くない幼女は起きたのを確認すると足早に地に降りた。
見た目とは裏腹に、どこか古臭く全く似つかわしくない口調だ。
本来ならばツッコミ所が山のようにあるこの幼女を放置は出来ないのだが、今はそっと抑えておこう。
痛む腹部を擦りながら上体を起こし、あぐらをかく。
深呼吸を一度混じえつつ、心を落ち着かせる。
「きみは?名前はなんていうの?」
相手は子どもだ。
そう言いきかせ腹部への打撃の事は白紙にすることにし、最大限の笑顔で対応する。
「わしか?わしに名前はない!強いて言うならお前達人間は神だとか仏だとか呼んでおるぞ!といってもまだまだ見習いじゃがな!」
「.....」
「どしたのじゃ?変な顔をしておるぞ。あらたは面白いな!」
幼女はクスクスと両手を口の前にかざし笑っている。
それと引き換え、自分はどんな表情をしているのだろう。酷いものだろう。あまりにも突拍子のない発言に頭が未だに困惑している。
とりあえず相手は子どもだ。大人として話を合わせてあげることにした。
「いや、ちょっと驚いただけで大丈夫だ。それで神様が俺になんの用かな?」
「あ!忘れておった。実はの、少し話さなくてはいけないことがあっての。。お、怒らずに聞いてほしいのじゃが...」
両手の人差し指を胸の前でくっつけたり離したりする姿はどこか可愛らしさがあった。
一部の人間には需要がありそうだ。
「ん?なにかな?さっきのみぞおちに《強烈》な一撃を入れたことなら気にしてないよ?」
めっちゃ気にしてるけどね。
痛いけどね?めっちゃ痛かったけどね??
「そんなどうでもいい事ではない!」
(どうでもいいって...)
「実はの あらたが死んでしまったのはこちらの手違いでな、本当はあの事故では誰も死ぬ予定ではなかったんじゃ」
気まずそうに話を続ける。
たしかにみぞおちの件はどうでもよくなるな...って。
「...はい?」
混乱していた頭がより一層混乱する。
幼女の言っていることが嘘でないなら俺は無駄死にしたことになってしまう。
意図しない発言にたまらず疑問をぶつける。
「君の言っていることが正しいとして、どうして俺は死ぬことになったんだ?」
一時の沈黙が流れる。
「わしらにも理由が分からんのじゃ。。神ともあろう者がこんな不手際をしてしまい申し訳ない」
深々と頭を下げ土下座する幼女。いくら神様でも幼女が土下座をする姿はいくら俺でも心が痛い。
だがそれで はい。分かった。 と理解し許せるほど俺は人間は出来ていない。
だからと言ってここで何を言ったところで事は何も変わらない。
そう、結果は変わらないと分かってはいる。だがやはり腑に落ちないでいた。
「どうにかなんないのかよ...」
口からこぼれる本音。
すると、その言葉を待ってましたと言わんばかりに幼女は眼前まで距離を詰める。
「その事で今日は話に来たのじゃ。実はの一番お偉い神様の判断であらたを生き返らせることが決定したのじゃ!」
先程までの雰囲気と一転。
腰に手を当て、鼻が伸びるんでわと思えるほど鼻を高くし、自信満々に提案してくる姿はまさに子どものそれだ。
(それにしても表情がコロコロ変わる子だなぁ。。って)
「生き返れるのか!??」
思いがけない言葉に驚きを隠しきれないでいた。
「なんだよ。それならそうと最初から言ってくれればよかったのに」
「し、しかし一つ問題があってな元の世界には生き返らせる事は出来ないんじゃ。それは世界の理に反するからの。
だから違う世界。つまり異世界に姿、記憶は残したまま転移して貰おうと思っておるのじゃ。。」
先程までの態度が嘘のようにまた場が悪そうにしている。
薄々気づいていたが、この神様は思っていることがすぐに態度や表情にでるらしい。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。生き返れるのは嬉しいがいったいどこに連れていこうとしてるんだよ。」
慌てるのも仕方ない。家族もいなければ知人もいない。言葉が通じるのかさえも分からない場所に連れていかれるのだ。
旅行に行くのとは全く別物だ。
「案ずるな。わしも流石に異世界に転移させてさよならなんて無粋な真似はせん。神の加護としてお主のステータスを大幅に上げておく。これであっちの世界でも多少のことでは死なんじゃろうて。」
幼女は言い終えると、そっと背後に周り背中に手を当てた。
「ん?なにを。。」
声に出すより早く、なにか暖かい物が身体に流れ込んでくる。幼い頃に母親に抱かれていた時と似た感覚だ。そのせいか睡魔が押し寄せる。
「説明が充分ではなかったじゃろうが、もう時間のようじゃ。与えられた時間は短くての。心配せずとも次に目が覚める時には生き返っておるから安心せい」
どこか寂しそうな声だった。
「ちょ、ちょっと待て。まだ聞きたいことが...」
「いつも傍で見守っておるぞ。」
話をする間もなく視界が徐々に暗くなり、最後には完全に意識が途絶えた。