プロローグ
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「一寸先は闇」
昔の人はこういう光景を表現するために、この言葉を作ったんだろう
そう思えるほど真っ暗な世界
なにも見えない
自分以外何も存在しない
いや、闇が濃すぎて視えていないだけで存在しているのかもしれない
自分の腕に視線を向ける
...やはり無い
いや、見えないが正解なのか?
そこに腕は有るのか、無いのか
自分のことなのに、それさえ確かめる術がない
感覚はある...気がする
正直ないといえばない
普段から感覚を意識して腕を動かしている人間であれば分かるかもしれないが、生憎俺はそんな人間を見た事がない。
よって、この ある気がする感覚 は間違いの可能性も十分にある
さて、今更だが なぜ俺はこんな所にいるのだろう
それと「俺」と先ほどから言っているが男なのか?
名前は?歳は?そもそも「人間」なのか?
よくよく考えていけば腕だけでなく自分の事を何も分からない、思い出せない
正直言ってお手上げだ
しかしどうしてだろう、自分でも驚くほど冷静だ
どうせならもういっそこのままなにも考えず眠ってしまうか。。
「・・れか・・・しゃ・・・」
なんだろう。
なにか聴こえる。
「だれか・・うしゃ・・・」
...人の声か?
この今の状況の謎が解けるかもしれない。
耳をすませる
「だれか!救急車!!」
その瞬間 心臓が強く脈打ち、身体中に血液が駆け巡る感覚した。
鉛のように重い瞼がゆっくりと開く。
... 俺は気を失っていたのか?
っっっ!?
急激に酷く鈍い傷みが頭を貫く
まるで鈍器で頭を強く殴られたような痛みに言葉が出ず、奥歯を噛み締めた。
薄く目を開き最初に見えたのは、赤みがかった青空だった
全く今の状況が把握できない。
動かせる範囲で視点を周囲に向ける
視界の先にあったのは外壁にめり込んだ大型車、一定の距離を保ち自分を取り囲むようにしてざわめく人の群れ
そして何より一番驚いたのは、顔をぐしゃぐしゃにさせ、泣きながら俺の手を握る母親
その時薄れていく意識の中で全て思い出し、理解した
俺は佐竹 新 (さたけ あらた)
どこにでもいる高校二年の16歳
それなりに人生楽しんでたし、やり残したこともあるけど、どうやら俺...
死ぬみたいだ。