[Suicide]
ずーっと音信不通だった。
何回電話したって出ねぇから。
…それに。
覗いちゃいけない
人の家庭の事に、あんまり
首を突っ込みたく無かった。
…覗いちゃいけない事。
…あの後、
親父さんの顔、拭いてやって
少し落ち着いて来たあいつに
救急車を待ってる時、聞いた話。
互いのくわえたタバコに
互いに火を点けてやりながら。
「なんだって、
こんなボコボコにしなきゃ
いけねーんだよ?
いくら酒乱だっつったって
てめーの親父だろうがよ?」
「…息子の嫁に手ー出す様な男、
親父って呼べんのかよ?」
ケンジは自分で死んだ。
初盆の時、
妹さんから聞いた話は、
実はお袋さんも自殺だった事。
あの後、仲間とは誰とも
付き合って無かった事。
もっとしつこく絡めば良かった。
…すまん、ケンジ。
お前は誰とも上手くやれた。
気が弱いけど明るくて
揉め事大嫌いで
その割りには
人のケンカに仲裁に入って
お前がケンカしてた。
スケボーが上手かった。
ギターは超絶早弾きだった。
歴史の話はお前しか
聞いてくれなかった。
俺とは音信不通だったけど
お前、仲いい奴が沢山いたから。
あの事で、俺を避けてるって
…そう思ってた。
…あん時、俺を呼んだ。
その意味を。
すまん、ケンジ。
今、親父さんは
老人ホームに居るらしい。
片目の潰れた自分の顔を
鏡で見る度、
息子の事を思い出すか
どうかなんて、、、
俺には解らないし関係無い。
…それを俺が知ってどうする。
妹さんは
高校時代から
ずーっと付き合ってた
同じブラスバンド部だった人と
結婚した。
やっぱり
「出来ちゃった婚」
…だったらしい。
そして、
生まれた男の子の名前は
字こそ違えど
「ケンジ」 と、読むらしい。
この話は事実を
元にした創作であり、
ケンジのある部分は俺で
俺の部分もケンジと
共有している。
ケンジの名前を
実名で書いていて
投稿前に文中の
全ての名前を書き替えた。
ケンジの元奥さんの
消息は知らない。