言い伝え(作:奈月ねこ)
あるところにとても小さな国がありました。そしてその国には言い伝えがありました。
「太陽が高く上がった時には外に出てはいけない」
というものです。ずっと昔から、その国の人々は言い伝え通りに生活してきました。
国の中心にある広場には日時計があり、太陽が中天に差し掛かる前後には、国民全員が家の中に籠ります。その事に対して大人は不審に思いませんでした。「言い伝えだから」「国の全員が同じだから」それだけではなく、本当の理由を大人は知っていました。
「言い伝え」は親から子へ、そして孫へと受け継がれていきました。その「言い伝え」を守ることで、国が成り立っていると、大人は気づいていました。でも子供はそうではありません。
一人のやんちゃな男の子ジュンは不思議に思いました。親から「言い伝え」のことは聞いていましたが、「何故」なのかわからなかったからです。
ジュンは太陽が中天に差し掛かる時に外へ出てみようと思いました。子供の冒険心からです。もちろん親は反対するでしょうから、一人で家をそっと抜け出すことにしました。
ジュンが外に出ると、誰も町にはいませんでした。シンと静まりかえっています。国の全員が家に閉じ籠っているからです。
ジュンは町の散策を始めました。
「なーんだ、特に何もないじゃないか」
ジュンが呟いた時、太陽が中天へと差し掛かりました。
「暑いなあ。これだから外へ出るなってことだったのかな」
ジュンがそう思っていると、汗がどんどんと出てきました。
ジュンは汗を拭いました。
どろり
ジュンの手に溶けた顔の皮膚が張りつきました。
「わあ!」
ジュンは驚きました。しかも顔だけではなく、服の外に出ている手や足も溶けてきたのです。
「た、助け……!」
ジュンは叫ぼうとしましたが、最後まで言うことは出来ませんでした。口も溶けていったからです。ジュンはもう助けを求めることも出来ません。立っていることも出来なくなり、道に崩れ落ちました。
太陽が中天に差し掛かってから一時間後、その国の人々は家の外へ出てきました。そこで発見されたのは、頭と手足がなくなったジュンの死体でした。
「言い伝え」は守るべきものでした。その国では必要なものだったのです。何故なら、その国は氷の国だったからです。でもそれを知るのは大人だけでした。子供には「氷」というものが理解出来ないのです。皆成長すると共に、氷の国だと理解していくのです。
そして、人も半分は氷で出来ていることを知るのです。
どこに存在するかもわからない、とても小さな国の言い伝え。