13話
もっしゃもっしゃとケランを撫で繰り回したあと、ようやく俺は化け物がいた辺りに視線をやった。
そこには化け物と思しきものはない。
ただ、不自然にへこんだ草の上に拳大の黒く丸い物体が一つ落ちている。
その辺に落ちていた枝を拾い、突っついてみる。
・・・噛まれないな。
よし。
今度は指で突いてみる。
今度も何事もなく、ツルツルとした手触りがする。
恐る恐る手に取ってみた。
大体ケランと同じくらいの大きさのそれは黒いのに透明感のある不思議な物体だった。
陽に透かすと細かい粒子の様な物がキラキラと輝く。
よし決めた。
これアクセサリーにする。
***
いつの間にか茜色に染まりだした街に帰り、まっすぐにアイテム屋に向かう。
急ぎすぎて若干上がった息を整えつつ店の中を覗くと、親父3人が談笑しながら肉を捌いてた。
なにあれ、すげぇ美味そう。
ついでに鳥も捌いてもらおう、俺じゃ無理だ。
「・・・おっ!にぃちゃんいーとこに来たなぁ!ってなんだその手に持ってるのは。夜星鳥じゃぁねぇか!」
「良い物が捕れたな、にぃちゃん。捌けるか?」
「え、いや、お願いします。」
ドルトスさん、声でかい。
あとシドスさんが鳥、じゃない夜星鳥の下処理を始めた。
せっせと羽根を毟ってる。
「随分といい羽だな。そうだにぃちゃん、これでピアスでも作ってやるよ。他に素材ないか?あと、そろそろあんたの名前教えてくれよ。」
「教えてなかったっけ?」
「おう。」
「神埼剣人です。剣人って呼んで下さい。」
「かっこいい名前だな!そういや俺も名乗ってなかったな。俺はマルドだ。知っての通りアイテム承認をしてる。シドスが兄貴、ドルトスが弟だ。」
マジか。
マルドさんも兄弟だったのか。
ゴソゴソと両方のバッグを漁り、黒い物体やら糸やら鱗やらをバラバラ床に広げていく。
ひょいひょいとそれらを拾い上げ、なにやら分類し始めるマルドさん。
薬草とかも分類し袋に入れている。
「よし、約束通りうちに持ってきてくれたから多めに買い取ってやるからな。そうだなぁ、<女神の息吹>で5千ゴールドでどうだ?」
「こっちは買い取ってくれないんですか?」
素材用にと集めてきた物を指差して訊いてみる。
まぁ確かに、買うにはちょっと微妙だけど。
「まぁまぁ、そう焦るな。薬草はうちで買おう。ちょいっと高値だ。だからこの素材はタダで欲しい。その代わり、剣人が作りたい物を素材の分だけ値引きしてやる。もちろん俺ら兄弟皆でだ。どうだ?沢山素材を持ってくればそれだけ安くアイテムが作れる。」
「それって、素材は俺だけのじゃないだろ?」
「いや?あんたが持ってきた素材はあんたのアイテムだけに使う。じゃないとフェアじゃないだろ?」
うんうんと頷く3人の親父。
すっげぇ優しいじゃねぇか!
「じゃぁ、さっそく素材で作ってくれない?」
「おうよ、任せろ!すぐ終わるからな、そこで肉でも食っててくれ!一緒に食うからにはタダだからな。気にせずジャンジャン食べるんだぞ。」
「よっしゃ!」
いつの間にか綺麗に捌き終わっていた夜星鳥と何かの肉をジュウジュウ焼いているシドスの隣に座る。
ピアスを作り始めたマルドともう既に食べ始めているドルトスと、4人で肉を奪い合うようにして食べた。
鳥めっちゃ美味かった。
あと焼肉の途中で完成したピアスはすっげぇかっこよかった。
これからここに遊びに来よう。
ちなみに。
ミッドナイトブルーの羽根と透明感のある黒い宝石のイヤリングの隣。
耳の後ろの髪にくっついているケランが不満そうにしていた。