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エースの捜索

 終礼が終わる。これから部活だ。

 だが、今日はどんな顔で部活に顔を出せばいいのかわからない。いや、どんな顔をすればいいのかは分かっている。いつも通りでいいのだ。

 それは分かっている。

 正確に言うなら、先輩にどんな顔で会えばいいのかわからない。

 昨日のようなやりとりの後で、ちゃんと先輩と話せるのだろうか。いや、案外先輩のほうはケロっとした顔でいつも通りに接してくれるかもしれない。

 そんな期待もしてしまう。

 でも、先輩と同じチームで過ごした1年で分かったのは、先輩は思いつきで行動したりはしないこと。そして、先輩はやると言ったことは必ず実行すること。

 だから、いつも通りではないだろう。

今まで先輩の後を子犬みたいについていっていた。それで居心地がよかった。それが、今日で終わりな、と言われて、自分も平常心とはいかない。

 それでも、部活に顔を出さないというのはもっとまずい。行ってから考えよう……

 教室を出て、ロッカーの上に置いてあるエナメルバッグを担ぐ。なぜだか昨日より重い。


 やっぱりなんとなく足が部室に向かず、購買でジュースを買って、飲んでから行くことにした。普段飲み慣れているはずの甘いジュースだったが、今日は味気ないように感じた。

 空になった紙パックを握り潰し、ゴミ箱に放り投げた。

 そんなに長く時間を潰したわけじゃないが、さすがにそろそろいかないとまずい。遅くなった理由を聞かれたら、現国の先生に提出した宿題について呼び出された、とでも言っておこう……

 部室に足を向けると胸のモヤモヤが強くなった。無視してさっさと歩こう。下駄箱で靴を履き替える。

よし行くぞ!と心を決めてから歩き始める。

 一度校門を出て、ほぼ野球部専用となっているグラウンドの脇を抜ければ、すぐに部室だ。

 先に来ていた部員が練習の準備を始めている。すでに来ていた3年生達がグラウンドの端の方でストレッチをしている。

 遅刻したというわけではないが、急いで準備しないと間に合わなそうだ。それに監督室に行って、今日の練習内容も聞かないといけない、しかし……

 相模先輩はどこだ。

 まだ先輩と顔を合わせる心の準備が出来ていない。今ここで急に話しかけられでもしたら、まともに話せる気がしない。

 探してみたが、いない。普段なら、3年の先輩たちと一緒にウォーミングアップをしているはずなのに……

 すでにブルペンに向かったのだろうか。

「おい御次」

「うわっ!」

 急に後ろから声をかけられた。

「びっくりしすぎだろ。俺がびっくりしたわ」

振り返るとそこにいたのは、坂本だった。相模先輩じゃなくて少しだけホッとした。

 すでに着替え終えて、プロテクターをまとめていれるバッグを抱えている。俺のリアクションがおかしかったらしく、半笑いだ。ただ、それにイラつくような余裕は今の俺にはない。

「はぁー、びっくりしたわ。なに?」

「いきなりため息ってなんだよ? 今日は遅かったから、俺一人で監督に今日の練習確認しに行っといてやったぞ」

「……それで?」

「それでって、お前……まあいいや、今日の前半は、ピッチャーは全員ブルペンだってさ。そのあとは全体練習」

「おっけー」

「早く着替えろよ。先にブルペン行ってるからな」

 それだけ言うと、プロテクターをガチャガチャ言わせながら、ブルペンの方に走っていってしまった。

 やっぱり自分の今の心は乱れている。普段の自分なら、先に監督に確認してもらったことを感謝はしても、あんな態度はとらないはずだ。

 それなのに、あんなに冷たい態度をとってしまった。

 申し訳ない……

 今までの俺は絶対こんなキャラじゃなかったはずなのになぁ……

 とにかく練習開始に遅れるわけにはいかない。急いで着替えなくては。

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