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エースとの問答

「あっ、先輩。おかえりっす」

「ただいま……」

 ピロティでみんなでボールの確認と清掃をしていた頃に、ロードワーク(予定外の、しかも今日二回目)から先輩が帰ってきた。今日の練習もほぼ終わり、日もすっかり沈んでしまっている。グラウンドを夜間練習用のライトが煌々と照らし、影という影がすべて長く伸びきっている。グラウンドをトンボで馴らしている下級生の影もいろんな方向に伸びて、動いている。

先輩が2回目のロードワークに行くと言ってもう一時間以上経っていた。途中で休憩を挟んでいるだろうが、ロードワークに行く時間としてはかなり長い。というよりも、基本的にロードワークをひとりでやる自体が珍しいのだが……まあ、先輩に関しては、誰もサボるだろうとは考えないだろうし、問題ないか。

「元気ないっすね。結構長い時間ロードワーク行ってましたし、ばてちゃいました? ていうか、今日って投げてないですよね。ノースロー(肩の休養日、この日は投球練習はしない)でしたっけ?」

 2回目のロードワークということですっかり疲れきっている先輩に声をかけた。今日の先輩は、いつもと違うことばかりしていたので、俺の質問もついつい多くなってしまう。

「気分的に今日はロードワークの日だったから」

「気分で練習内容決めるとか先輩らしくないっすね」

「そうだな……」

 なんか、調子狂うなぁ……

「御次」

「なんすか?」

 最後のボールも磨き終わって、かごを部室に戻そうと抱えたところに声をかけられた。

「お前さ、エースになりたいか?」

 なんだ、その質問? とは思ったものの、決して声には出さずにいつものように答えた。、

「そりゃもちろんっすよ。投手やってる人間で1番じゃなくてもいいなんてやつはいないはずですし、来年は俺が一番つけて、甲子園行くんす。2年連続、3季連続で」

「それ、本気か? 覚悟できてる?」

「…………?」

質問の意味が理解できない。

「即答できない程度の覚悟ってこと?」

少しの間、ポカンとした。

「そうか……分かった……ロードワーク行ってくる」

「待ってください!」

 それは決して、またロードワーク行くんですか? という意味ではなく、最後の質問に答えるために、俺ははっきりと答えた。

「今年は先輩が俺らを甲子園に連れてくんでしょ? 来年は俺らが先輩を甲子園に連れて言ってあげます」

「もちろん、俺がエースとして、ですよ」

「来年だったら。俺、卒業してんじゃねえか。訳分かんねえよ。それに、3季連続で出場したら、次の春はお前いるじゃん。お前だけここで留守番だな」

 先輩が少しだけ笑った。

「ただ」

「お前の覚悟は分かったよ」

 そう言って先輩は、インタビューの件を監督に報告しに行くと言って、監督室のある部室棟に向かっていった。今までもエースになりたいか、みたいな質問はされたことはあるが、結局、全部俺を茶化すための質問で、今日みたいな本当のガチで聞かれたのはおそらく初めてだった。

 今日の先輩はやっぱなんか変だな。

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