エースと決意
ブルペンの整備をしてくれた1年にお礼を言った後、俺はその一年に付き合ってもらい、トスバッティングをしていた。足腰に疲労がたまっている時こそ、最適なバッティングフォームが身につくと先輩から教わっていたからだ。最適なバッティングフォームかどうかはさておき、体力がつくような練習なのは間違いなかった。その証拠に、練習が終わったあと、1年に「先輩の今の顔やばいっす」と爆笑された。体育会系の上下関係など、俺にはないようである。
自主練からのロードワーク、シートバッティングにトスバッティング。今日の練習はどちらかというと、ちょっとハードだったな。ほんのちょっと。後輩に練習後のバテ顔を爆笑される程度に。
トスバッティングの片付けを後輩と一緒にしたあと、おれは休憩を兼ねて、先輩を探すことにした。来年に向けて、インタビューの時にどう答えるか、考えておこう。
確か、監督室に呼ばれてるとのことだったが、そこを訪ねてみても、監督が記者さんと話しているだけで、先輩の姿は見当たらなかった。監督に、練習はどうした? と聞かれたが、キャプテンが先輩を探してました! と咄嗟に嘘をついて事なきを得た。ちなみに、監督にはシートバッティング時の球数を過剰に申請して、本日の投球練習は全て終了となった。先輩が取材から帰ってきたら、口裏を合わせておかないと。
そのあとは、グラウンドを見渡しても、先輩らしき人影は見当たらなかった。ブルペンに行ったのかと思ったが、バッテリーを組む村田先輩はバッティング練習をしていて、結局、相模先輩は見つからなかった。これはまずいなぁ、と思っていたところに、ブルペンの脇に立つ先輩を見つけた。
「あ、先輩おかえりなさい。インタビューはどうでした?」
「……」
「先輩?」
先輩、無視すか……
「……ああ、今坂。いや、いつも通り……だったよ」
「?」
先輩、なんかおかしくないか。ブルペンに来てる割には、グローブはもってないし、村田先輩はさっきバッティング練習してたから、ブルペンで投球練習というわけでもないだろう。というよりも、なんとなく上の空っぽい。
「先輩、グローブはどうしたんすか? 練習しに来たんじゃないんですか?」
「今坂。悪いけど、軽めにロードワーク行ってくるわ」
「ああ、はい……いってらっしゃい……」
あれ? ロードワークなら俺とさっき行ったじゃん? やっぱり変だ。
記者さんに、ほかの高校にすごい一年が入ったとか言われたんだろうか。