エースナンバー
今日の練習もそろそろ終盤に差し掛かろうかという頃(結局、バッティングケージの片付けは1年投手の球を受けていた坂本に手伝ってもらった)、最後に坂本とクールダウン代わりのキャッチボールを行っていた時のことだった。
「お前、ホントにロードワーク行ってきたのか?」
なかなか鋭い! 確かにロードワークには行ったけど、公園にいた半分以上の時間は先輩とだべってたし。とは言え、それを正直に言うわけにもいかず……
「えっ? お、おう。大池公園まで行ってきたぞ。結構な距離走った!」
嘘は言ってない……『結構な距離』も人によりけり、だ。
「ふーん」
明らかに納得してない感じだ。
「何周したの?」
「えっ?」
「だから。大池公園を何周したのかって聞いてんの?」
「えっとですねぇ、結構な距離です……」
「何周?」
「相模先輩と同じぐらいの距離です……」
「何周?」
絶対サボったと思ってるよ……いや、合ってるんだけど。
「ちなみになんでそんなことを聞かれるのですか……?」
坂本の問い詰めるような口調につい敬語になってしまう。いかにもやましいことがありますって感じだ。あるんだけど。
「いやぁね、疑ってるわけじゃないんだけど、ロードワークでへろへろな割にはいい回転の球投げるなぁ、と思ったから。いや、へろへろはいつも通りへろへろなんだけど、先輩にロードワークに連れていかれた割にはさぁ。疑ってるわけじゃないんだけどね。あと、敬語になってもごまかせないからな!」
やっぱり、入学してからずっと球を受けてきた坂本にはすぐにバレてしまった。これ以上ごまかすのも無理だし、観念して正直に言うしかない。
「……はぁー。監督には言わないでくれよ」
「内容によるけど、とりあえず言ってみろよ」
俺は先輩にロードワークに連れていかれた経緯、そこでのやりとりを正直に伝えた。確かにロードワークには行ってるし、俺からサボろうとしたわけではないし、坂本なら正直に言ったところで悪いようにはしないだろう。
「ふーん」
一応の説明を受けた坂本だが、どうにも納得できないところがあるようだ。
「頼むから黙っててくれっ!」
万が一にも監督に聞かれたらまずい内容だ。とりあえず、釘をさしておく。
「いやいや、言えるわけ無いだろ? お前は自業自得だけど、今度は先輩が怒られかもしれないんだから、まあ、それはそうとさぁ」
坂本がはぁーと大げさにため息をつきながら、ぼりぼりと頭を掻いた
「お前って本当に先輩に頼ってばっかだよな」
「なんでそういう話になるんだよっ?!」
全く予想外な方向からの指摘だっただけに驚いた。先輩の話をしていたはずなのに、俺に対しての指摘になるとは。
「だって、お前。秋からエースになろうってやつとは思えねぇよ。自主練でバテるエースとかマジでありえん」
「うっ……」
ぐうの音も出ない。
「一応、自覚はあるみたいだな」
「不安がないわけじゃないけど、やっぱりチームの一番をもらえるのは嬉しいよ」
「分からんでもないけど……」
今坂はまた頭をぼりぼりと掻いた。
「でも、お前はエースになりたいのか、一番が欲しいのか……」
「え?」
「お前にとって、エースって何?」
「お前自身のためにも、チームのためにもそこははっきりしといたほうがいいと思うぞ。お前と組んでる俺の評価にもつながるしな。とりあえず、クールダウンはこれで終わり。ブルペンの片付け、1年がやっといてくれてるはずだから、お礼言っとけよ。じゃあな」