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エースの違和感

 坂本と別れた後、急いで着替えた俺はすぐにブルペンに向かった。きっともう先輩も来ているはずだ。

 ブルペン陣はもうそろそろランニングを始めようかとまばらに集まっているような状況だった。

 あぶねー、購買から小走りで来てなかったら遅刻してたかも……でも、現国の先生に呼ばれたうんぬんの言い訳はしないで済みそうだ。

「御次、おまえ遅かったな」

 ブルペンでの練習をまとめているコーチと話をしていた坂本が打ち合わせを終えて、こちらに走ってきた。

「遅くないだろ、むっちゃ急いで着替えたからな」

 坂本と別れたあと、本当に急いだ。なぜなら着替えてる最中に、部室前に監督が現れたからだ。モタモタしているところを見られていたら、なにを言われるかわかったもんじゃなかった。今のテンションで怒られでもしたら、それこそ踏んだり蹴ったりだ。

「それよりさ、坂本お前、相模先輩見なかった?」

 先にブルペンに来ていた坂本なら、相模先輩を見ているはずだ。まあ、先輩がどこかにいるのは確実だし、どこにいるか分かったところで……って言うのはあるけど…

「あれ……そういえば、まだ見てないな?今日はブルペンって聞いてなかったとか……」

「嘘だぁ、先輩まだ来てないのか……」

 いつもはチーム全体でもかなり早めに部活に顔を出す先輩がまだ来てない……?

「ま、あの人のことだからサボってるわけないし、もうすぐ来るだろ。 俺らが聞いてないだけで、雑誌とか新聞社から取材が来てるのかもしれないぞ」

「でも、相模先輩の相方の千葉先輩はこっちに来てるぞ。プロテクターも持ってきてるみたいだし」

 今まで俺が見てきた範囲では、相模先輩が投球練習する時は必ず正捕手の千葉先輩が受けてきた。捕手の練習として相模先輩が千葉先輩以外に向けて投げることはあっても、今日はあくまで投球練習で投手がメインなのだから、相模千葉のバッテリーはセットのはずだ。

 相模先輩がすぐに合流できない状態なら、千葉先輩は野手の練習に加わるはずだから、ブルペン組にいるのはおかしい。

「そんなこと言われても俺は困る。お前と違って、相模先輩の追っかけじゃないし」

「そうかぁ……」

 なんだかホッとしたような、余計に顔を合わせづらくなったような気がする。

 というか、俺は別に追っかけじゃないし……と、反論しようとしたところで、コーチから「集合」の声がかかった。

 3年から先頭に2年、1年と並んでいく。この並びはほとんど変わることはないからすぐにランニングが始まる……と思ったが、3年生がなかなか並び終わらない。当然に後ろにつく俺たち2年もなかなか並べない。

 なにか問題でもあったのか、と思って前を覗き込んで分かった。

 部室がある建物の方から相模先輩がものすごい勢いでこちらに向かってきていた。なんだなんだ、と思っているうちにあっという間にこちらに到着していた。

「遅れてすみませんでした」

 到着するなり、コーチに頭を下げる先輩。取材だったにしては早すぎるし、なにより取材ならあんなに必死に走ったりしないだろう。

「相模、お前が遅刻なんて珍しいな」

「宿題の提出について、現国の先生に呼ばれて……」

「そうか、まあいい。みんなを待たせてるからすぐに入れ」

「分かりました」

そう言って先輩は、定位置である列の先頭に加わった。ランニング開始だ。どこのチームもそうであるように、小気味良い掛け声のイチニーサンシーワッショーイのリズムでウォームアップを始める。

走る。

……

走る。

…………

あっぶねー……

 もう少しダラダラしてから来てたら俺も同じことを言ってたとこだった。

 さすがに先輩と同じ理由で遅刻してたら、どう思われてたか分かったもんじゃない。最悪、先生に確認されてたかもしれないし……気乗りしなかったけど、ちゃんと間に合うように来ててよかったぜ。


 15分程のウォームアップが終わったら、ストレッチ。そのあとは、軽めのラダーなどを行って、体を動かしたあとキャッチボールだ。だいたいバッテリーを組んでる相手とキャッチボールをすることが多い。ノースローだったりする日は、投手陣だけストレッチまではチームと一緒にやって、そこからロードワークに行ったりする。だから、投手陣からすると、このキャッチボールが開幕からロードワークなのかどうかの分かれ目だ。

 ただ、さすがに県内ではそこそこの強豪と言われるうちでも、10人以上いる投手がを一気にブルペンに入ることは出来ない。

 このキャッチボールのあとは、実際にブルペンに入って投球練習を行う組と、内野だけが取れるぐらいの広さがある小さなグラウンドで、牽制やフィールディングの練習を行う組に分かれて、練習を行う。

 最初にブルペンに入れるのは、3年生以外だと直近の公式戦で背番号をもらえた2年だけだ。つまり、3年生と俺だけ。俺が次の1番だと認められてるみたいで、この組み分けは結構好きだ。

「もうそろそろ体あったまってきただろ。ブルペン入れるか?」

 30メートルほど離れた位置でこちらの球をミットに収めた坂本がこちらに駆け寄ってきた。

「うーん」

 体も肩ももう充分あったまってきた感じはある。だけど……

「なんか変なとこでもあったか?」

「いや……なんとなくだけど、なんかいつもと違う感じがして……」

「そうか? 受けてる限りはいつも通りだったけど」

「うーん」

 本当になんとなく、だ。どこが変かと言われても自分でもよくわからない。

「ブルペンで投げたら感覚も戻るかも知れないぞ。ひょっとして、どっか痛むのか?」

「いや、体はどこも痛くないんだけど……まあ」

 キャッチボールを始めてからだいぶ時間が経った。3人いる3年のうち、2人はもうブルペンに入っている。相模先輩だけがまだキャッチボールを続けている。

「とりあえずブルペンに入ってみるか……」

 体の感覚は毎日変わる。グラウンドでのキャッチボールでは手応えを感じて自信満々でブルペンに入っても実際は坂本にけちょんけちょんに言われる出来だったり、その逆だってある。今日もそういう日なのかもしれない。

(だけど、今日はそういうのとは違う気がするんだよなぁ……)

 今までにないほど曖昧で、漠然とした不安を抱えながら俺はブルペンへと走っていった。

ここまで目を通して頂き、本当にありがとうございます。

もしお時間がある方は評価、感想を頂ければ、私の次話の執筆の多大なモチベーションになります。

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