グランドで一番高いところ
高校2年生の主人公・今坂御次が先輩である相模圭太郎に触発され、真のエースとしてのプライドとそれに相応しい能力を獲得するに至る、野球ものです。
長編処女作です。完結するといいなー
一個上の先輩には、地元のプロからも注目されているすごい投手がいる。
俺はその先輩と同じチームで戦いたくて、この高校に入学してきたわけだが、まだまだ足元にも及ばないというのが正直な感想だ。俺も中学の時は、地元の高校からいくつか特待生の誘いを受けたぐらいの選手ではあったが、先輩のピッチングを見ていると、自分には本当に才能があるのかという疑問が芽生えてしまう。ブルペンで隣り合って投げているときも、俺は先輩と張り合って負けじと投げ込んでいるのだが、バテバテの俺の隣で先輩は俺よりも一回り威力のあるボールを淡々と投げ込んでいるのを見たときは、しばらく先輩に心配されてしまうほどショックを受けてしまったりもした。
「オッケー! ナイボー!」
そんなこんなだが、今日もブルペンにミットがボールを受ける気持ちの良い音が響く。
「今日は調子いいぜ! やっぱ、俺天才だろ?」
「うるせー。今の球が今日いっぱい続いたら認めてやる!」
キャッチャーの坂本が俺を煽る。いつもの光景だ。
「おう、お疲れ。今日は早いんだな」
「おっす、先輩! お疲れ様です! いやー、今日はいつもにも増して、調子いいんですよ。140位出てるんじゃないっすか?」
「いや、球速の話じゃなくて、ブルペンに入るの早いなって話だったんだが……」
学ラン姿の先輩がブルペンのフェンス越しに声をかけてきた。今は放課後でもうすぐ部活動が始まる。
「なんつーすかねぇ、今日はふつふつと先輩には負けてられねぇって気持ちがわいてきて、先生に言って、ホームルーム抜けさせてもらいました!」
「へぇー、なんて言って抜けてきたんだ? お前んとこの先生厳しいっていっつもお前が言ってたじゃん?」
「先輩に呼び出されたからって」
「俺をダシに使うな!」
この人がさっき話したすごい先輩だ。相模圭太郎先輩。うちの野球部の文句なしのエース、右投げ。最高球速は140キロ後半。公式戦には、地元中の野球少年が先輩のピッチングをみるためだけに球場に来るぐらいだ。マジですごい。なにがすごいって速球派なのに、クレバーな投球が出来るのがすごい。速球で押したと思ったら、カットボールとかツーシームで打たせたりもする。もちろん、速球で押しまくるのもほんとすごい。
「てか、先輩も来るの早くないっすか? 着替えてもないし」
「あっ、ああ。ブルペンで音がしたから、早い時間に誰だろうと思ってさ」
「そうなんすか? でも、先輩早く着替えて、練習始めないと俺が追い抜いて先輩の一番もらっちゃいますよ?」
「はは」
「今の笑い方、結構カチンてきます」
「はは、まあ、言うようになったじゃねえか! 当分は抜かれる気がしないけど。でも、お前に一番とられたら、俺は涼しいベンチでアクエリ片手に試合観戦。どっちにしろいいことづくめだな。じゃまた、あとで」
そう言って先輩は手をひらひらさせながら、部室棟へと向かっていった。良くも悪くもあれが先輩だ。たまに人をおちょくる、というか、いじるのが好きすぎるのが玉にキズだが。
「おい、今坂! さっさと投げろ!」
坂本が俺を急かしてきた。
俺は坂本に向き合い、全体練習が始まるまで、投げ込みを続けた。
今日は調子もいいし、何球だって投げられそうだぜ!