佐々木さんは何だかんだでやっぱりニートっぽいけどニートではないのです。
大学の講義が午後からだったので、正午ちょっと前に起き出して朝食兼昼食をもそもそと食べていると、同じく今しがた起き出してきたところらしい佐々木さんが入ってきて、僕の向こう側に座った。
まだ夢の中に片足を突っ込んでいるようで、ぼんやりとした視線で僕を、というより僕のブランチを眺めている。僕はそれに対して特に反応することもなく、もそもそとご飯を食べ続ける。
「なあユーヤ……最近、どうだ?」
意外と気遣い屋の佐々木さんらしく、沈黙に耐えきれなくなったのか、久し振りに会った親戚のおじさんみたいな話を振ってきた。
「どうって、どんな話で?」
「あー……ほら、大学。もう一ヶ月じゃったな。慣れたか?」
僕は頷く。大学の生活にも慣れてきて、高校時代に比べると自堕落になりつつある気もする。
まあ、半分はこのアパートの人たちにせいと言っても過言ではないと思うけど。
「そっか……なあ、最近なあ、まつげの奴が冷たいんじゃ。どうしたもんかな」
言いながら、僕の皿にあった最後の卵焼きを摘まんで持っていく。僕はそれなりに惜しい気もしたが止めもしない。お供えするような気持ちだ。今日も大学で悪いことのありませんように……もっとも、佐々木さんにそこまでの力はないだろうけれど。
ぺろっとそれを食べてしまった佐々木さんが、じっとこちらを見てくる。もう摘まみ食いできるものは残っていないのだけれど、と思ったけれど、返答を待っているということに気付いた。
「まつげさんですか……そんなことないと思いますけどね」
「そうかの。この間は、わっちの分の洗濯も一緒にしてもらおうと思ったら鬱陶しがられた」
「それはまあそうですよね」
「結局やってくれたんじゃがの」
まつげさんはそういう人だ。で、佐々木さんもこんな感じで、一見ニートみたいな。
僕は味噌汁まで飲み干すと、手を合わせて立ち上がった。食器をまとめてシンクに運ぶ。
「おお、もう行くのかい」
首だけ巡らせて訊いてくる佐々木さんに、僕は軽く頷いて返す。僕の椅子の脇に置いていた鞄を佐々木さんが拾ってくれて、それを受け取ってからドア横の鏡を見る。
当然のことながら、僕が写っている。
うん、今日も冴えない。
「おや、寝ぐせが立っとる。どれ」
後ろから鏡を覗き込んできた佐々木さんが、背伸びをして僕のその跳ねた髪を撫でる。佐々木さんはその実年齢を聞くと仰天するけれど、見た目は普通に美人さんなのでちょっと気恥ずかしかったりする。
佐々木さんも鏡に映るんだなあと無表情に思っている間に、佐々木さんのそれも終了した。
「……おかしいのう、むしろさっきより酷くなった」
本当に不思議だなあ。起き抜けより髪が荒れている。スーパーなんとかみたいじゃ、と佐々木さんは笑った。最上さんのとこにあったの、佐々木さんこの間読んでたっけかな。
まあいいさ、と僕は戸を開けて玄関に出る。
靴を履いて、後ろについてきた佐々木さんに振り返る。
「じゃあ、行ってきます」
「おう、行ってらっしゃい。気を付けての」
緩く手を振りながら、ほわあ、と欠伸などする佐々木さん。大方、僕を見送った後はまた寝るのだろう。今日あとこのアパートに残っているのは、佐々木さんと木鈴さんだけだったと思うけれど、木鈴さんは今日は全休だって言ってたし、夕方まで起きてくることもないだろう。
アパートを出て、住民全員に支給されている鍵で戸を閉める。締め忘れると、佐々木さんだけでは不用心で……と言っても、律儀に締めているのは僕だけなんだけれど。
ニートみたいとか何だかんだ言って、佐々木さんはちゃんと御仕事をしている。
ただ、屋敷神である佐々木さんの仕事風景が、ちょっとニートっぽいだけなのだ。