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第2話 少女

「何でお前が連れて行くんだよ? 発見したのは俺だぞ?」

 マーベリックはコクピットで口を尖らせた。

「発見したのなら俺だって同じだ」

 エステルのコクピット後部にあるサブ・シートに、その少女はちょこんと座っていた。

 彼女は眼下に流れるジャングルの景色を飽きもせずに眺めている。その姿はとても捕獲されている様には見えなかった。

 不平不満のマーベリックだったが、少女は明らかに自分よりもエステルを選んでいた。

 彼が少女に近付いた途端、少女はあからさまに怯え、その手はエステルのパイロットスーツの端をしっかりと握り締めて放さなかったからだ。

「マーベリックが厳つい顔して睨むからだよ」

 そう冗談っぽく言って中性的な物腰のエステルが笑った。

「別に、睨んだりしてないさ」

 ムッとして言い返す。

(顔やガタイは生まれつきだからどうしようも無いじゃないか……畜生、エステルは女みたいな顔立ちだから女に安心されて享けるんだよ……)

 世の中、不平等だとマーベリックはボヤイた。



「おいで、傷を診てやるよ」

 エステルは少女に食事と傷の治療薬を持って来てやった。

 檻に入れられた少女は小さくなって隅にうずくまっていた。少女の首には既に軍の研究員から逃亡防止の首輪が留められている。見た目にはシンプルな銀のチョーカーだが、その機能は遠隔操作のスタンガンのような物だ。

 エステルは少女に留められた首輪を見て可哀想だと思った。

 捕獲の命令が下っていたが、自分がわざと取り逃がしていれば、この少女は檻に入れられる事も無かっただろうに……そう思うと少女に対して申し訳なかった。

 視線を少女の脚に遣った。少女の右脹脛(みぎふくらはぎ)には捕獲後に受けたと思われる大きな裂傷があった。エステルは彼女を発見した直後に気付いていたが、その時は治療薬など所持していなかったのだ。

(傷の手当ぐらいして遣れば良いのに……)

 一度少女は研究員達に渡っている。彼女が負傷しているかぐらい判りそうなものだ。

 少女はエステルを見上げると、のそりと緩慢に反応した。右足をかばう様に引き摺りながらエステルの居る檻の扉まで寄って来る。

「お腹が空いているだろう? さ、お食べ」

 エステルは自分達と同様の食事が盛り付けてあるトレーを少女に差し出した。

「チイ?」

 少女はエステルに問い掛ける視線を送るだけで、手を出そうとはしなかった。

「そんなに不味いとは思わないが……軍のレーションじゃ口に合わないのか?」

(駄目だな。言葉がまるっきり通じない……)

 それでもエステルの言った言葉には反応を示す。

 言語が通じなくても何とかアイ・コンタクトでコミュニケーションが取れそうだった。


 すぐ隣の建物から、女の甘く切ない声が聞こえて来た。兵士達の慰問に来た女達の艶声だった。

 少女はその声に興味を持ち、じっと耳を傾(ける。

「こ、こら。聴かなくていい」

 エステルは少女の傷に治療薬を塗って遣りながら頬を赤らめた。

 少女の右足は片膝を立てた状態で、エステルが着せたタンクトップが少女の腰までたくし上げられていた。視線の角度さえ変えれば意図(も簡単に秘所が覗ける。興味が無いと言えば嘘(になるが、生憎幼い彼女の身体で興奮する気にはなれなかった。



「アーヴ! 聴いてくれ! 凄い奴を俺達が捕まえた!」

 戦禍で重傷を負った少年のアーヴィンの許を訪ねて、軍の医療キャンプへ来たエステルは息をはずませながらも嬉しそうだった。

 アーヴィンもエステルと同じく銀髪に赤銅色の肌。そして蒼い瞳を持つ「グレネイチャ」と呼ばれる奴隷難民の種族だった。

 十歳になる小柄で痩せた子供はやたらと眼光の鋭い少年だった。

 先日(の軍に因る誤爆の被害者の一人で、エステルが偶然にも被災地から助け出したのだ。

 同じグレネイチャ同士……とは言っても、品行方正なエステルとは違って、見た目がスラムあがりの様なアーヴィンではあったが、不思議と二人のは良好なものだった。

 エステルがその話を切り出すまでは――

「いいか? 驚くなよ? あのな……」

「だから、何だってンだよ?」

 勿体もったいを付けるエステルにアーヴィンは医療ベッドの上で焦れた。十歳以上も年上のエステルに向かってのタメグチである。此処まで来ると、度胸があるのだか単なる馬鹿なのだか……

「有翅人のメーヴを捕まえたんだ。本当に綺麗な翅があるんだぞ? 凄いだろう? お前が動ける様になったら見せて遣るぞ?」

 御伽噺だとか幻だとか言われていた、翅を持った人間――エステルはその種族を捕獲したと伝えた。

 一瞬でアーヴィンの顔色が曇った。ただでさえ悪い目付きが一層凄みを増してエステルをにらみ付ける。

「可愛い女の子だ。多分、お前と同じ年頃じゃないのかな?」

「ハン! どうせまた何処かの村でも襲って捕虜にした女じゃねーのか?」

 アーヴィンは全くエステルの言葉を信じていない。

「あのS‐2と並走して飛行していたんだ」

「あー? 夢でも見てんじゃねーのか? フカシてんじゃねーっての」

 アーヴィンの礼を失した言葉にも、エステルはにこりと余裕で微笑んだ。

「……?」

 態と怒らせようとしていたアーヴィンが、彼の態度に一瞬怯む。

 エステルはアーヴィンのそんな表情を見逃さない。アーヴィンも見掛け倒しではないエステルのすきの無さには正直驚いていた。

「女の子……って言ってたけど、もうヤッチャッたのか?」

 急にアーヴィンの声調トーンが下がり、暗くなる。

「え?」

 エステルはアーヴィンの言葉の意味が理解出来なくて首を傾げた。

「その娘とヤッたのかって聴いているんだよ」

 苛々しながら食って掛かった。

「ヤッた……って? 何言ってる?」

 子供の口からは到底聴けそうに無い言葉に、エステルは困惑した。

とぼけるなよ! 俺はいろんな奴等を知っているさ。兵士の全部がそうってワケじゃないけど、アンタ達の一部の奴等には、争いとは関係の無い村を襲って略奪を繰り返しているのも居る。こんな辺境の惑星(ほし)での内乱でさえ「連邦軍」っていうご大層な大儀名文を掲げて首を突っ込み掻き回す。挙句に今度は有翅人の捕獲だあ? 有翅族(メーヴ)はこの星での「神」として神聖に扱われている生き物なんだ」

「か……「神」? だって?」

「ああ、その神聖な「神」を面白半分にアンタは地上へ引き摺り落とした!」

「……」

「頼むから、早くその娘を逃がして遣ってくれよ」

「……しかし……」

 エステルは言葉を失った。命令は絶対だ。今更どうやって捕獲した少女を逃がす事が出来るだろうか?

「頼むよ……「神」が(けが)されないうちに逃がしてやってよ」

 縋り付く様な眼で身動き一つ取れないアーヴィンは、エステルをベッドから見上げた。

「汚される……って」

 エステルはアーヴィンの言葉に一抹の不安を抱いて空軍基地に戻った。


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