ドラゴンタクシー
昔々、「ドラゴンタクシー」と言われる龍がいた。
彼は自由に空を飛び、人々を行きたいところへと連れて行ってくれる優しい龍なのでした。
その龍は鱗が緑色で、蛇の様な体に角の生えた馬の様な顔をしていました。
ある日のことです。彼はいつもの様に山の奥にある村へ行き、道に迷った人を探していました。
「誰か道に迷ってはおらぬかのう」
すると一人の老人を見ました。
彼は森の中をとぼとぼと歩き、谷間から外の村へ出ていくのに困っているようでした。
びゅうーびゅうーと龍は一目散に老人の所へと向かいました。
「おいおじいさんや、道に迷ってはおらぬかのう?わしが行きたいところへと連れてってやろうか?」
すると老人は答えました。
「わしは谷間を抜けた村に薬を買いに行くとこなんじゃ。」
老人はか細い声でした。杖をついて歩いており、頭は白髪で、ひどく疲れ切った様子でした。
「わしの背中にお乗りなさいや。」
そう言って龍は老人を抱きかかえて、ひゅいっと自分の背中に乗せました。
「悪いのう、ありがたや、ありがたや。」
龍はにっこり笑って赤面しました。
「わしは褒められるのはなれておらんでの。」
龍は天界にいたころはとてもこき使われていて、一度も褒められたことがありませんでした。
すると、老人は言いました。
「お前さんの様な優しい龍が褒められてないことは不思議な事じゃ。」
そうして、龍は、隣の村へ、赤面しながら、向かったのでした。
薬屋さんへ着くと、老人は尋ねました。
「お金は薬を買う分でしか、もっとらんでのう。」
龍は言いました。
「ええんじゃええんじゃ。わしは何ももらわんよ。」
龍は優しいのでした。
そのあとご老人は薬を飲んで、元気を取り戻しました。
「ありがたや、ありがたや。」
龍はそう言われてまた赤面しました。
そうしてまた、道に迷った人々を探し始めたのです。
しばらくしてからの事、龍は天界に戻ってくるように命令を受けました。
それもそうです。龍は、天界から逃げてきたのです。
逃げてから、20年彼は迷っていた人々を助けたのでした。
しかし、彼は、戻る前に、もう一度あの老人に会いたいと思いました。
「あのおじいさんは、元気にしとるかのう。」
しかし、その谷間の村には、もう老人は住んでいませんでした。
村人に聞いてみると、その老人は、2、3日前に亡くなったとのことでした。
仕方なく、龍はその老人のお墓詣りに行きました。
龍がその老人のお墓に行くと一人のお坊さんがいました。
どうやらその坊さんは何か困った顔をしていたのでした。
「おーいお坊さんや、どうしてそんな困った顔をしとるんじゃ?」
するとそのお坊さんは言いました。
「わしはこのじいさんから遺言状をあずかっとったんじゃが、どうにも、それをするのが、難しいのじゃ。」
その遺言には、自分の遺骨を、孫に渡してほしいと書いていました。
「たやすい御用じゃ、わしが骨を孫の所へ渡しに行こう。」
「悪いのう。ありがたや」
そういって、お坊さんは、老人の骨が入った袋をもって、龍に感謝しました。
龍は、また坊さんを、背中に乗せました。
龍は孫を探して、そこらじゅうを飛び回りました。
しかし、どこにも孫が見当たりませんでした。
龍は世界中を飛び回り、海を越え山を越え、とうとう天界の入り口まで来てしまいました。
「もしかすると、お孫さんは、天界に居るのかもしれん。」
お坊さんは言いました。
龍は本当は戻りたくはありませんでしたが、仕方なく天界に入っていきました。
すると、入り口で、誰かが、迷っていました。
「おじいさんはどごじゃ、どこじゃ」
それはおじいさんの孫でした。
龍はそれを見るとすぐにその孫の所へ行きました。
「おじいさんはこの袋の中じゃ。」
お坊さんはそういって、その孫に袋を渡しました。
「おじいさんはもういないのかい。」
孫は悲しそうに言いました。
お坊さんも悲しみました。
すると龍は言いました。
「大王様に相談したら、おじいさんに会えるかもしれんの。」
「本当かい、連れて行ってくれんかのう」
すると龍は、二人を乗せて、大王様の所へ行きました。
「大王様、この二人に、おじいさんを合わせてやってくれんかのう。」
大王様は言いました。
「お前の言う事はできん
「しかし、お前の目をわしにくれたのなら、会わせてやろう。」
龍はそういわれて、少しためらいました。
「目がなかったら、誰も乗せられなくなります。」
すると大王は言いました。
「乗っている者がお前にどこへ行くのか、指示すればええんじゃ。」
孫は言いました。
「わしはそこまでしてもらわんでもいいがのう」
「ええんじゃええんじゃ。」
そういって、龍は目を大王様に差し出しました。
「よかろうよかろう、好きなだけ会わせてやろう。」
大王はそういうと、おじいさんの所へ案内しました。
「おお、孫や、元気にしとったかのう」
「おじいさんや、さみしかったんじゃ。
この龍がわしを連れてきてくれたんじゃ。そして、大王様に目を取られてしもた。」
「そうかい、龍さんや、ありがたや」
おじいさんは、とてもうれしそうに龍に言いました。
すると、龍はまた赤面しました。
「ええんじゃええんじゃ。」
するとお坊さんは言いました。
「龍さんや、わしらお前さんに大いに感謝しとる。
ここでじゃ、一つ、わしだけを下界に降ろしてくれんかのう」
龍はそれを聞いて、すこしためらいましたが、
言われたとおりにお坊さんだけを下界に連れて行きました。
そうして、お坊さんは下界に降りるとすぐに遺言状を書き始めました。
「わしの死んだあと、だれか天界にわしの孫を連れてきてほしい」
そう書いた後、お坊さんは、その遺言状を隣の村のお坊さんへ渡しました。
「龍さんや、わしが死んだあと、また下界に来ておくれ。」
そういって、龍とお坊さんは別れ別れになりました。
龍はそのお坊さんが死んだあと、隣の村のお坊さんの所へ行きました。
「わしが、天界につれていってやろう。」
龍はそう言ってお坊さんを、乗せ、そして、孫も乗せて、天界にいきました。
すると、龍は、大王様におじいさんに会いたいといって、おじいさんの所へ行きました。
そこには、おじいさんとおじいさんの孫と、お坊さんがいました。
「ありがたや、おじいさんの孫を連れて帰ってくれるか」
するともう一人のお坊さんがいました。
「ええがのう、なんでこんなことをわしがせんにゃならんのだ」
お坊さんがいました。
「帰った後に遺言状を書いてもらいたいのじゃ。」
その内容は
「わしがしんだあと、天界に孫を連れてきてほしい」
であった。
お坊さんはそういうことかといって、また下界に帰っていきました。
そのあとも、村の人々の間で遺言状にこう書くことが流行りました。
「孫を天界につれていってほしい。」