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椎岳町龍神録

龍神様の池

作者: 烏木真

 椎岳神社の敷地には割と大きな池があり、その真ん中の小さな島にこれまた小さな祠がある。

本当の御神体はあっちで皆がお参りする御社の方が後にできたのだと言う噂だった。

この祠、近所の子供たちの度胸だめしに使われる。


 右手に小石を一つ持ち、水面から顔を出している岩や石の上を跳んで祠のある島に行き、小石を置いて同じくらいの大きさの石を選ぶ。それを今度は左手に持って帰るのだ。これができる奴は勇気がある。挑戦しなければ臆病もの。濡れて苔が生えた岩は滑りやすく、毎年のように落ちる子供が出るのが常だった。


 見た目よりもずっと深い池は、本当は大人でも命を落としかねない危険な場所である。度々若い母親や近所の人たちから柵を立てろだの、ネットをはれだのといった要求が来る。酷い時など埋め立ての署名を集めようとしたものもいた。それでもそれらの話が何となく立ち消えになってきたのは、やはり信仰の場であるからなのだろう。何よりも、子供たちの親も、その親も、皆があの池に落ちてきて、そうして誰もが無事に帰り、その体験を懐かしく思っているのだった。結局のところ苦い顔した神主さんが看板一枚立てるくらいで(毎回悪餓鬼の相手をさせられるわけだから当然だろう)終わってしまう。


 たいていの子は浅いところで転んだだけだったり、自力で泳いで帰ってくるが、たまに思わぬ深いところに落ちてしまったり、恐ろしさで動けなくなったりする子が出る。


 そんな時、子供らの襟首は何かにぐいっとひっつかまれてあれよあれよという間に浅瀬に連れて行かれる。

―中には水の中に細く長い影や、陽の光を反射して光る緑の輝きを見る子もいるかもしれない。


 気がつくと岸に立っていて、濡鼠の体を見知らぬ青年に見下ろされている。にやにやと人の悪い笑みを浮かべた青年は、その子の涙でぐしょぐしょの顔を人差し指でつんとつつき、乾いた布を放り投げてくる。濡れた体を拭き終わり、駆けつけた大人たちに大きなげんこつをもらう頃には―青年はどこかに消えているのだった。


そんなことが、もう二百年ばかり続いている。


                  〈了〉


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